親としては、子供はいくつになっても心配なもの。今どこで何をしているのか、把握しておきたいという親心も理解できないではない。
パキスタン人の父親が、娘の身の安全を守るために、彼女の頭に監視カメラを取り付けたというニュースが話題になっている。
大きなカメラを頭に乗せた女性は、インタビューで「父は私のボディガード」と述べ、嫌がっている様子はなさそうだ。
関連記事:監視社会もここまできたか。中国の海岸では50mおきに監視カメラが設置されていた
頭の上にカメラを乗せた女性が話題に
2024年9月6日、X(旧Twitter)に1本の動画が投稿された、巨大な監視カメラを頭に乗せた女性の映像である。キャプションには「別次元のセキュリティ」と書かれている。
このカメラは女性の父親が、愛する娘の身の安全を確保するために取り付けたのだそうだ。
パキスタンは正式名称を「パキスタン・イスラム共和国」と言い、イスラム教を国教とする国である。
女性は家族の男性に保護されるべき存在という考え方が根強いため、それが講じて今回のようなアイディアを実行に移してしまったのかもしれない。
関連記事:子供が迷子になった母親、SNSで見た「子供を探し方」を実践し数分で発見【ライフハック】
だがなぜ、ウェアラブルカメラとかボディカメラとか言った次元ではなく、丸ごと監視カメラを乗っけようと思ったのだろうか…
そこにはパキスタンならではの切実な事情も
動画の中で女性はインタビューを受けているが、その中でこの状況を受け入れているような受け答えをしている。
父は私の行動や行き先を監視するために、このカメラを取り付けました。私がどこで何をしているのか、父は全てを知っています
インタビュアーが「あなたは拒否しなかったのか?」と尋ねると、彼女ははっきり「いいえ」と答えている。
インタビュアー:
あなたはこのカメラを通じて、自分の身の安全を守りたいということですね? あなたのお父さんは、あなたのガードマンということでしょうか?
(こういった監視システムがないと)女性は間違った道に進んでしまいやすいということですか?
上記の質問に対しては、明確に「その通りです」と答える女性。
カラチで父娘が殺害された事件を忘れてはいけません。犯人は裕福な女性で、証拠は見つからないかもしれません。
だから私の両親は、私もいつ被害者になるかわからないと警告しているのです
ここで彼女が言及しているカラチの事件とは、おそらく2024年8月19日に発生した、実業家の女性が起こした交通事故を指すと思われる。
関連記事:10代の子供のスマホの中身をチェックする母親。料金を支払っているから見る権利があると主張し物議を醸す
この事故ではバイクに乗っていた父娘が死亡したほか、3人が巻き込まれてケガをしたが、女性は地位にモノを言わせて罪を逃れようとした。
最終的には遺族にディヤット(血の代償)と呼ばれる賠償金を支払うことで、女性は本当に罪を免れることとなったようだ。
日本でもまだ携帯電話もなかったころは、子供が出かけるとなったら事細かに行先や、一緒に行く相手を聞き取りする家庭も珍しくなかったように思う。
留学生を受け入れたホストファミリーが、「出かけるときに行き先を聞かれるのがイヤ」だと、クレームを入れられた話もよく聞いた。
関連記事:娘かわいさのあまり・・・親バカにもほどがある8人の父親の暴走エピソード
でも思うにこれだけ災害の多い国だから、何かあったときに行き先くらいは把握しておきたいと思うのも自然なことなんだよな。
そういう観点からみると、「女性である」ということだけでトラブルや犯罪に巻き込まれるリスクが高い場所では、娘にカメラをセットしたい!と思う親心も、百歩くらい譲ってわからないでもない気はする。
……気はしないでもないのだが、もう少しコンパクトで軽くて目立たないものにしてあげた方がいいんじゃないだろうか、切実に。
「過保護」「親バカ」では済まされない現実
パキスタンの場合は厳格な家父長制のもと、「名誉殺人」が後を絶たないという現実もある。
名誉殺人とは、伝統的な「家族の名誉」への攻撃だと判断される事案が起こると、その名誉を回復するために家父長自ら、あるいは家族の男たちが手を下し、名誉を損なった相手を殺害することだ。
例えば自分の娘が見ず知らずの男と「目が合った」「会話をした」というだけで、それまで大切に育ててきたはずの娘さえも、ためらいなく手にかけて殺害する事件が頻発しているのだ。
これはイスラム教というよりも、現地の部族的な価値観にもとづいて行われるもので、逆に言えば名誉殺人を実行しなければ、その家族は地域社会で生きていけなくなる。
2022年だけでも384件にも上る名誉殺人が報告されているという。彼の国では父親が娘から目を離すことは、我々が想像する以上にリスクを伴うことのようだ。
コメント