洋式トイレで立ったまま小用を足す男性に対する苦言が、SNSなどで目立つようになった。
尿ハネの掃除が大変なこともあり、「座りション」してほしいという意見が少なくない。一方で、自宅への来客には「座りションしないで」と伝えることに悩む人もいる。また、店で「座りション」しない客の扱いもどうすればいいのだろうか。
●いまや過半数の男性が「座りション」派生活用品大手「ライオン」が男性に実施した調査(2021年)によると、自宅で座って小用を足す「座りション」スタイルの男性が約6割となったという(「男性の小用スタイルに関する実態調査」)。
それまでトイレで「立ちション」していた男性が座りションに切り替えた理由として、「尿ハネで汚さないため」「トイレを掃除する人の気持ちを考えるようになった」などが挙げられた。
妻から注意されて「座りション」に切り替えるケースもよくあるようだ。しかし、そんな妻であっても、自宅に招いた友人の夫や息子らには「座りション」をするように伝えにくいものだ。
Xでは「どうやって彼らに伝えたら良いか」と悩む女性の投稿もみられ、「立ちション禁止」のステッカーをトイレに貼るといったアイデアが集まっていた。
飲食店など男女兼用のトイレでも、客に「座りション」を求めることがある。もっぱらトイレ個室内の張り紙で「立ちション禁止」「男性も座って」などと伝えるようだ。
そうした店の中には、「立ちション」が発覚した場合、損害賠償を求めたり、退店を求めたりするようなこともある。座りションしない客への対応はどこまで許されるのだろうか。大橋賢也弁護士に聞いた。
●トイレを汚した客への損害賠償は「難しい」——「立ちション禁止」を張り紙などで示している飲食店が、「座りション」しない客に対して、損害賠償を求めたり、退店を求めたりできるでしょうか
そもそもトイレ個室内という外部から視認することができない場所での出来事なので、立ちションをしてトイレを汚した人物の特定という問題があると思います。
1人が使用した後に、その都度確認すればわかるのでしょうが、飲食店がそのような労力をかけるわけにもいかないため、人物の特定は簡単ではないでしょう。
仮に、トイレを汚した人物を特定できたとして、その人物に対して損害賠償請求をしたり、退店を求めることができるかですが、程度によるということになります。
まず損害賠償請求については、ここでいう損害賠償請求は、不法行為(民法709条)に基づくものなので、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した」といえなければなりません。
「立ちション禁止」の張り紙を知っていながら立ちションをして、他の客が使用できなくなる程度にトイレを汚せば、不法行為の要件を満たすと言えるでしょう。
問題は、飲食店にどのような損害が生じたのかという点です。
他の客が使用できない程度に汚した場合であれば、本来清掃する必要がない時間帯に清掃をしなければならなかったという点で、飲食店には損害が発生したと考えることになるでしょう。ただし、具体的な損害額の算定は難しいと思います。
また、トイレはどんなに注意して使っても汚れてしまう場所であることから、他の客が使用できない程度に汚した場合でも、清掃すれば再度使用できるでしょうから、什器の買い換え費用等の損害は基本的に発生しないものと考えます。
——退店はどうでしょうか
同様に、清掃しなければ他の客が使用することができない程度にトイレを汚した人物に対しては、飲食店は、施設管理権の行使として退店を求めることができると考えます。
すでに洋式トイレが汚れている場合は、座りションをすることが難しいと感じ、次の人も立ちションをしてさらにトイレを汚すという負の連鎖に陥っていくことになりかねません。
そういうことにならず、トイレを使用する人が気持ちよく用を足せるように、全員が注意事項を守ってトイレを使用したいものです。
【取材協力弁護士】
大橋 賢也(おおはし・けんや)弁護士
神奈川県立湘南高等学校、中央大学法学部法律学科卒業。平成18年弁護士登録。神奈川県弁護士会所属。離婚、相続、成年後見、債務整理、交通事故等、幅広い案件を扱う。一人一人の心に寄り添う頼れるパートナーを目指して、川崎エスト法律事務所を開設。趣味はマラソン。
事務所名:川崎エスト法律事務所
事務所URL:http://kawasakiest.com/
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