諦めないことが重要でした。
日本の長崎大学で行われた研究により、捕食者に食べられてしまったウナギの稚魚が、胃から脱出して逃げ出すまでのドラマチックな過程が撮影されました。
研究ではウナギたちは食べられても諦めず、捕食者の胃の中を出口を探すようにグルグルと泳ぎ回り、食道を経てエラから「バック」で逃げ出す様子が示されました。
研究者たちは「捕食魚の胃から脱出できる能力が確認されている魚類は、実験に使用された二ホンウナギ(Anguilla japonica)だけ」と述べています。
生きることを諦めない進化が、捕食を欺いた稀な例となります。
研究内容の詳細は2024年9月9日に『Current Biology』にて「二ホンウナギが捕食者の胃から脱出する方法(How Japanese eels escape from the stomach of a predatory fish)」との興味深いタイトルで公開されました。
食べられても諦めないウナギ:「弱肉強食」の理を欺く進化
今回は2021年に発表された研究の続報的なものになります。
そのためまずは2021年の研究を振り返りたいと思います。
以下の4コマは2021年に行われた研究について4コマ漫画で説明したものになります。
4コマという性質上、詳細な点までは伝えきれませんが、研究の面白さを知っていただければ幸いです。
新たな研究はこれに加え、食べられてしまったウナギが捕食者の体内でどのように動いているかがX線を使って解明されました。
一寸法師は針で鬼の胃をつついて吐き出されましたが、ウナギたちはもっとスマートな方法で脱出しているようです。
ことの始まりは2021年に発表された研究に遡ります。
長崎大学の研究者たちは二ホンウナギの稚魚が捕食者に襲われたときにどのような回避行動を行うかを調べていました。
動物たちの回避行動は長い進化の過程を経ることで、一定のパターンを先天的に備えるものがいるからです。
実際これまでの研究により、一部のウナギでは危機的な状況になると、後方に向けて急発進する「バック」能力が知られています。
研究者たちは二ホンウナギの回避能力を調べるため、水槽の中にウナギの稚魚と捕食者のドンコを入れ、記録を行っていました。
しかし実験を開始してすぐに、研究者の1人が奇妙な現象に気が付きました。
ある水槽ではウナギの稚魚がドンコに食べられてしまったにもかかわらず、時間をおいてみてみると、ウナギの稚魚が平然と泳いでいたのです。
2021年に発表された研究ではこの謎現象について初めて調べられ、その結果、食べられてしまったはずのウナギの稚魚が捕食者のエラから「バック」で脱出していることが明らかになりました。
また成功率も驚異的であり、研究では一度食べられてしまった58匹のウナギのうち実に28匹もが脱出に成功し、そのうち26匹が「無傷」だったことが判明。
また脱出にかかった時間を測定したところ47±36秒という極めて短時間であることが示されました。
胃の中でランダムに動き回っているだけでは、この成功率と速度は得られません。
そのため研究者たちは、二ホンウナギはこの特殊な脱出法を積極的に狙えるように行動様式を進化させた可能性があると結論しました。
ですがこの時点では、捕食者の体内でウナギたちがどのように動いて脱出にこぎ着けたかは謎のままでした。
そこで今回、長崎大学の研究者たちは、ウナギの稚魚に造影剤を投与することで、捕食者の体内でどのように動いていたかをX線撮影で確かめることにしました。
食べられたウナギが体内を逃げるX線映像
今回の研究でも、まずウナギの稚魚(造影剤入り)を捕食者に食べさせることからはじめました。
上の3つの動画の1つ目はウナギが胃に向けて飲み込まれていく様子、2つ目は胃から食道へバックで遡っていく様子、3つ目はエラから外へ抜け出していく様子が映されています。
下の画像がそのX線映像です。
今回の研究でも、まずウナギの稚魚(造影剤入り)を捕食者に食べさせることからはじめました。
上の3つの動画の1つ目はウナギが胃に向けて飲み込まれていく様子、2つ目は胃から食道へバックで遡っていく様子、3つ目はエラから外へ抜け出していく様子が映されています。
すると捕食された32匹のうち13匹(40.6%)の尾の部分が捕食者のエラからニョロリと出てきたことが判明。
また尾を出した13匹のうち9匹(69.2%)が完全な脱出に成功しました。
(※エラから尾が出てくると捕食者も逃がすまいとする動きをみせるため、最後の最後で力尽きる個体がいるようです)
この結果は、ウナギの尾が脱出において先導役を果たす重要部位であることを示しています。
もしかしたらウナギの尾には猫のヒゲのように通れる隙間を探し出すセンサーのような役割を持つ部位があるのかもしれません。
またウナギの脱出過程を詳細に分析した結果、一定のパターンをとることが明らかになりました。
たとえば完全に胃の中に入ってしまった11匹のケース(32匹中11匹)を調べると、ウナギたちはまず胃の中を出口(食道)を求めるように胃壁に沿ってグルグル動き回る行動を示しました。
そして11匹中5匹(45.7%)は食道部分に尾を挿入する段階に移行できたことが確認できました。
ただ11匹中2匹では「誤った出口」、つまり腸に向かって進んでしまいました。
また食べられたあとの時間的猶予はおよそ3分半までであり、それまでに脱出できなかったウナギは全て死んでしまいまうことがわかりました。
以上の結果から、ウナギの稚魚が胃から脱出するには、いくつかの関門がある可能性が示されました。
1つ目は胃のなかで正しい方の出口(腸ではなく食道)を探し当てること、そして2つ目はエラから逃げ出す段階で、捕食者の抵抗を振り払い完全に抜け出すまで粘ることです。
研究者は今後、他の魚類でも同様の方法を使って脱出を行っているかを調べたいと述べています。
元論文
How Japanese eels escape from the stomach of a predatory fish
https://doi.org/10.1016/j.cub.2024.07.023
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
ナゾロジー 編集部
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