マランツは9月10日、HDMI入力やネットワーク再生に対応した一体型アンプ「MODEL 60n」を発表した。価格は24万2000円。
「MODEL 40n」(38万5000円)よりも手軽に購入できるモデルとして企画。HDMI ARC、Bluetooth送受信、HEOSの新モジュールによる最大11.2MHzのDSD再生、デジタル/アナログの豊富な入出力などを備える。なお、BluetoothのコーデックはSBCのみで、送信時の音量調整は本体では不可となる。
発売は10月上旬を予定している。
HEOS搭載、HDMI音声も高音質に再生
ネットワーク再生については、D&Mで開発しているネットワークモジュール「HEOS」を用いて提供。Amazon Music HDなどを含むインターネットストリーミング、LAN内のネットワーク再生機能に加えて、HDMI ARCを含む、豊富なデジタル入出力機能も利用できる。
DACは非公表だが「ESS9018K2M」を使用しているようだ。アナログステージにはHDAM、HDAM-SA2、HDAM-SA3などを活用。2019年の「PM7000N」などと比較した進化ポイントは、同じ出力でもパワーアンプ回路の電圧増幅段をMODEL 50と同等の構成としたこと。ダイオードを使って簡略化していた部分をトランジスターを使用して改善しているほか、プリアンプ部も上級機と同様に進化させ、最大67%の低歪み化を果たした。フォノイコライザーなどはPM7000Nと同じだが、音質チューニングはしなおしている。
高さはPM7000Nとほぼ同じだという(NR1200よりは高い)。
MODEL 40n譲りの高品位なHDMI ARC再生にも対応。音声信号はHDMIインタフェースをバイパスしたPCM信号の受信(S/PDIF経由でDIRフィルターへ直接入力)が可能となっている。シャーシや足回り、操作の質感も強化している。
部品も専用のカスタムブロックコンデンサーをはじめとして、上級モデルに準ずるものを使用。内部レイアウトは中央にパワーアンプ基板を垂直に置き、そこに横向きにカスタムコンデンサーを直接マウントしている。デジタル基板はHEOSモジュールのヒートシンク部が露出しているものの全体がシールドされている。DAC ICについても前述したように強化しているという。
定格出力は80W+80W(4Ω)、60W+60W(8Ω)。全高調波歪み率は0.02%(20Hz〜20kHz)。ダンピングファクターは100以上、S/N比は113dB。入力端子はアナログ(RCA)3系統、PHONE(MM)、HDMI ARC、同軸デジタル、光デジタル、USB A。出力端子はプリアウト(RCA、2.1ch)、ヘッドホン、通信機能はEthernet、Bluetooth、Wi-Fi(2.4GHz/5GHz)、リモコン入出力(RC-5)ほか。
本体サイズは幅442×431×高さ129mm(ロッドアンテナを寝かせた場合)、重量は13kg。
いい音を身近にする一体型ネットワーク機
マランツ試聴室で「SA-10」と組み合わせ、PM7000Nと比較試聴できた。豊富なデジタル入力を持つ点が特徴の機種だが、アンプとしての素性を示すため、アナログ入力を使ったデモとなっている。
96kHz/24bitの音源として、大西順子「Malcolm Vibraphone X ft N/K OMSB」を聴く。冒頭のドラムスの連打があり、アタックの多いフレーズが続く。立ち上がり/立ち下がりの明瞭感やキレの良さが問われる音源に感じた。PM7000NとB&W 801 D4の組み合わせでは音に少し混濁感がある。MODEL 60nでは音の粒立ちというか、冒頭に入るドラムス連打の音がよく分離しつつ、それに下に連なる低音が一体となって鳴るため、音に安定感や重量感が加わる。結果、リアル感が増すわけだ。
Mombasaの「2Cellos」はアフリカンな独特のリズムパターン、早く小刻みで疾走感のあるフレーズが耳に残る楽曲。ここもビート感の再現、音の立ち上がりの速さ、S/N感の高さなどがポイントとなる。シンセ系のベース、弦楽器を擦るような音などのニュアンスの再現も重要になりそうな楽曲だ。両機種を比較すると、MODEL 60nは定位感が非常にハッキリし、中心となる打楽器とその周囲に定位するストリングス系の楽器の音の配置が明瞭、空間の奥行きもより深くなる。
女性ボーカルとして、エンヤの「Even in the Shadows」(CD品質)。声の再現に加えて、ピアノとベースで定期的に刻む、ずんずんずんというリズム、ピアノの和音の重量感や硬質さの再現などにリアリティがあるかを念頭に置いて聞く。まず、ボーカルは中央に明確に定位。バックの伴奏はアンビエントで広がり感があり、音に包まれる感じがある。MODEL 60nでは、ずんずん……と連なるビート感がそれほど目立たないが、これは誇張感が減り、より自然な再現になったということでもある。比べるとPM7000Nは音楽全体というよりも個別の音を聞いているという印象があるが、MODEL 60nはそれが調和して聞こえる。自然なビートの上に、広がりある音が乗っかってくる重層感がより明確になった。
最後が小林研一郎指揮 ロンドンフィルの「ムソルグスキー:展覧会の絵」。フィナーレの手前に来る、バーバ・ヤーガの小屋。最初のストリングス、アタックのある低域、その後に入ってくるブラスの音色やピチカートのトランジェント、金管楽器の主題、ティンパニーのズンという響き、時折入るスネア系の音など華やかなオーケストレーションによって聞きどころが多い曲だ。
個人的に注目したのは低域の響き(厚みや音階感)とスネア系の抜け感である。PM7000Nを聞いた後に聞くと、トーンバランスが明らかに良いと感じる。全体のまとまり感が出てきて、チグハグな感じが消える。同時に、全ての楽器の音が細かく聞こえるようになる。アタックの深さ、空間の立体感など全体のクオリティも上がる印象だった。
以上4曲を試聴。全体を通した感想としては「この声、この打楽器」といった個別の音を聞いているという意識が薄まり、音楽や曲としてトータルの表現が上がる印象だ。結果、意識も自然と音楽全体に向かっていく感覚だ。あからさまなS/N感の変化などはないが、音の奥行きは上がり、シャーシーの強化による安定感がある音質とも言える。
使用パーツについてはPM7000Nから継続しているものもあるが、同じ型番でも中で使用する材料が微妙に変わったりもしており、完全に同一とは言えない場合が多いという。供給状況の変化により、同じ部品が入手できなくなり、変更を余儀なくされる場合もある。こういった場合でも「変えるからには同等以上の音を目指す」姿勢で取り組んでいるとサウンドマスターの尾形好宣氏はコメントしていた。音の変化で影響が大きいのは、構造、回路、パーツなどだが、音の立体感が改善する場合、一番影響するのは歪みの減少だという。
剛性感、使用感など細かなフィーリングにも踏み込む
構造については、重量は2kgほどアップしており、その分剛性が上がり、ねじれにも強くなっている。ボトムのを追加については、価格を上げる以上は絶対に必要な改善であると、サウンドマスターから強くアピールした部分だという。
PM7000NはHDMI入力を搭載していなかっため、直接の比較はできないが、世代は新しいものの内容的にはMODEL 40nに匹敵するものになっているそうだ。
MODEL 60nはMODEL 40nをより手軽にした機種ということもあり、MODEL 40nとの差分も気になるところだ。機能は大きく変わらないものの、パワーアンプやシャーシなどは全く異なるという。例えば、シャーシはMODEL 40nは3分割だが、MODEL 60nは底板1枚となっている。フロント部のイルミネーションなども省略して低コスト化を図っている。
ダイヤルの手触りについては機構担当がロータリーエンコーダーに工夫を施したという。部品として質感がいいものを手に入れるのは困難であるため、上のグレードは質感を良くするためににロータリーエンコーダーの先に機構パーツを入れて対策している。MODEL 60nではそこまでのコストはかけられないため、ロータリーエンコーダーの先に直接ノブを取り付けているが、その機構を工夫したそうだ。
2017年ごろまでのマランツは、CDプレーヤーをメインにしたラインアップを展開してきたが、ソースの多様化に合わせて、2019年に「PM7000N」をヨーロッパ市場中心に展開。さらに、2019年10月には、ステレオ再生機ながらAVアンプのようにHDMI端子を搭載し、テレビ台にもスリムに置ける「NR1200」を発売し、新しい市場を作った。その上位となるのが「MODEL 40n」だが、動機は2023年8月〜2024年7月のHi-Fiコンポーネントシェアで年間売り上げシェアNo.1の成果を納めたほどの人気機種となっている。
リビングにもう一度オーディオを!
オーディオは従来の音楽中心の楽しみ方だけでなく、テレビと組み合わせてリビングで高音質を楽しみたい層も増えている。MODEL 60nは後者に向けたシステムで、インフレで値上がりしてしまったMODEL 40nと市場の隔たりを埋めるたもの製品でもある。スピーカーで言えば、B&W 600シリーズあたりからと組み合わせてスマートにいい音を体験するのがカッコ良い。現行の600シリーズは、上位機の技術をいい形で取り入れて個人的にコストバランスがいい機種に仕上がっていると思う面もあるので、良い組み合わせだろう。
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