何か新しいことを始めようと思っても、なかなか最初の一歩を踏み出せなかったり、踏み出せてもすぐに飽きてしまったり、皆さんもこうした経験はありませんか? すぐに行動したほうがいいと理解しているのに行動できず、「自分はなんて怠惰なのだ」と自己嫌悪に陥る人もいるでしょう。しかし現役脳神経外科医・菅原道仁さんに言わせれば、それは"脳"のせい。

「誤解を恐れずに定義すると、脳とは『怠惰で、流されやすく、誘惑に弱い』(中略)大事な仕事を任せても、その内容について深く考えず『いつもと同じ方法で、できるだけラクにこなそう』とやっつけ仕事をしてしまう、無気力な人」

 上記は菅原さんの著書『すぐやる脳』に記された脳についての説明です。「やらなきゃなあ」と思いつつ先延ばしにしている自分のことを言い当てられているようで、ドキッとしてしまう説明ですね。ただ、10人中9人はこうした先延ばしグセをもっていると菅原さんは記します。自分だけではないことに少しホッとしてしまいますが、いったいどうすれば先延ばしグセが直るのでしょうか?

 同書によると"ドーパミン"がカギになるとのこと。ドーパミンとは、何かを達成したときなどに分泌される脳の快楽物質です。これが出ると心地よい状態になり、「また同じ状態になりたい!」と脳が頑張ってくれるので、利用しない手はありません。

ドーパミン・コントロールは、"唯一"にして"究極"のやる気を発動させる方法です(中略)ドーパミン・コントロールとは、3つのステップを1サイクルとして循環させ、それを繰り返すことでうまく習慣化していくこと」(同書より)

 3つのステップとは、「ステップ1:自己暗示をかける」、「ステップ2:スモールステップに分ける」、「ステップ3:ドーパミンを分泌させる」のこと。「自己暗示をかける」と聞くと、なんだか怪しいなと思ってしまうかもしれませんが、「自己暗示は極めて重要」と菅原さんは記します。

 具体的な方法としては「英会話を30分やる!」や「今日は絶対にジムに行く!」など、「小さな目標」を声に出して言うこと。前述したように脳は怠惰なので、何度も声をかけることが大事だと菅原さんはアドバイスします。また、ステップ2にあるように、小さな目標であることが重要です。

「大きな目標に突然挑むのではなく、小さな目標に細分化する。そして小さな目標を達成するたびに、喜びを感じる。つまり小さな成功体験でよいので、こまめに積み重ねていくのです(中略)目標が大きくなればなるほど、達成までには時間がかかるもの。『待ち遠しい』という心境を通り越し、『待ちきれないから、どうでもいい』という"無関心モード"になってしまいます」(同書より)

 そして「ステップ3:ドーパミンを分泌させる」では、ドーパミンをレベルアップさせる、以下の6つの方法が同書で紹介されています。

・運動を楽しむ(ウォーキングや散歩、ヨガなど、強度の弱いものでも十分)
・瞑想をする
・趣味に没頭する(読書、工作、手芸、楽器演奏、写真撮影など)
・音楽を聴く(ただし、脳はマルチタスクが苦手なため、作業を始めたら聴かないほうがよい)
・新しいものを探す
・新しいことに挑戦する

 ただし、依存性の高い手段によるドーパミンのレベルアップには注意が必要とのこと。

「砂糖、カフェイン、アルコール、ショッピング、ギャンブルなど依存性の高い手段に依存すると、健康的な手段でドーパミンを分泌させることが難しくなりがちです」(同書より)

 たとえば"仕事前にコーヒーを飲んでやる気を出す!"という人もいるかと思いますが、これからは少し控えたほうがよさそうです。

 同書では他にも、現役脳神経外科医の菅原さんならではの視点で、「すぐやる脳」にする方法がたくさん書かれています。個人的には第6章「挑戦する」の「日本人の脳は、遺伝的に挑戦を避けやすい」のパートが、"国によって違いがあるのか!"という驚きと発見があり、ぜひ読んでいただきたいところです。簡単で理解しやすい文章なので、読み進めやすいのも同書のうれしいポイント。

 先延ばしをしていることがある人、新しいことに挑戦したいけれど尻込みしている人、やったほうがいいことがあるのに腰が重くて始められない人など、多くの人の人生を好転させるヒントが詰まった同書。これを機に皆さんも先延ばしグセを克服してみませんか?

[文・春夏冬つかさ

『すぐやる脳』菅原道仁 サンマーク出版