定年後は年金で悠々な生活を、というのはほんのひと握り。65歳からは年金をもらいながら働くという人も多く、厚生労働省によると、その数、390万人。しかし働きながら受け取れる年金には限度額があり、それを超えると年金停止(減額)。細心の注意を払いながら働いていたけど、それでも年金停止という悲劇も……。

60歳定年で仕事を辞める人は「わずか8%」

2025年4月から「65歳までの雇用確保」が完全に義務化。さらに現在、70歳までの雇用確保が努力義務となっていて、60歳で定年→仕事から引退、というのはかなりの少数派になっています。

2023年、全労働者のうち、65歳以上の高齢者が占める割合は13.4%。働く人の8人に1人は65歳以上の高齢者です。

就業率の推移をみていくと、男性「55~59歳」で91.5%だったのが、「60~64歳」で84.4%、「65~69歳」で61.6%、「70~74歳」で42.6%、「75歳以上」で17.0%。60歳で仕事を辞めるのは、わずか8%ほど。また来春から65歳まで雇用確保が義務となるものの、すでに6割以上の人が65歳を超えてもなお現役です。

生活費を稼ぎたいから、もう少し貯蓄を増やしたいから、健康のために、生きがいだから……働く理由はさまざまですが、定年を機に仕事を辞める人は相当稀な存在になっています。

65歳以上も働くのであれば、考えておきたいのが年金。現在、原則、老齢年金の受給が始まるのは65歳ですが、働きながらでも年金を受け取ることができます。

また厚生年金保険への加入を続けると、年金額を増やすことができます。毎年、基準日(9月1日)に厚生年金保険に加入中の65歳以上70歳未満の老齢厚生年金の受給権者について、前年9月から当年8月までの厚生年金保険加入期間を反映して、年金額を毎年10月分(12月受取分)から改定(在職定時改定)。つまり65歳以降も働きながら年金を受け取っていたなら、働いて増えた分の年金が比較的すぐに反映されて働いたことの効果を実感できる、ということ。「給与+年金」で生活を安定させたいと考えているような人にとっては、ありがたい制度といえるでしょう。

働きながら年金受給…賃金アップの思わぬ余波

60歳で定年を迎える際、多くの企業が継続雇用制度を採用。さらに継続雇用は、再雇用制度または勤務延長制度の2種類があります。前者は、いったん退職し、改めて雇用契約を結ぶというもので、契約社員や嘱託社員など、非正規社員として雇用延長になるパターンが多いようです。一方で後者は雇用契約は変わらずに、そのまま雇用が延長されるもの。モチベーションが維持されやすい一方で、企業としては人件費の負担が増えたり、世代交代が進まなかったりというデメリットも。

斎藤和義さん(仮名・65歳)は、都内メーカーに勤務。60歳で定年退職となり、再雇用制度を活用し、契約社員として引き続き働いています。

共働きの妻は同い年で、60歳で仕事を辞めており、今年から年金の受け取りも始まったとか。自分はどうしようか、と考えていたとき、友人から「もらえるときにもらっておいたほうがいい」とアドバイス。

――いつまで生きられるかわからない。もしかしたら1円ももらわずに死ぬかもしれない。そしたらどうだ、「早く受け取っておけば……」となるだろ?

これが友人の持論。確かに納得感があります。

――だから俺は、65歳から年金を受け取るつもりだ

そんな友人のアドバイスから、斎藤さんも65歳から年金を受け取ることにしたといいます。ただし気を付けたいのが、60歳以降に老齢厚生年金を受け取りながら働く場合、「老齢厚生年金の月額」と「月給・賞与(直近1年間の賞与の1/12)」の合計額が50万円を超えると、超えた分は年金が停止(減額)されるということ。その停止額は60歳以降に老齢厚生年金を受け取りながら働く場合、「老齢厚生年金の月額」と「月給・賞与(直近1年間の賞与の1/12)」の合計額が50万円を超えると、年金が減額されます。年金の停止額は「(基本月額+総報酬月額相当額-50万円※)×1/2」。

斎藤さんの場合、総報酬月額相当額は36万円、年金(老齢厚生年金)は月13万円。「おお、ギリギリセーフ」と斎藤さん。ところが今年の賃上げの流れは、斎藤さんにも無関係ではありません。

正社員も非正規社員もベースアップ。さらに非正規社員にも賞与を

その結果、斎藤さんの総報酬月額相当額は42万円に。年金が月2.5万円、年間30万円ほどの年金が停止=減額となることになったのです。

「給与+年金で月50万円を手にしているのだから、文句をいうな」と思う人もいるでしょう。稼いでいる人の贅沢な悩みはと。しかし、実際に年金に停止になる人はたまったものじゃありません。

――おい、年金なんてもらわないほうがよかったじゃん。お前がもらえるときにもらっとけというから

斎藤さん、ついつい、「年金はもらえるときにもらっておけ」とアドバイスをくれた友人に八つ当たりをしてしまったとか。友人もとんだとばっちりです。

現在、年金制度の見直しがいわれていますが、そのひとつが65歳以上の在職老齢年金。「年金を減らされるくらいなら働くのやめた」という選択をしたり、「年金が減らされない程度に働こう」と就労を抑制したり。どちらかといえば、デメリットの部分のほうがクローズアップされています。

年金は労働収入が得られなくなったときのための保障という側面に注目するなら、確かに一定以上の給与収入がある間は受給を抑制するのも一理あります。

果たして、どのような改正となるのか……注視する必要があります。

[参考資料]

総務省『労働力調査(基本集計)2023年(令和5年)平均結果』

日本年金機構『働きながら年金を受給する方へ』

(※写真はイメージです/PIXTA)