ホテル雅叙園東京は、もともと1931年(昭和6年)に誰でも気軽に入れる料亭「目黒雅叙園」として東京・目黒の地に誕生。料理を待つ間も退屈しないように壁画や天井画などで装飾された料亭だったが、2017年(平成29年)にミュージアムホテル「ホテル雅叙園東京」としてリブランドされ、2500点もの美術工芸品に彩られている。歴史あるホテル雅叙園東京の前身である目黒雅叙園の3号館、東京都指定有形文化財「百段階段」は同館で現存する唯一の木造建築で、趣向が異なる7つの部屋を99段の長い階段廊下が繋いでおり、各部屋の天井や欄間には著名な画家たちが創り上げた美の世界が描かれている。
そんな東京都指定有形文化財「百段階段」にて、今昔の月が没入感あふれる世界を演出するイベント「月百姿×百段階段 ~五感で愉しむ月めぐり~」が2024年10月5日(土)〜2024年12月1日(日)までの期間限定で開催される。イベントの名前にある「月百姿(つきのひゃくし)」とは、幕末から明治にかけて活躍した浮世絵師・月岡芳年が、月にちなんださまざまなモチーフを描いたシリーズで、作品群のうち20点が前後期に分けて展示される。
ほかにも、和紙やガラス、日本画など、さまざまな技法を用いた、まるで現代の「月百姿」のような現代のアーティストの作品も神秘的に月を描き出す。さらに、プロジェクションマッピングによる月の投影などの演出が施されており、伝統的な木造建築の風情も相まって、特別なお月見体験ができるという。今回は、このイベントの見どころなどについて担当者に話を聞いてみた。
――本イベントの狙いについて教えてください。
10月から始まる企画展なので、季節感のある秋らしい展示を行いたいと考えていました。月は秋を感じられる代表的なモチーフのひとつです。しかし、東京都指定有形文化財「百段階段」では、これまで月をメインテーマにした企画展を実施したことはなかったので、文化財空間を舞台に特別な「お月見」をお愉しみいただけるような展示にすることにしました。それとともに、ホテル内のレストランでも、月をコンセプトにしたメニューでコラボレーションをし、展示を鑑賞するだけではなく五感で堪能できる内容にできればと思いました。本企画展では、文化財空間と月がコラボレーションしたフォトジェニックな写真撮影もできるので、ご家族やお友達同士、カップルでの秋のおでかけにもおすすめです。
また、着物屋さんのイベントなど、お着物愛好家の方々にも非常に多くご来場いただいております。唯一無二の空間で秋の風情を存分に感じられる展示ですので、お着物でのおでかけにもぴったりです。
――月百姿と百段階段のコラボレーションのアイデアはどのようにして生まれましたか?
もともと月岡芳年作品は文化財「百段階段」に似合いそうだなと思っていたのですが、展示のテーマを「月」に決め、月にまつわる作品をいろいろ探していた中で「月百姿」のことを思い出しました。芳年作品の中でも人気が高くファンも多いシリーズであること、満月や三日月なさまざまな月の様相を愉しめること、さらには文化財「百段階段」の「百」とかかっていることなどから今回のコラボレーションが生まれました。
月百姿は美術館や博物館でも定期的に展示が行われている作品なので、文化財「百段階段」で展示するにあたり、美術館で見るのとはまた異なった鑑賞体験をしていただきたいと思いました。実物の浮世絵展示と合わせて文化財「百段階段」ならではの「月百姿」鑑賞体験には何が必要なのかいろいろ考えを巡らせましたが、この建物の展示における大きな魅力は、作品世界を空間全体で体験できる“没入感”であるという基本に立ち返り、「月百姿」に描かれた世界に入り込んだような、浮世絵の中の月が三次元になって表れたような展示構成としました。
――文化財の各部屋で体験できる「月」にまつわる演出へのこだわりなどあれば教えてください。
月百姿の中で「石山月」という作品があります。紫式部が石山寺で琵琶湖に映る月を眺めていたときに源氏物語の素案を思いついたという逸話にもとづく場面が描かれているのですが、その作品のイメージをもとに、月と水、源氏物語の世界観を感じられる展示を「漁樵の間」で行います。漁樵の間自体の装飾が平安時代をモチーフにしているので、部屋全体で紫式部が眺めた景色を追体験いただければと思います。
この部屋には直径1.2メートルの月が展示されますが、月を制作いただいたアーティストの方には何パターンも設計図を書いていただいたり、プロトタイプをお持ちいただいたりして打ち合わせを重ねました。重量の問題や正面・側面からの見え方、点灯方法などを模索し、お客様の視点から見て自然な「月」の姿にこだわりをもって制作いただきました。
――最後に読者の方に伝えたい魅力などあれば教えてください。
ホテルというと敷居が高いと感じられる方もいらっしゃるかもしれませんが、これまでの文化財「百段階段」の企画展には、学生さんをはじめとした若年層の方からご高齢の方まで幅広い層のお客様にお越しいただいています。「百段階段」は、一歩中に入ると1935年の世界へタイムスリップしたような空間が広がります。建物だけでも見どころ満載ですが、企画展とあわせてご覧いただくことで、文化財建築の新たな魅力を感じていただければ幸いです。
展示を見たあとはランチやアフタヌーンティーを愉しんだり、ホテル内の美術品を鑑賞したりと1日中非日常の世界をご堪能いただけますので、ぜひお気軽にお越しください。
■イベントに合わせた限定アフターヌーンティーも楽しめる!
これまでも季節に合わせてさまざまなアフターヌーンティーを提供してきたホテル雅叙園東京。今回のイベントに合わせて登場する限定アフターヌーンティは、「月」をモチーフに、深まる秋を表現したものになっている。
ごろんと入った栗が半月のような「和栗のパウンドケーキ」や、柿のコンポートと桂花陳酒のジュレを月のきらめきに見立てた「早生柿のパンナコッタ」、栗とマッシュルームのサラダをムースが覆う「栗のムース トリュフ風味」など、月を連想させるスイーツやセイボリーが楽しめる。ほかにも、六甲山で見た秋の景色から着想を得て誕生したカボチャのタルト「紅葉」も登場。ベースになるアーモンドと白餡のタルトに、裏ごししたカボチャ餡を竹串でのせていく和菓子の技法が取り入れられ、木々が秋色に染まる様子が表現されている。
また、ドリンクも通常の紅茶やほうじ茶、コーヒーなどのほかに、季節限定のホテルオリジナルブレンドティーの「ムーン・スマイルティー」や「月見ほうじ茶」など種類豊富なメニューが提供される。なお、アフターヌーンティー自体は数量限定なので、予約していくのがおすすめとのこと。秋の実りが創り出す「月」を堪能できるこの機会をお見逃しなく。
月アフタヌーンティー詳細
【店舗】New American Grill “KANADE TERRACE”(ホテル雅叙園東京1階)
【料金】6600円(サービス料別) / グラスシャンパーニュ付 8470円(サービス料別) / 企画展「月百姿×百段階段~五感で愉しむ月めぐり~チケット付8200円(サービス料込)
【メニュー】
<スイーツ>
早生柿のパンナコッタ / マロンカシス / 三色生チョコ / うさぎマカロン / プレーンスコーン / 和栗のパウンドケーキ / 紅葉(かぼちゃのタルト) / 黒胡麻とショコラのシュー
<セイボリー>
栗のムース トリュフ風味 / かぼちゃと海老の白玉 みたらし風 / じゃがいものクレープスフレ イタリア産キャビア添え
<飲み物(飲み替え自由)>
★ムーン・スマイルティー / ★ピーチ・ローズティー / ★月見ほうじ茶 / ブレンドコーヒー / アイスコーヒー / アイスティー / ダージリンティー / アッサムティー / カモミールティー / アールグレイティー / 特製ほうじ茶(ホット、アイス)
★印は、季節替わりのホテルオリジナルブレンドティー
東京都の指定有形文化財に指定されている、ホテル雅叙園東京の「百段階段」で開催される「月百姿×百段階段 ~五感で愉しむ月めぐり~」。目で見てよし。味わってもよし。今年のお月見は特別な月めぐり体験を楽しんでみてはいかがだろうか?
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文=平岡大和
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