知られざる「日本の住宅とその性能」について焦点をあてる本連載。今回のテーマは「窓」。冬暖かく、夏涼しい家にするためには、窓の断熱性能が極めて重要だといわれています。しかし、日本の窓事情は深刻で「日本最高評価の断熱窓は、海外では違法レベルの低性能」です。この状況の真相について、詳しく解説していきます。

実は日本の住宅の断熱性能は、先進国で最低水準

知っている人の間では常識でも、多くの人が知らない事実というのは結構あるものです。日本の住宅性能、特に断熱・気密性能(冬暖かく、夏涼しく、省エネの家)は、先進国で、突出して性能が低いという事実もそのひとつです。

残念なことに、家を新築する、もしくは分譲住宅の購入を検討している多くの人は、この事実を認識していないようです。このことを知った上で住まいづくりをするかどうかは、建てたあとの満足度に大きな差が生じます。

決定的に劣っている、日本の窓の断熱性能

冬暖かく、夏涼しい家にするためには、断熱・気密性能が大切です。なかでも窓の断熱性能が極めて重要です。なぜなら、夏に流入する熱のうち74%、また冬に流出する熱の50%は、窓からなのです(図表1)

そのため諸外国では、窓の断熱性能に厳しい基準を定めています。U値〔W/m2・K〕は、窓の断熱性能示す値で、小さいほど高断熱であること意味します。

たとえば、ドイツではU値1.3〔W/m2・K〕以下のサッシでないと使うことができません。中国、米国の基準も下図の通りです。日本は地域によって基準が違います。6地域は、東京、横浜、名古屋、大阪、福岡といった人口が集中する温暖な主要都市を含む地域ですが、この地域の基準は、4.65〔W/m2・K〕です。

他国に比べて、窓の断熱性能の基準があまりに違うことをおわかりいただけると思います(図表2)

日本で最高等級の断熱サッシは、他の国では違法レベル

さらに驚くべきことに、日本では、一般社団法人日本サッシ協会が定める窓の断熱性能表示制度では、2.33〔W/m2・K〕の断熱性能で、最高等級の星4つがもらえます(図表3)

【図表2】を見返してほしいのですが、日本で最高等級の評価が得られる断熱性能のサッシは、他の国に持って行くと、断熱性能が不十分で違法になってしますのです。

このように、日本で普通に家を建てるということは、他の国では考えられない低性能な家になってしまうのです。

窓の性能はわかりやすい例ですが、他にも多くの面で、日本の住宅性能は、他の国に比べて劣っています。

つまり日本では、施主が知識を持ち、意識して性能にこだわらないと、他国の基準に照らして、まともな性能の家にはならないのです。

アルミサッシは他の国では使われていない

ではなぜ、こんなに窓性能の基準が違うのでしょうか? 背景の一つに、アルミサッシが普及していることと、樹脂サッシの普及の遅れが挙げられます。

他の国々では、基本的にはアルミサッシは使われていません。なぜなら、アルミと樹脂で比較すると、アルミは樹脂の約1,400倍も熱を通してしまうのです。

つまり、アルミサッシを使っている時点で、十分な住宅の断熱性能の確保は困難なのです。そのため、他の国々ではアルミサッシはほとんど使われず、樹脂製もしくは木製サッシが主流を占めています。

日本も樹脂サッシの割合が少しずつ高まっていますが、図の通り、新築住宅における樹脂サッシの割合はまだ29%程度で、他国に比べて圧倒的に普及が遅れています(図表4)

なぜ、窓の性能向上が重要なのか?

窓の断熱性能向上には、様々なメリットがあります。

まず、経済的メリットです。高断熱の窓を採用すると、当然建築コストは上がりますが、それによる住宅ローンの返済額増よりも冷暖房光熱費の削減額のほうが大きくなります。そのため、何年で改修できるかということではなく、ランニングコストを考慮すると、初年度から得になります。さらに、住宅ローン完済後は、光熱費の削減メリットはすべて懐に残りますから、老後の生活のゆとりにもつながります。

次に、窓の断熱性能を向上させることで、かなり家のなかの室温差を減らすことができるため、ヒートショックリスクを大幅に軽減できます。ヒートショックは、家のなかの室温差が脳や心臓に負担をかけることをいいます。ヒートショックに起因して、冬に浴室で亡くなる人は、約19,000人/年にも上ります。これは、交通事故死者数のなんと7倍以上です(関連記事:『血圧もコレストロール値も上昇…命を縮める「日本の寒すぎる家」恐ろしい実態』)。

また、冬の寒さや夏の暑さが大幅に軽減され、暮らしがとても快適になります(関連記事:『高気密・高断熱の暮らしは、人生の質(QOL)を激変させる!?』)。

特に冬に、コールドドラフトといわれる暖房された暖気が窓で冷やされて足下に下りてくる現象が起こりにくくなるので、足下の寒さがだいぶ改善されます(図表5)

アレルギーや喘息のリスクも低減される

そして、アレルギーや喘息のリスクも低減されます。住宅の断熱性能を高めると、以前の住まいで、気管支喘息、アトピー性皮膚炎等の症状が出ていた人が、新しい住まいで症状が出なくなる「改善率」がより高くなることが明らかになっています。

その理由は、医学的には立証されていませんが、結露との関係が指摘されています。結露が起きると、どうしてもそこにカビが発生します。カビはダニの餌になるため、性能が低い家では、カビ・ダニによるアレルゲンが多くなってしまうのです。それが、高断熱化すると、結露が起きにくくなるため、家のなかからアレルゲンが減り、症状が改善されるといわれています(図表6・7)

引違い戸はなるべく避けたい

では、新築時に窓はどのように選んだらいいのでしょうか? 最も重要なのは、窓の断熱性能であるU値を確認することです。概ね1.3前後の断熱性能であれば、窓に結露が起きることはほとんどなく、快適に過ごせると思います。

高断熱サッシは、樹脂窓が基本になりますが、最近は、アルミ樹脂複合窓でもこれくらいの断熱性能の窓も出ているので、それでもいいと思います。

窓のタイプについては、極力「引違い窓」は避けることをお勧めします。「引違い窓」とは、ガラス戸を左右にスライドさせて開け閉めするタイプの窓のことです。左右どちら側からも開閉可能で、日本の住宅で最も普通に見かける窓です。

ですが実は、他国ではあまり使われていません。日本では、不思議と「引違い窓」が当たり前のように選ばれていますが、それはお勧めできません。なぜなら、引違い戸は、【図表8】のように、気密性能の確保が難しいのです。

気密性能についてはここでは詳しくは触れませんが、要はすきま風のない家にするための性能です(関連記事:『日本の住宅に不可欠な「気密性能」だが…住宅メーカーが〈見て見ぬふり〉をするワケ』)。

新築住宅の建築コストが上がっているなかで、コストを抑えつつ高気密・高断熱化を図るのであれば、「FIX窓」を積極的に採用することをお勧めします。「FIX窓」とは、採光・眺望を目的としてガラスを窓枠にはめ込んだ開閉できない窓、いわゆる「はめ殺し窓」のことです。気密性能が高く、コストも割安です。

高気密・高断熱住宅に住んだことがない人には、なかなか理解してもらいにくいのですが、高気密・高断熱住宅では、あまり窓は開けなくなります。多くの季節で、窓を開けないほうが快適に過ごせるのです。

そのため、窓を開けての通風はそれほど意識しなくても大丈夫なので、採光・眺望を気密性能・コスト面を考えると、「FIX」窓はお勧めです。

「パッシブデザイン」も意識したい

窓に関連して、もうひとつ留意すべきこととして、「パッシブデザイン」を意識していただきたいと思います。

「パッシブデザイン」とは、機械に頼らず太陽の光や熱、風など自然の力を利用する設計技術のことです。高気密・高断熱住宅における「パッシブデザイン」は、冬の日射取得と夏の日射取得が最も重要です。特に、南側の窓では、太陽高度が高い夏は庇で日射を遮り、太陽高度が下がる冬は積極的に日射を取得できる設計にするべきなのです(図表9)

窓を高断熱化するだけならば、どの工務店でもできますが、「パッシブデザイン」に留意した設計ができる工務店はあまり多くありません。「パッシブデザイン」に留意した設計ができるか、実際の施工例を元にそれを説明できるかどうかは、工務店選びのポイントの一つにしていいと思います。

既存住宅の窓の断熱改修の大チャンス!

新築中心に説明してきましたが、アルミの単板ガラス(1枚ガラス)の冬寒く、夏暑い家で、我慢しながら暮らしている人も多いと思います。窓だけの断熱リノベは、もともとかなり手軽でコスパもいいのでお勧めなのです。

そこに、今年度は、「先進的窓リノベ事業」という国の手厚い補助制度が用意されているため、手軽に居住環境を改善する大チャンスです(関連記事:『今年の夏こそ涼しく過ごす…朗報!窓の断熱改修の大型補助金「先進的窓リノベ2024事業」募集開始』)。

窓を高断熱化するだけで、いきなり他国並みの高性能住宅になるわけではありませんが、現在の居住環境に比べれば、劇的に改善します。ぜひ、冬の寒さ、夏の暑さを我慢する生活から脱却することを強くお勧めしたいと思います。

写真提供:HAN環境・建築設計事務所