岸田首相はいよいよ「異次元の少子化対策」に本腰の様子だ。「非正規労働者などを対象とした新たな子育て支援の給付制度」など、幅広い対策が盛り込まれる模様だが、しかしそれ以前に、2022年に驚きをもって報じられた「非正規男性の生涯未婚率が6割」の課題解決のほうが急務ではないだろうか。実情を見ていく。

岸田総理、少子化対策に「本腰」だが…

先日報道された岸田首相の「異次元の少子化対策」だが、その具現化に向けて岸田総理大臣指示のもと、小倉少子化担当大臣のところへ関係府省による新たな会議を集積。3月末をめどにたたき台をまとめる方針となり、19日は永田町の合同庁舎で初会合が行われた。

マスコミ報道でも、小倉少子化担当大臣の意気込みが伝えられたが、政府は少子化対策に本腰を入れて取り組む姿勢を見せている。

大まかな概要は3月末のたたき台で見えてくると思われるが、岸田総理大臣1月4日、年頭の記者会見で「異次元の少子化対策に挑戦する年にしたい」と固い決意を述べている。2022年の年間出生数は80万人割れ。国の存亡にかかわるこの危機的状況により、いよいよお尻に火がついたということか。

なお、4日の会見では「非正規労働者などを対象とした新たな子育て支援の給付制度を新設」という内容もあった。給付対象は、育休を取得できない非正規労働者や自営業者などで、財源は年金や医療保険、社会保険料を合わせ「月に数百円程度」引き上げ、拠出金を積み立てるという。

もともと「育児休業給付金」は、原則として1歳未満の子どもを養育するために従業員が休業した場合に支給されるというもので、受給対象は雇用保険制度に加入している会社員であり、自営業者などは含まれていなかった。今回はその「対象外」にまで広く援助を行き渡らせることを考えているようだ。

この報道に「子どもあきらめている非正規の人にとって有意義」という意見が聞こえる一方、当事者である非正規社員の人たちの反応は冷ややかだ。

令和3年賃金構造基本統計調査』(厚生労働省)によれば、非正規社員男性の平均月給は(所定内給与)は24万1,300円、年収で342万7,300円だ。一方、日本の男性会社員の平均給与は月33万7,200円、年収で546万4,200円。月給で10万円、年収で200万円ほどの差が開いている。

男性非正規社員の給与を年齢別にみると、20代後半で月給が20万円台になるものの、30万円台には到達しない。

男性非正規社員の給与の推移

20~24歳:187,800 円 / 2,590,500 円

25~29歳:212,800 円 / 2,992,500 円

30~34歳:218,700 円 / 3,057,600 円

35~39歳:225,100 円 / 3,139,900 円

40~44歳:230,400 円 / 3,225,300 円

45~49歳:236,200 円 / 3,320,600 円

50~54歳:246,900 円 / 3,446,700 円

55~59歳:242,800 円 / 3,385,400 円

60~64歳:274,700 円 / 4,101,600 円

出所:厚生労働『令和3年賃金構造基本統計調査』より

※数値左より所定内給与/年収

「非正規社員の給与で構わない」と考える女性、20.6%

男性非正規社員の給与は、男性会社員の平均値を大きく下回っているわけだが、そこに女性の意向を重ね合わせると、結婚できない事情が鮮明に浮かび上がってくる。

令和元年少子化社会対策白書』(内閣府)によると、独身女性が男性に求める年収として「300万円未満」でいいという女性は6.7%、「300万~400万円未満」でいいという女性は13.9%。男性非正規社員の給与で構わないと考える女性は、5人に1人しかいないのである。

独身女性が結婚相手に求める理想の年収

300万円未満:6.7%

300万~400万円未満:13.9%

400万~500万円未満:19.5%

500万~600万円未満:17.1%

600万~700万円未満:7.4%

700万~800万円未満:4.8%

800万~900万円未満:1.3%

900万~1,000万円未満:1.3%

1,000万円以上:2.4%

収入は関係ない:4.6%

わからない:20.9%

出所:内閣『令和元年少子化社会対策白書』より

昨年は「50歳男性の生涯未婚率、非正規では6割超え」が話題となった。これは2020年の国勢調査結果によるものだが、非正規の生涯未婚率が6割に対し、正社員は20%であることを考えるなら、給与面の影響は明確だといえる。

子ども以前に、「非正規男性の生涯未婚率が6割」を考えると、まずはそちらをどうにかすることが重要ではないだろうか。

そのうえで「年齢危機感ミスマッチ」という問題も…

一方、結婚の障害となる要因は、収入以外にもありそうだ。「令和3年度 内閣府委託事業 結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査」内閣府)の資料によると、未婚男女の「年齢危機感ミスマッチ」 もあるという。

「18歳から34歳までの未婚男性の約6割がほぼ同年代の女性(2歳年下までの女性)と結婚を希望。さらに、4歳年下までをほぼ同年代とすると、約7割の男性が同年齢ゾーンとの女性との結婚を望んでいる。」

「男性が30代前半になると、すでに希望している同年齢ゾーンの女性の約6割は既婚。その一方で、男性は約半数が未婚のまま。男性が30代前半になってから同年齢ゾーンの女性と結婚を希望しても、結婚相手女性の〈未婚相手マーケット〉は大きく縮小。」

経済的なミスマッチがあるところに年齢的なミスマッチも重なれば、成婚するのはますます難しい。

目先の少子化対策の前に、もっと根本的な部分からの対策が必要なのではないだろうか。