日本時間の9月10日午前2時、Appleの新製品発表がストリーミング配信された。発表された製品は、腕時計型ウェアラブル・デバイスの「Apple Watch」シリーズ、無線イヤホンの「AirPods」シリーズ、そして「iPhone 16」シリーズの3系列だ。
今回は需要の大きなiPhone 16シリーズを中心に、Appleの新しいプロダクトをチェックしていきたい。
◆Apple WatchとAirPodsで10倍健康に!?
ティム・クックCEOの肝いりで市場投入された腕時計「Apple Watch」は、いよいよ第10世代(「Series 10」)に突入し、ディスプレイの面積が約30%も大きくなった。日常のフィットネスに役立ったり、心室細動の患者を救命したりと、健康維持の相棒だと大いにアピールしている。
人気の無線イヤホン「AirPods」もリニューアル。検査で耳の衰えを記録し、難聴への対策ができるようになった。Appleといえば、かつては「iPodが難聴を引き起こす」という訴訟を受けたこともあったが、昨今のヘルスケア路線はクックCEOのカラーといっていいだろう。
テクノロジーによる障害の克服も、現代社会の目指すところである。難聴の人が最新の「AirPods Pro 2」を付けると、相手の言葉がはっきりと、十分な音で聞き取れるようになるらしい。
視力と並んで聴力も、加齢とともに衰えていく。近い将来AirPodsは、メガネと同じような位置付けのデバイスになるのかもしれない。
◆「Apple Intelligence」は英語だけ!
市場の想定通り、Appleは今秋にiPhone 16シリーズを発売。ラインナップは「iPhone 16」「iPhone 16 Plus」「iPhone 16 Pro」「iPhone 16 Pro Max」の4モデルで、持ちやすい「mini」は今回も復活できなかった。
カメラボタンの新設など多くの新要素がある中で、一番の目玉は「Apple Intelligence」である。これは略せば「AI」となるが、いま一般に言われている「AI(人工知能)」と概ね同じものだと考えて差し支えない。
下書き状態のレポートをAIに書き直させたり、AIに作らせたオリジナルの絵文字をメッセージで送信したりといったことが可能になるほか、勤続13年のバーチャル・アシスタント「Siri」も、さながら現実の秘書のように賢くなるのだという。
カメラを向けるだけであらゆる調べ物が可能な「Visual Intelligence」も導入される。昨今盛んにテレビCMが打たれている「Googleレンズ」と同種の機能だが、Appleは「AI用のサーバーに個人情報を保存しない」と宣言し、プライバシー保護によって差別化を図っている。
ただし、主要なAI新機能をいち早く利用できるのは英語話者だけで、Apple Intelligenceの日本語対応は2025年になるとアナウンスされた。英語版もベータテストの段階なので仕方ないのだが、正直に言って、iPhone 16を発売日に買う喜びは半減だ。
◆やはり拭えぬ“高止まり”感
機能やデザインをアピールしたいAppleには申し訳ないが、日本の消費者が一番関心を持っているのはやはり、新型iPhoneの価格設定だろう。
歴史的水準の円安が始まった2022年以来、Apple製品をはじめとする電子機器類は買いにくい状態が続いている。今回も値上げを心配していたAppleユーザーが多いことと思うが、iPhone 16シリーズは、昨年リリースされた15シリーズと変わらない価格となった。PS5など他社製品で値上がりがニュースになっているなか、“お値段据え置き”には安堵の声が聞かれている。
アメリカ価格で799ドルのiPhone 16(標準モデル)は、日本価格だと税込み124800円となる。これを税抜き価格に直すと113455円で、Appleは1ドル=142円を前提に商売していることがわかる。
これまでのAppleは、実勢以上の円安を前提にした価格を設定することが多かった。しかし発表時点での為替レート(142円33銭)と比較すると、今回のiPhone 16はわずかながら円高に振った値段であり、日本の消費者にとってはありがたいところだ。
それでも、12万円オーバーのスマートフォンを“安い”と言うのは難しい。iPhoneには廉価モデルの「iPhone SE」があり、来年春のモデルチェンジが有力視されているため、それを待つという選択も賢明だろう。どうせ「Apple Intelligence」の日本語解禁は来年なのだから。
◆クラウドか、オンデバイスか
最後に、AppleとAIの“次なる葛藤”を考えて終わりたい。
クリエイター層への配慮から、これまで生成AIへの言及を避けがちだったAppleも、いよいよAI方面に舵を切った。しかしその先には、またしても難しい分かれ道がある。「クラウドか、オンデバイスか」という二択である。
たとえばChatGPTは、古いスマホや格安のノートPCからでも問題なく利用できる。世界のどこかにある巨大なクラウドサーバーが、AIに必要な計算を担って、その計算結果を返してくれるからだ。
このやり方(クラウドコンピューティング)は合理的だが、機密保持に不安があるほか、アダルト関連の生成に制限がかかるなどの理由から、一部では自宅のPCで生成AIを動かす「ローカル生成」も試されている。
最新のiPhone 16は、オンデバイスで(スマホ内だけで)生成AIを実行できる性能を有している。しかしAppleは同じ発表中に、「Private Cloud Compute」と銘打ち、クラウドサーバーでのAI処理もやると宣言した。それならばユーザーが持つのは、古いiPhoneとか、次に発売されるiPhone SEでも十分なはずで、どうもちぐはぐだ。
もっとも、手頃なオンデバイスAIと強力なクラウドAIを賢く使い分けるのなら、iPhone 16の性能が無駄になるわけではない。日本市場の本命であるiPhone SEのリニューアル後も、iPhone 16は“憧れのAIスマホ”としての存在感を放つものと予想する。
<TEXT/ジャンヤー宇都>
【ジャンヤー宇都】
「平成時代の子ども文化」全般を愛するフリーライター。単著に『多摩あるある』と『オタサーの姫 〜オタク過密時代の植生学〜』(ともにTOブックス)ほか雑誌・MOOKなどに執筆
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