この組み合わせは考えたことがなかった
原宿駅から竹下通りを抜けて数分のエリア・神宮前3丁目の一角に、「アート」と「お好み焼き」が融合した不思議な店がある。東京ビッグサイトで毎年開催される『デザインフェスタ』(以下、デザフェス)のグループ会社が営む『さくら亭』である。
店前のスペースは壁画に挑戦できるスペースで、ライブペイントにも利用できる
『デザフェス』といえばアジア最大規模を誇るアートの展示即売イベント。春秋の年2回ペースで開催され、絵画や工芸、ハンドメイドアクセサリー、ライブパフォーマンス……と、さまざまな形のアートが集結するお祭りである。
これまでの『デザインフェスタ』の様子(写真=オフィシャル提供)
そんなデザインフェスタが、旗艦となるギャラリーを持つのはとても自然なことだと思う。原宿には『デザフェス』と魂を同じくする『デザインフェスタギャラリー原宿(EASTとWEST)』があり、作り手と受け手の出会いの場として開かれている。
そしてふたつのギャラリーの間に、同社がおしゃれなカフェを運営するのもまた、自然な流れだと思う。
大きく伸びた樹木がまたオシャレな『DFガーデン』
けれど、さらにその隣で「お好み焼き屋さん」が併設しているというのが、いかにも“なんでもあり”のデザインフェスタらしくて面白いところだ。
アートの祭典『デザフェス』は2024年秋で記念すべき60回目を迎える。SPICEではそれを記念して『さくら亭』へ潜入。お好み焼きを焼きつつ、フェスを運営する前線スタッフさんへのインタビューを行った。本記事はその記録である。
左から:イベントスタッフの小松優子さん、グローリーさん
損得勘定なしの「平等さ」
『さくら亭』エントランス付近は、ポスターギャラリーとしても使われる。取材時は女子美術大学の学生による作品も展示されていた
ーーそもそも『デザフェス』とは、どんな想いを持って作られた場なのでしょうか?
グローリー:表現者のサポートをするために作った場所です。オリジナルであれば自由に表現ができます。なんでも!
小松:我々は「平等」という心を大事にしていまして。もちろん著作権に触れるものはお断りしてるんですけど、それ以外のオリジナル作品であれば好きなように表現していただいて大丈夫なんです。だからチャレンジをしやすい場所だと思うし、『デザフェス』が初めての出展活動という方も多くいらっしゃいます。会場内は初めての方と何度も出展されている方が混ざりあっているのも面白いですし、参加する方々それぞれがいろんな想いを持って出展してくださるのもうれしいですよね。
ーー ビギナーにとっては最初の越えやすいハードルであり、常連さんにとってはホームタウンみたいな存在になっているのですね。
小松:そうなんです! 実は私もvol.58では出展者側で参加してまして、イラストや焼き物とかを作って販売していました。
グローリー:出展者さんの年齢層はとても幅広いですよ。学生さんはもちろん、3歳のお子様や80歳以上のアーティストもいらっしゃいます。
店内や外壁の装飾は、画家やイラストレーターを募集してペイントしてもらっているそう
丁寧に、確実に紡いできた歴史
ーー 次回で記念すべき60回目ということは30周年ですね。おめでとうございます!
小松:ありがとうございます。デザイン系イベントのパイオニア的な存在としてこれからも続けていきたいですし、皆様に安心してご利用いただけるように、基礎がブレることなく、今まで守ってきたことをこれからも大切にしていけたらなと思います。「表現をしたい」という人はこれからもずっといると思うので。
原宿という土地柄か、外国からの観光客も多くいらっしゃるんだとか
小松:ギャラリーWESTの3階に、1994年に開催された『デザフェス』1回目からの写真を収めたアルバムが置いてあるんですよ。それらを見ると、初めたばかりのイベント規模は今よりもはるかに小さくて。でもどんどん来場者が増えて、出展したいという方も増えて。今ではたくさんの方にご参加いただいています。あの場を通じて、自分も表現したいと思ってくださる方が増えているというのもうれしいです。
ギャラリーWEST3階のラウンジにある資料スペースで、これまでのデザフェスを振り返ることができる(撮影=小杉美香)
ーー 30年間も続けるというのはなかなか珍しいと思います。どんなところにその理由があると思いますか?
小松:自由なところ、でしょうか。ハンドメイド系のイベントでも、ここまで個々が自由に表現できる場所っていうのはなかなか少ないので、そこが長年続いてる理由のひとつだと思いますね。 それに、ハンドメイドをしている方って普段はEC(インターネット上での販売)を利用されてる方が多いので、直接お客さんと会える機会自体がすごく貴重なんですよね。出展者と来場者が出会うことによって、新しい創造が生まれてくる、ニューデザインが生まれる……。これ、デザフェスの最近のキャッチコピーなんですけど(笑)、そこがポイントなんだと思います。
グローリー:あとは運営スタッフの温かさ。愛ですかね(笑)!
色鮮やかな室内をバックに、色鮮やかなメニューが続々と運ばれてきた!
さて……運ばれてきた彩り鮮やかなお皿に、ついニヤニヤしてしまう。美味しそうなお肉に海鮮、お好み焼きにソバメシ。そして真ん中にある、一見サラダかのようなお皿に目が釘付けである。「さくら亭」名物の、野草トッピングだ!
突然の野草!
取材班一同、野草初体験であります
なんと10種類もの野草ラインナップが!
『さくら亭』では、世界初という“野草トッピング”をオーダーすることができる(春〜秋限定)。グループ会社の東北牧場で採れたフレッシュな野草を、お好み焼きに乗せたり、ソバメシに混ぜ込んだりしていただくらしい。味に爽やかな苦味や深みが加わるほか、この場所での食事がさらに特別なものになる、体験的な意味でのトッピングともいえるだろう。
ーーなんでまた野草なんでしょうか?
小松:原宿というなかなか自然を感じられない場所だからこそ、それを感じてほしいという思いがあって。隣の『DFガーデン、テラス』では野草茶や野草ラテといったドリンクも出してるんですが、気に入ってくださってリピートしていただくことも多いんですよ。
グローリー:ここでしか飲めない特別感っていうのもあるかもしれないですね。
『DFカフェ』のメニュー、野草茶と野草ラテ
デザインフェスタを、どう泳ぐか?
さあ、どんどん焼いていきましょうね〜
ーー『デザフェス』は東京ビッグサイトの広い敷地に何千というブースが出展されますよね。会場の歩き方、楽しむコツはありますか?
小松:膨大な物量ですが、そのなかにきっと“自分の好きなもの”が見つかると思います。今まで知らなかった、驚くほどの新しいモノとの出会いもあるはず。見たい・行きたいブースをサイトやSNSで事前にチェックするのももちろん良いのですが、あえてなにも計画せずにフラフラと会場内を歩くことによって新しい出会いも待っているので、その“気づき”が面白いというか(笑)。事前に情報を入れずに直感で動くのもアリかもしれません。
グローリー:『デザフェス』は体で表現するのも大事なアートだと考えていますので、ショーパフォーマンスも見どころです。ライブペイント(来場者の前で壁や大画面に絵を描き、創作過程をパフォーマンスとして見せるもの)も他であまり見られないポイントなので、新しい作品が生まれていく瞬間をぜひ体感してほしいですね。いろんな国の方々が集まりますし、本当にインターナショナルなイベントです。
壁画をバックにしているので常に目が愉しい。写真映えもご覧のとおり
大きな節目を迎えるデザフェス、そしてギャラリー
ーーインターナショナルといえば、 今年の6月から……。
小松・グローリー:そう、パリで! ギャラリーがオープンしたんです!
アートの聖地とも言える、パリの中心地・シテ島にオープンした「Design Festa Gallery Paris」 (写真=オフィシャル提供)
「Design Festa Gallery Paris」 (写真=オフィシャル提供)
小松:原宿とパリ、どちらのギャラリーもご案内できるようになりましたので、海外活動を視野に入れている表現者の皆さんはぜひご相談いただきたいです。「日本で活動するクリエイターの作品をパリで発信できる場所」がコンセプトとなっているので、このギャラリーを海外進出の一歩に、ぜひチャレンジしてほしいと願っています。
グローリー:表現するみなさんが海外に進出するのをサポートしますので、まずはお気軽にお問い合わせください!
より香ばしくジューシーに。アートで世界が変わる
いよいよクライマックス。香りをお届けできないのがもどかしい
ーーでは最後に、『デザフェス』への来場を検討されている方へメッセージをお願いします。
グローリー:まだ体験したことのない方はぜひ一度遊びに来ていただきたいです。リピーターの皆さんもぜひ今後も変わらずお越しいただけるとうれしいです。『デザフェス』は毎回新しいものと出会える、毎回違う体験ができる場です。アートを通じて、世界観が変わりますよ!
小松:日常にちょっとした刺激が欲しい方にもおすすめしたいですね。私たちは次回に向けて出展者の皆さんとやりとりしているところなんですが、表現者さんと接する毎日は刺激的です。『デザフェス』はまさに、刺激の最前線ですね。
仕上げに野草をトッピングして、いただきます。幸せ!
お好み焼きとアートは、かけ離れたものだと思っていた。お好み焼きのいい香りのなかで、アートな思考に浸れるのか心配だった。でもそんなこと言ったら、ダ・ヴィンチの《最後の晩餐》だってそもそもは食堂の壁画だ。表現者の筆づかいに囲まれた店内で、うまさを追求してお好み焼きを焼くのは、意外と筋が通っているかもしれないと感じた。何より、楽しい。お好み焼きや鉄板焼きは、皆でワイワイ食べるのがよく似合う。ギャラリーを訪れた人や出展者がアートを語り合う場所として、「さくら亭」はとても重要な役割を果たしているのではないだろうか。
表現者の挑戦を応援するギャラリーと、併設のお好み焼き店。それらすべての始まりの場である一大イベント『デザインフェスタvol.60』は、2024年11月16日(土)、17日(日)の2日間、東京ビッグサイトにて開催される。
「vol.60」の数字に込められた歴史の重みに少しだけ想いを巡らせてみてほしい。そこには1994年から綿々と続いている、作り手たちの熱と、それを支える受け手たちの愛がある。そしてこれだけの規模のものが30年も続くということは、端的に言って、よほど楽しいとしか考えられないのだ。
文=小杉美香 撮影=大橋祐希
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