給与所得の高い「勝ち組会社員」であっても、この時代、住宅ローンや教育費等がかさみ、決して余裕があるとはいえない。そんななか、頼みの綱となるのは定年退職時の退職金だが、その状況も、一昔前とは大きく異なっているようだ。実情を見ていく。
大卒会社員…選んだ業界・企業規模で、生涯年収に大差
しばしばひとくくりに語られる「大卒サラリーマン」だが、給与は決してひとくくりにできず、その格差は明らかだ。
そもそも給料には、学歴によって大きな差がある。高卒サラリーマンの平均月収は33.2万円、推定年収は478万円だが、大卒サラリーマンは平均月収41.7万円、推定年収は631万円。高校卒業後、進学するかどうかで、65歳まで働の生涯年収は6,000万円強も差がつく計算である。
しかし、同じ大学を卒業しても、就職先の業界によって大きな給与差がある。最も平均月収が高い業種は「電気・ガス・熱供給・水道業」で、月収46.3万円、推定年収717万円。最も平均月収が低いのは「宿泊業、飲食サービス業」で、月収33.7万円、推定年収は454万円。生涯年収には1億円以上の差が生じる。
また、企業規模による給与差も大きい。従業員1,000人以上規模の大企業の場合、平均月収は46.2万円、推定年収は718万円。一方、従業員10~99人規模の中小企業の場合、平均月収は36.4万円、推定年収は521万円。生涯年収で、8,000万円を超える差だ。
「20~24歳」 357万3,100円 / 308万2,900円
「25~29歳」 495万2,300円 / 373万1,200円
「30~34歳」 596万5,700円 / 445万4,100円
「35~39歳」 702万7,500円 / 512万5,800円
「40~44歳」 779万7,200円 / 561万4,000円
「45~49歳」 840万7,000円 / 602万3,000円
「50~54歳」 954万2,800円 / 644万1,500円
「55~59歳」 939万6,300円 / 615万4,400円
「60~64歳」 615万4,300円 / 521万8,100円
大企業の退職金も、ジリジリと減額され続けている
給与の金額で会社員の勝ち負けが決まるなら、大卒で大企に就職できれば「勝ち組」に分類されることになるだろう。
しかし、実はそれだけで状況は図れない。じつは、定年時に受け取る退職金に注意点がある。
厚生労働省の外局である「中央労働委員会」が労働者数1,000人以上かつ独自に選定した大企業に対して行った『令和3年賃金事情等総合調査』を見てみよう。
それによると、退職一時金制度を採用している企業は89.8%。そのうち、一定の年齢や勤続年数で退職一時金を固定する制度がある企業は21.2%で、固定する平均年齢は57.2歳、平均勤続年数は29.0歳となっている。また、退職一時金が定年まで増えるのは、78.8%だった。
退職一時金の受給資格付与に要する最低勤続期間(所要年数)だが、会社都合では「1年未満」とする企業が最多で55.5%。自己都合では「3年以上」とする企業が最多で50.7%だった。
これを見ると、大企業の退職金制度の充実度がわかる。では、どのくらい退職金が支給されるのだろうか。
大卒の男性の場合、勤続35年で1,903.3万円。満勤勤続で2,277.3万円。しかし、前回調査の2019年と比較すると、勤続35年で254.5万円、満勤勤続で59.1万円ほど減額となっている。
退職金の減額は、厚生労働省で5年ごとに行っている退職金についての調査でも明確であり、20年で1,000万円近くも減っていることがわかる。なお、こちらの調査は常用労働者30人以上と中小企業を含む退職金額である。
【退職金額の推移】
2003年:2,499万円
2008年:2,323万円
2013年:1,941万円
2018年:1,788万円
出所:厚生労働省『就労条件総合調査』『賃金労働時間制度等総合調査』より
大企業に限らず、退職金額の減額傾向は明らかだったが、じつはその点を認識していない会社員も少なくない。日本FP協会の調査によれば、なんと過半数が「退職金の金額は把握していない(あまり把握していない・全く把握していないの合計)」と回答しているのだ。
退職金についての説明を受けてから幾年月、情報をアップデートすることもせず、いざ退職金を受け取る段になって「思っていたのと違う!」となっては目も当てられない。大企業だから安泰、入社から定年退職時まで、ずっと勝ち組のままでいられるとは限らないのだ。
自分の人生設計や資産形成を人任せにすることなく、自身で管理・コントロールする意識を持つことが重要だ。
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