帝国データバンクによると、焼肉店の倒産ペースが加速している。
2024年に発生した焼肉店の倒産(負債1000万円以上、法的整理)は、6月までに計20件発生した。23年の同期間に比べて約2.5倍となっており、これまで最も多かった19年通年(26件)を大きく上回り、過去最多を更新することになる。
小規模個人店の閉店や廃業などを含めれば、実際はより多くの焼肉店が市場から退出したとみられる。今の焼肉業界は限られたパイの奪い合いの様相を呈しており、市場は整理縮小されつつあるのが実情だ。
◆外食の中でも敷居の高い焼肉店の苦境
7月の実質賃金が2か月連続で上昇したという明るい話題はあるが、まだまだ実感がない。TV報道によると、今、「商品・サービスの中で、最も贅沢品は?」というアンケート調査では、旅行やレジャーを抜き、外食が首位になったとのこと。
その中でも焼肉は高額だから群を抜き、超贅沢な食事の部類に該当する。先行きの生活不安から、守りに入る消費者にとって、焼肉は敷居がより一層高くなっている。
たまに行っても、食事をしている時は嬉しいが、会計時はつらい思いをする人は多いだろう。店も客離れを警戒し、僅かな値上げで済ましたり、価格据え置きで対応して踏みとどまっているが、限界に近付いているようである。
家族経営の店なら、何とか耐えられないこともないが、人を使っている個人店は継続が難しそうだ。
◆円安の影響でコストが上昇
焼肉店は出店コストが高く、初期投資の高さが重荷だ。加えて、初期投資額だけでなく、落ち着きかけてはいるが円安(143円、9月6日)の影響で、米国や豪州産などの輸入牛肉・豚肉価格の高騰、電気・ガス代、人件費、物流費など運営コストの上昇も重なっている。
物価高騰による消費者の「値上げ疲れ」もあり、店側は価格弾力性を考えながら値上げのタイミングを検討している。
こうした経営環境の悪化で、小規模な焼肉店などでは厳しい価格競争に耐え切れなくなり、淘汰されるのは時間の問題のようだ。物価高での節約志向も重なり、外食に「特別感」を求める余裕がなく外食機会も減っている。
◆増えすぎた焼肉店
焼肉の市場規模は、店舗数22,000店、年商約1兆2,000億円(2020年、日本フードサービス協会)と推計されている。
焼肉は昔から絶対的な存在感があり、ハレの場によく使われる。お祝いで連れて行って欲しい店ランキングでは常に上位だ。
コロナ禍での外出制限では、焼肉はテーブルごとに吸気ダクトが備えられた店内設備が「換気がいい=3密回避」とのイメージが定着して安心できる外食であると評価された。
そこに、低迷していた居酒屋などからの業態転換も多く、今となっては店が増えすぎたことによる、オーバーストア状態も経営不振の原因である。以上、食肉価格の高騰・競争激化・値上げが困難の三重苦で、焼肉店の経営環境は厳しさが続くとみられる。
◆原価高騰は食肉だけにとどまらない
食べ放題を中心に多店舗展開する大手は、干ばつなど供給要因や為替要因から輸入肉(牛豚)の仕入れ額の上昇、食べ放題を実施する店は輸入牛を使用するのが通常だ。
以前は、牛肉だけの注文が集中すると原価的に厳しいから、豚肉にシフトさせるようメニューを工夫していたが、その豚肉さえも高騰中だ。早く麺飯類を食べてお腹を膨らまして欲しいが、それは別腹という客も多く、また、焼肉を食べにきているから肉を食べねばと、そう簡単に店の思惑通りにいかない。
最近は、ご飯の仕入れ値も上がっている。肉類の高騰からしたらダメージは小さいかもしれないが、焼肉には白米がよく合うから、この令和の米騒動は店にしては困った問題だ。
◆配膳ロボットの活用やDX化の推進でコスト削減
飲食店のKPI(重要業績評価指標)はFL比率(材料費と人件費の比率)であり、利益を上げるためには、人件費管理も重要だ。最低賃金も10月から50円上がり、社会保険の適用も拡大され、人件費の上昇は待ったなしだ。
大手焼肉店は配膳ロボット(配膳ロボットは標準型で月額リース料は33,250円、1日12時間×30日稼働で時給92円となる)を活用し、人手不足や人件費抑制策に対応している。
その他の販売管理費に於いても、各店がDXを推進しており、客も慣れてきたようで別段の違和感はなさそうだ。案内の自動化、注文やメニューブックもデジタル化、セルフレジ、等を巧みに業務プロセスの中に取り入れている。
こういったDX化の推進で各店が経営効率を競い合って、大胆な値上げによる客離れを回避している。そもそも焼肉は、調理のメインである「焼く」をお客さんに任せることと、一品メニューを簡単メニューにすることで、職人が必要がなく、コックレスの仕組みを確立して人件費を抑制できる特性がある。
職人の高い給料が不必要な分を原価に充当しているから、焼肉食べ放題は費用構造的に成り立っているものだ。しかし、最近の高騰するその他経費、水光熱費の高騰、などで利益が削られ、薄利多売になっているのが実情のようだ。そういった内部環境の中、各店が利益創出のために創意工夫している。
◆焼肉店も参戦し始めた孤食市場
焼肉食べ放題は提供スタイルを変えながら、30年以上の歴史がある人気メニューである。店舗数で1位の牛角(全世界825店舗、2024年3月時点)や売上で1位の焼肉きんぐ(物語コーポレーション焼肉部門の売上552億円、店舗数325店舗(2024年6月時点)は話題の店だ。
昔と比べると随分高くなったが、それでも週末は満席状態であり、中には予約も取れない店があるのも事実だ。また、最近は孤食を好む人も多くなっている。単身世帯比率も年々高まっており、そういった社会構造的な背景から、積極的に一人客を受け入れる焼肉店が増えている。
代表的な店としては、焼肉ライク(国内93店舗、2023年4月)があるが、同じようなコンセプトの一人焼肉店をあちこちで見るようになった。2020年の国勢調査によると単身者世帯は38%で、5年前と比較すると3,4%増加しており、単身者世帯の増加で、さらに孤食市場は成長するのではと推察する。
◆新たな需要に応えて人気を得た焼肉ライク
ファミリー客を標的顧客にしていた大手焼肉店は4人掛けテーブルが殆どの店内レイアウトだったから、一人では行きにくい。店側も客席効率を高めたかったから一人客はあまり歓迎しなかったのが実情だ。
しかし、最近は焼肉ライクのように、一人で焼肉を食べたいといった潜在ニーズを顕在化させた店が店舗数を増やしている。焼肉は一人では入りにくいものだが、その一人客をターゲットにした小型(20坪程度)で効率の高い焼肉店の存在感が出てきた。
孤食を好み気兼ねなく焼肉を食べたい一人焼肉の需要に応えた店づくりで、客席回転率の向上による坪当りの売上・利益を拡大させている。
焼肉ライクが人気の理由は、①一人でも気軽に行ける焼肉屋、②自分風にカスタマイズした焼肉を、自分専用のロースターで焼ける、③周囲の目を気にすることなく、自分のペースで焼肉を堪能できる、④時間がない時でもさっと食べられる、⑤自分好みで、自分が焼いた肉を誰にも取られることなく堪能できる、⑥手軽な価格で焼肉をお腹一杯食べたいといったニーズに合致している、等である。
◆物価高・人手不足などの逆風に焼肉店はどう立ち向かうか
最近の飲食店は、物価高・人手不足など店を取り巻く外部環境には逆風が吹いている。特に輸入肉に依存する低価格の焼肉店や食べ放題店にとっては、大きな痛手である。
また、日本は外食慣れした人が多く、世界一、品質に対する目が厳しいからコスパ評価も手厳しい。今はSNSの普及で、お客さんの持つ情報量が多く、店側の情報優位性がなくなりつつある。
情報武装したお客さんが多いと、店側が利益を確保する機会が減り、店の営業利益率の低下を招いている。飲食店経営の中で徹底した管理が求められる食材費や人件費が上昇する中、できるだけ価格を抑えながら経営を継続させるのは大変だ。
店を選択する目が厳しく、価格と品質のバランスの要求水準が高いお客さんを相手に、各店がどう対応するか注視したい。
<TEXT/中村清志>
【中村清志】
飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan
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