今回は、ondoさんが2024年8月10日に投稿した「区々」(まちまち)を紹介する。
本楽曲は、商用・非商用問わずに無料で使用できる歌声合成ソフトウェア「VOICEVOX」の3周年を祝う文化祭、そしてニコニコ動画のサービス再開を記念して開催された「ぼかえり2024夏」という1回限りのボカロ投稿祭への作品だ。
ボーカルには、不思議で捉えどころのない「VOICEVOX」の女性キャラクターNo.7(なんばーせぶん)の声が採用されている。
はじめに目を引くのは、友波透哉さんが手掛けたミュージックビデオ(MV)で登場するラフなモノクロの人物イラストだ。謎めいた雰囲気を醸し出すこのビジュアルは、楽曲全体の不思議な世界観と一致している。
この曲に独特のグルーヴ感を与えているのは、時折ジャジーなサウンドも顔をのぞかせる楽曲の根幹を形成するノイジーなギターの音色。楽曲全体を覆う捉えどころのない雰囲気は、No.7の声質のファーストインプレッションとも合致していて、その効果を高めている。
ポエトリーリーディングの形式で構成されている「区々」。内なる心の叫びの解放を表現する一般的なポエトリーリーディングとは異なり、冷静かつ無機質な印象を与えるのも本楽曲のポイントだろう。この無機質さは、機械的な音と繰り返される歌詞から生まれていて、ときどき、淡々とニュースを読み上げるアナウンサーの声を彷彿とさせる。
その一方で、歌詞には強いメッセージ性が込められている。「カテゴライズ」をテーマに、社会の中で同質性に囚われた大人たちと、個性を解き放ち自由に生きる人々の対比を描いている。
No.7の歌声は、はみ出し者になった大人の声と、集団を支配しようとする大人たちとの声で分けられていて、それぞれの歌声は幼さと、冷淡な温度感を持っている。例えば、「くくりびと様」と呼ばれる特定の集団をカテゴライズする側の大人のフレーズ「ひとりひとりの違いには目を瞑って、大きなくくりに入れて平等に扱いましょう」という部分は一切の温もりが欠如。表面的な平等を唱える冷酷な大人たちのありさまが、その歌声の醸し出す冷徹な空気感からリアリティを帯びて蘇ってくる。
最後には、すべてをシンプルな仕組みにすれば、互いに手を取り合っていけると感じたものの、現実はそうも上手くはいかないことも伝えて、不安定な音の波のまま、終わりを迎える。
ふたつのカテゴリーを明確にしつつも、簡単には答えが出ないという結末に、この現実社会を的確に表した楽曲と思えた。
■楽曲配信情報
■infomation
「The VOCALOID Collection」 公式サイト
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