NHKは2022年10月11日に、2023年10月からの受信料を10%値下げすると発表しました。その半面、受信料の徴収について「訪問によらない営業活動の推進」をうたい、強化しようとする姿勢がうかがわれます。現行の制度の是非については様々な考え方がありますが、いずれにしても、どのような問題点があるのかを知っておく必要があります。そこで、放送法の規定と、判例の考え方に触れながら整理して解説します。

NHKの受信料の強制徴収に関する法律と「最高裁判例」

NHKの受信料の強制徴収の制度は、放送法64条1項を法的根拠としています。

同条項は、NHKの放送を受信できるテレビを設置した者は、NHKと「受信契約」を締結しなければならないと定めています。

「NHKの放送を受信できないテレビ」は存在しないので、テレビを設置したら、好むと好まざるとにかかわらず契約締結義務を負うことになっているのです。

しかし、他方で、契約は当事者の合意によってその効力が発生するのが原則です。NHKの受信契約も例外ではありません。

そこで、法律に違反して契約締結義務を履行しなかった場合、どうなるのかが問題となります。

この点については、2017年(平成29年)に最高裁の判決が出されています(最判平成29年(2017年)12月6日)。

この判決は、以下の3点について判断を行っています。

1.受信契約を強制している放送法64条1項は憲法に反しないか?

2.契約の意思もないのに、受信契約がどうして成立するか?

3.受信契約が成立した場合、受信料の支払義務はいつから発生するか?

それぞれについて説明します。

論点1.受信契約を強制している放送法64条1項は憲法に反しないか?

まず、放送法64条1項で受信契約義務を定めていることについて、憲法21条に違反しないかが問題となっています。

最高裁は以下のような論旨で、放送法64条1項は合憲だとしています。

・放送は国民の知る権利(憲法21条)を充足し、健全な民主主義の発達に寄与するものとして、国民に広く普及されるべきものである。

・放送の不偏不党、真実及び自律を保障することにより、放送による表現の自由を確保する必要がある。

・そのために、「公共放送」と「民放」が互いに啓蒙しあい、欠点を補いあうことができるように、二本立ての体制をとった。

・NHKは「公共放送」であり、国家権力や、広告主等のスポンサーの意向に左右されず、民主的かつ多元的な基盤に基づきつつ自律的に運営される事業体として性格づけられている。

・したがって、放送法は、NHKが営利目的として業務を行うことや、スポンサー広告の放送をすることを禁じており(放送法20条4項、83条1項)、その代わりに、財源確保の手段として、受信料の制度が設けられている。

・受信料の金額については毎事業年度の国会の承認を受けなければならず、受信契約の条項についても総務大臣の認可を受けなければならないなど、内容の適正性・公平性が担保されているので、そのような受信契約を強制することは目的のため必要かつ合理的である。

この判示には、本判決の最大の論点が含まれていますので、後ほど改めて解説します。

論点2.契約の意思もないのに、受信契約がどうして成立するか?

ここからは、放送法64条1項が憲法違反でないことを前提としての話です。

受信契約を拒否した人は、契約の意思もないにもかかわらず、受信契約がいつ、どのようにして成立するかが問題となりました。

この点につき、NHKは、受信契約を拒否した人への受信契約の申込が到達した時点で、あるいは、到達ときから相当期間が経過した時点で、受信契約が成立すると主張しました。

しかし、これに対し、最高裁は以下の趣旨を述べ、NHKの主張を退けました。

・NHKは通常、テレビを設置した人から承諾を得て受信契約を結び、受信料を収受してきており、それらの受信契約が双方の意思表示の合致により成立したのは明らかである。

・放送法は、受信契約を拒否する者との間に受信契約を成立させる方法について特別な規定を設けていない。

・受信契約を拒否する人に対し「承諾の意思表示をすべきことを命じる判決」が確定した時点で、契約が成立する。

この判断は、「契約」という形式が当事者双方の「意思表示の合致」によって成立するという大原則にのっとった結論といえます。

論点3.受信契約が成立した場合、受信料の支払義務はいつから発生するか?

次に、受信契約が成立した場合に、その受信契約に基づく受信料の支払義務がいつ発生するかが問題となりました。

この点について、最高裁は以下の趣旨を述べています。

・受信料は,テレビを設置した人から広く公平に徴収されるべきものである。

・テレビ設置後速やかに受信契約を締結した人と、その締結を遅延した人との不公平があってはならない。

これは、最初から受信料を支払っている人との公平を重視した判断といえます。

最高裁判決の重要ポイントと残された課題

以上の3つの論点のうち、最大の問題は「論点1.受信契約を強制している放送法64条1項は憲法に反しないか?」という点にあります。「論点2」と「論点3」は、受信契約が合憲であることを前提としたものであり、そうとらえる限り、契約に関する一般原則に基づいて判断したにすぎません。

そして、判例の最大の論拠は、結局のところ、NHKという公共放送局の公共性、非営利性、独立性、公正性といった特殊な位置づけにあります。

たしかに、NHKは、国会中継政見放送、災害時の緊急放送といった公共性の強い放送や、教育番組、福祉番組、古典芸能番組といった、非営利的かつ視聴率をあまり期待できない番組の放送を行っています。これらについては、民放ではなく公共放送が担うのが適切かもしれません。

また、公共放送が、時の国家権力やスポンサーの意向に左右されるのが望ましくないというのも、その通りです。

しかし、他方で、その財源を確保する手段について、一律に受信契約を義務付けて強制的に受信料を徴収する制度を採用するのが適切かどうかは、別の問題です。

裁判所は「目的達成のため必要かつ合理的」と判示したのみです。それはあくまでも司法府として立法府である国会の裁量を尊重したにすぎず、まったく問題ないということは意味しません。

たとえば、現行の受信料の制度は、国家権力の力を借りている側面があり、ともすれば「独立性」と矛盾しかねない制度だということに留意する必要があります。

また、IT化が進み、テレビの役割・影響力が相対的に低下している今日、NHK自体の公共放送としての存在意義・役割が変化してきているのは否定できません。

しかし、どのように考えるにしても、上述した放送法の理念と、NHKの公共放送機関という性格からすれば、NHKには強度の独立性・公正性が求められます。それをどのように確保するかということは、財源確保の手段も含め、重要な課題です。

(※画像はイメージです/PIXTA)