「海の忍者」とも形容される潜水艦。深海まで潜れる特性ゆえに状況次第では浮上せずに長期間、陽の光を浴びずにすごすことも。艦内は密閉状態で、任務は長期間に及ぶため一体どうやって乗員らのご飯は提供されているのでしょうか。
火気厳禁! じゃあ料理どうする?
一度任務に出ると月単位で陸に上がることがなく行動することもある軍艦、そのなかでも潜水艦はその秘匿性の高さから浮上せずに、密閉空間で多くの人々が長い間任務をこなさなければならないこともあります。そこで大きな疑問が、空気の循環すらままならない潜水艦の艦内で調理はどうやっているのかです。
前提として潜水艦ではガスコンロなど、火を使った調理器具を使うことはできません。これは世界共通です。潜航中は酸素が限られており、酸素を使う火は適さないうえ、万一、それが元で火災が起きたときは、閉鎖空間のため、命の危険に直結してしまうからです。
では、何を使うかというと、潜水艦はその構造上、あるものを豊富に確保できます。電力です。2024年現在では、分譲住宅やタワーマンションに標準装備されることも多くなったオール電化住宅。まさしく、それと同様に調理・給湯・冷暖房など全てを電力で賄うことで、出火の危険性を極限まで下げています。しかも、潜水艦は20世紀初頭、かなり早い段階から電力を使って調理するようになっていました。
20世紀初頭にはまさに未来の料理器具だった?
今から100年以上前の第一次世界大戦で本格的に登場した潜水艦は、誕生以来、電力が常に身近にある状態でした。原子力潜水艦以外の、通常動力で動く潜水艦は、基本的に浮上時にディーゼルエンジンを利用して発電した電力を船内の電池に溜め、その力を潜航時の動力として利用します。
発電効率や電池の持続力は時代によって違いますが、潜航して隠密任務や戦闘時以外はその電力を調理器具に割ける余裕があるため、鍋で煮る、蒸し器で蒸す、オーブンで焼くなど、様々な調理が可能でした。
第二次世界大戦中の旧日本海軍の潜水艦を例にすると、艦内には「電気烹炊器(ほうすいき)」というものがあり、これ1台で炊飯、煮る、焼くが可能だったといいます。さらに性能はイマイチと言われていましたが、冷蔵庫まで備えていました。
一般家庭に目を移すと、時代はまだガスコンロの普及も限定的だったころで、冷蔵庫も購入した氷を入れて冷やす氷冷蔵庫が主流でした。多くの潜水艦乗りには未来の道具のように映ったかもしれません。また、アメリカの潜水艦は、大戦中に居住性が最も良かったとされており、アイスクリーム製造機も搭載していたと言われています。
潜水艦の料理が一番美味しい理由は?
調理する際の加熱ですが、昔は電熱線を使う電気ヒーターが主流だったそうです。現在はより安全なIHヒーターとなっています。発電機から直接電力供給を受けているということで、当初は直流電源しか使えず、それに対応した専用の調理器具が必要でしたが、海上自衛隊の潜水艦は現在、一般家庭で使う交流電源を使えるようになっており、市販の調理器具を艦内で使用できるといいます。
ちなみに海上自衛隊では、潜水艦の料理が最も美味しく、特にカレーは自衛隊で一番だとか。潜水艦の料理が美味しいというのは、実は昔から万国共通です。
なぜかといえば、長期にわたり窓もない狭い密閉空間で大勢が生活するという多大なストレスがかかる現場のため、「せめてご飯だけでもちゃんとしたものを」という精いっぱいの配慮からです。ひとりあたりの食材費も世界的に、軍隊の中で潜水艦乗りが一番高く設定されています。
なお、技術の進歩により乗組員が少人数化し冷蔵・冷凍設備が艦内に充実した現在においても、長期航海になると目的地に着く前に生鮮食品を使い切ってしまうそうで、あまりにも長い航海の場合、生野菜などが恋しくなる模様です。
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