この地球上には、何らかの理由で人間が立ち入りできなくなってしまった場所がいくつかある。
例えばチェルノブイリ原発周囲の立ち入り禁止区域しかり、フランスの「ゾーン・ルージュ」しかり。足を踏み入れた場合に命や健康への被害が予想される地域である。
オーストラリアにも、そんな立ち入り禁止となった町がある。「呼吸するだけで死に至る」危険な場所として、地図からも公式に削除されたウィットヌームという町がそれだ。
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アスベスト鉱山とともにあった町
ウィットヌームは西オーストラリア州のピルバラ地域にあった町で、1930年代から採掘がはじまった青石綿(青アスベスト)の鉱山労働者のために、1947年に建設された。
1950年代までにはこの地域で一番大きな町と言われるまでに成長し、最盛期には合計2万人もの人々が暮らしていたと見られる。
当時、耐熱性と耐火性に優れた青石綿は屋根材や床材、自動車の部品などに使用されており、その需要は大きかったのだ。
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だが、アスベストの危険性が広く知られるようになると、その収益性は落ち、1966年に鉱山は閉鎖されることになる。
その後も住人たちはこの街に住み続けていたが、2006年には周辺地域におけるアスベスト汚染のリスクが算定され、2007年6月に正式に町の廃止が決定された。
2022年9月には、最後までとどまって気象観測などを行っていた住民が退去。翌年から建造物の撤去が行われることとなった。
下の動画は2021年に投稿されたウィットヌームの廃墟郡を写したものだが、2023年に建造物の撤去工事が始まり、現在では既に土台を残してほとんどが取り壊されているそうだ。
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そもそも「アスベスト(石綿)」とは?
アスベスト(石綿)とはいわゆる鉱物繊維であり、昭和の時代は理科の実験に使う「石綿付き金網」とか、蚊取り線香の台なんかにも普通に使われていたのを覚えている人もいるだろう。
大きく分けて蛇紋石族と角閃石族の2種があり、最も多く使われていた白石綿は前者の「クリソタイル」という鉱物で、世界のアスベストのおよそ9割がこれだったという。
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そしてウィットヌームの青石綿は、後者の仲間の「クロシドライト」と呼ばれる鉱物で、最も発がん性の高い石綿と言われているものだ。
実はアスベストそのものに毒性があるわけではないのだが、空中に飛散した細かいアスベストの繊維を長期間大量に吸入すると、その繊維が肺の中に残ってしまい、中皮腫や肺がん、アスベスト肺(肺の慢性線維症)の原因となる。
こういったアスベストに起因する病気の恐ろしい点は、命にかかわるのはもちろんだが、吸入してから数十年という時間を置いてから発症するケースが多いことだ。
ペンシルベニア大学の医学大学院は、アスベストによって引き起こされる症状について、次のように説明している。
アスベストを吸い込んだり、誤って飲み込んだりすると、微細な繊維が肺に詰まって何年もとどまることがあります。
時間が経つにつれて、肺の中のアスベストは炎症や瘢痕化を引き起こし、がんにつながる可能性があります。
その症状は通常すぐには現れませんが、初期症状としては咳や息切れといったものとなって現れます。
一般的にそれほど深刻な症状とは思われないため、多くの人はすぐに医師の診察を受けようとは思わないのです
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アスベストに囲まれた環境を離れてから長い年月が経ち、忘れた頃に発症して命を落とす。いつ発症するか、発症しないで済むかもわからないため、「静かな時限爆弾」とも呼ばれているのだ。
犠牲者は2,000人以上との推定も
ウィットヌームで生活していた元住人のうち、実に2,000人以上がアスベスト由来の疾患で命を落としたと報告されている。
家族全員を亡くしたという人も多く、下の動画では教え子全員が死亡したという元小学校教師、ヘレン・オズボーンさんがインタビューを受けている。
オーストラリアは、世界でもアスベストの使用量が最も多かった国の一つだという。あまりにも広範囲に使われていたため、現在でも多くの古い建物にはアスベストが使われているそうだ。
オーストラリア政府は厳格なガイドラインを設けた上で、各地のアスベストの撤去作業に着手しているが、なかなか追いつかないのが実情のようだ。
現在、ウィットヌームは公式には存在しない町となり、地図からも消されてはいるが、興味本位で訪れる観光客も多いらしい。
短時間の滞在ならさほど健康に害はないとは思われるが、当局はこの町への訪問をやめるよう警告を出している。安易に近寄らない方が身のためだろう。
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