ソフトバンクグループが、東京国税局から370億円の「申告漏れ」を指摘されたことがわかりました。2020年に海外でのM&Aに関連して行われた株式取得に関連するものですが、同社は言わずと知れた大企業であり、税務顧問も一流の専門家を抱えているはずです。それでも「間違えた」ということは、制度が複雑かつややこしいことが推察されます。背景として考えられるものは何か、概要をわかりやすく解説します。

法人が株式を取得する場合の課税関係

まず、前提として、法人が株式を取得する場合の課税関係について解説します。

株式を取得した場合、それに付随してかかった費用は、「取得価額」と扱われます。これは、費用ではありますが、「資産」に計上されます。税務上は「損金」に算入されることはありません。

なぜそのような扱いになるかというと、将来、その株式を売却した場合に、売却益に税金(法人税等)がかかるからです。

売却益は以下の計算式を用いて算出します。

株式の売却益=譲渡金額-取得価額

国税庁が指摘したソフトバンクの「申告漏れ」とは、本来この「取得価額」に含めるべき費用を、株式取得と無関係な「雑損失」として計上したことをさすとみられます。

すなわち、株式取得のメリットやリスク等を確認するのに必要な調査(デューデリジェンス)を行うのにかかった費用について、本来ならば株式取得のための「取得価額」と扱うべきものを「雑損失」として損金計上してしまったということです。

背景に「デューデリジェンス」の扱いのややこしさ

ソフトバンクグループの公式発表によれば、税務当局との「経費計上のタイミングなどの見解の相違」があったとのことです。

それは何を意味するか、ここでもう一つ解説を加えなければなりません。

先述した「デューデリジェンス」は、大きく2つに分けることができます。すなわち、株主総会等による「株式取得の意思決定」の「前」か「後」かで、税務上の扱いが異なるのです。以下の通りです。

◆株式取得の意思決定の「後」

まず、株式取得の意思決定がなされたあとのデューデリジェンスは、株式取得自体が目的なので、その費用は「取得価額」として資産計上されます。この理屈はシンプルです。

◆株式取得の意思決定の「前」

これに対し、株式取得の意思決定のまえに行われたデューデリジェンスについては、少しややこしい問題をはらんでいます。

どういうことかというと、この場合のデューデリジェンスは、通常は、株式取得自体ではなく、その是非を判断する意思決定のためのものといえます。したがって、その費用は、原則として、会社の一般的な「必要経費」と扱われ、税務上、「損金」に算入してよいということになります。

ただし、株式取得の蓋然性がある程度高い状態に達していた、いわば「話がほぼ煮詰まっていた」「とうに機が熟していた」といえる場合は、実質的にみて、株式取得のためのものと評価されます。したがって、株式取得の正式な意思決定が行われるまえであっても、「取得価額」の一環とみられることがあります。

この判断は微妙なケースがあると想定されます。また、費用を支出したタイミング、すなわち「経費計上のタイミング」が問題になり得ます。したがって、ソフトバンクグループが表明している国税庁との「見解の相違」はこの点にあった可能性が考えられます。

今後に残された課題

ソフトバンクグループのような、多数の専門家を抱えた巨大企業においてさえ、本件のような事態が生じていることからすると、今後、本件と同様、または類似の問題が発生する可能性があります。

そのためにも、ルールのさらなる明確化・精緻化が求められます。グローバルなM&Aや組織再編が絡む場合はなおさらです。

また、昨今、政府・税務当局の税制に対する姿勢には、租税法律主義、課税の公平等、税法の基本原理を重視する観点から疑念が高まっています。それらが蔑ろにされることがないよう、政府・国会には、税制の設計・構築に関するあらゆる局面において慎重かつ理性的な判断が求められます。