CX-8の後継となるマツダのフラグシップSUV「CX-80」が、ついにローンチ。徳島空港から淡路島、そして神戸という長距離ドライブで、その真価に触れてきました。
快適さと豊かさを両立させたパッケージング
CX-80は既発売のCX-60と同じプラットフォームを使いながら、3列シートを実現したモデル。ボディーサイズは全長4990×全幅1890×全高1710mmとCX-8を少しだけ大きくしたラージサイズ。CX-60に比べると全幅は同じながらも、全長は250mmも長く、なるほど3列だから長くなったのか、と理解できます。
ちなみにCX-8とボディーサイズはほぼ同じですが、ホイールベースは2930mmから3120mmへと伸長。その分はキャビンの広さにつながっています。
ライバルとなる日本車の3列シートSUVと比べると、三菱アウトランダーは全長4710×全幅1860×全高1745mm、日産エクストレイルが全長4660×全幅1840×全高1720×、トヨタのランドクルーザープラドが全長4825×全幅1885×全高1850mm。この点からも「もっともゆとりあるSUVを求めるなら、CX-80が好適」といえそうです。
国産車の3列SUVでは最長となる全長5mですが、たとえばBMWのX5は全長4955×全幅2015×全高1770mmであるように、実はワールドスタンダード。とはいえ、日本には日本の事情があり、2mという全幅は幹線道路はともかく、狭い路地や駐車場では取り回しに苦労しそうです。よって、CX-80のボディサイズは「日本国内における快適性と取り回しのギリギリのライン」といえそうです。
コスパならディーゼル、燃費ならハイブリッド
家で充電できるならPHEVと好みと環境で選べる
パワートレインはe-SKYACTIV D 3.3マイルドハイブリッド(ディーゼル)、SKYACTIV-D 3.3(ディーゼル)、e-SKYACTIV PHEV(ガソリン・プラグインハイブリッド)の3種類。駆動方式はマイルドハイブリッドとPHEVは4WDのみ、ディーゼルエンジンはFRの2WDと4WDの2種類を設定。なお、PHEVとは外部から(たとえば家の電源など)からも充電可能なハイブリッド車のことです。
注目は新開発の3.3L直列6気筒エンジンのディーゼルハイブリッドに、48Vシステムを加えたマイルドハイブリッド(モーターの出力が低めのハイブリッド)。最高出力254PS、最大トルク550Nmというトルクフルさと高速道路でリッター20kmを超える好燃費の両立がウリ。
PHEVは、2.5L直4ガソリンエンジンを核としたもので、システム最高出力は327PS、最大トルクも500Nmとハイブリッドを上回る高出力ぶり。バッテリー容量は17.8kWhで、充電時間はAC3kWhで約7時間、DC40kWh以上の急速充電で約25分で満充電になるとのこと。
電力だけで67km走行可能としています(WLTCモード)。ちょっとした移動であったり、静粛さが求められる早朝の住宅街で効果が得られるでしょう。
PHEVの動作としては、バッテリーの電力を積極的に消費していくようで、空っぽになると普通のハイブリッドのような動作に。最近の輸入PHEVで見かける、指定値以下にバッテリーを消費しないというモードはない様子。ですが、走行中にチャージ可能で、上限設定もできます。
高級感のある上質なインテリア
3列目シートも足下に余裕アリ
威風堂々としたエクステリアに相応しいインテリアもCX-80の美質。利便性と快適性が両立し、居住性が高いところがポイント。セカンドシートのうち、キャプテンシートには座席間にコンソールのあるセパレートタイプとコンソールのないウォークスルータイプの2種類を用意。さらに3人掛けベンチシートも用意します。
3列目シートはオマケではなく、しっかりと大人が座れるあたりがCX-80の美質。絶対的な居住性ではミニバンですが、大人が体育座り状態になりません。
インテリアの仕立てや色、素材などはグレードによって細かく異なり、紹介するのにとんでもなく長くなってしまうほど。その中から筆者的に気に入ったものを紹介すると、Exclusive Modernです。ホワイトレザーは清潔感があり◎。シンプルながら必要十分なスイッチ類に好感を抱きます。
アレクサ対応でボイスコマンドが豊富に
運転中に画面を見なくても操作できる
インフォテインメントで注目は、アマゾンのアレクサに対応したこと。ナビゲーションの目的地設定だけでなく、車両の空調を音声でコントロールできるようになりました。
スマートフォンはAndroid AUTOとApple CarPlayに対応。ですがワイヤレス接続はできないようです。
USBは運転席、2列目、3列目にUSB Type-Cを各2系統用意。給電能力は1ポートあたり運転席が18W、その他のシートが15Wなので、ノートPCの充電は難しいものの、スマートフォンの充電には十分すぎる容量を確保しています。さらに運転席にはQi充電対応のスマホトレイも用意します。
荷室には150WのACアウトレットを用意。走行中にノートPCなどが充電できるのは実に便利。さらにPHEV車は停車状態でも利用可能な1500WのACアウトレットも用意されているからすごい! アウトドアで家電を使いたいという方には好まれること間違いありません。
シートも足周りも硬すぎず柔らかすぎずで
長距離ドライブが快適になる乗り心地
CX-60とCX-80は2列シートか3列シートかという違いだけでなく、スポーティーな走りを求めるCX-60、高級感のある上質な乗り心地を追求するCX-80と、キャラクターに違いを持たせているとのこと。
まずはマイルドハイブリッド版で高速道路を試乗。長いホイールベースゆえ、長距離ドライブは直進性が高く実にラク! ディーゼルとは思えないほど静粛性が高いのも美質で、乗り心地もゆったりとして快適です。特に2列目の乗り心地、居心地はもちろんのこと、3列目の居住性は特筆すべきところ。「本当にこのクルマは、この値段(600万以下)でいいのか?」と何度も価格表を見直したほど。
運転支援も出色のデキ栄え。激しい降雨など、従来ではハンドル支援のアダプティブクルーズコントロールが働かない状態でも、かなり粘って使えるところに驚き。
では運転が退屈なのかというと、そのようなことはなく、マツダらしいハンドリングのよさ。CX-60はもう少し排気音の演出などや、硬質な足回りでコーナリングを訴求するのに対し、CX-80はジェントルながらビッグトルクとオンザレールの気持ちよさを訴求する方向。つまり「頑張らなくても楽しい」というわけ。
続いてPHEV版を試乗。新色で“匠塗”の第4弾「アーティザンレッドプレミアムメタリック」は実に上品で、街並みに溶け込む印象。光の加減で色が変わるのですが、さらに雨に濡れると色気が増す印象。ちょっとオヤジ好みな色に見えますが、筆者がCX-80を買うなら、この色を選ぶと思います。
静粛性に関しては、さすがEVといえるもので実に静か。ですが、エンジンが動き始めるとマイルドハイブリッド版の方が静粛に思えるのが不思議。CX-60のPHEVで感じた、エンジン動作時における低速時のギクシャク感はかなり改善され、普通のクルマになったという印象。ただ回生ブレーキがかなり強いので、丁寧なアクセルワークが求められそう。
EVモードで街並みを走ると「これからのクルマのあるべき姿はこれなのか」と実感。バッテリーを床面に置いたことによる低重心さは、車両にさらなる安定感をもたらし重厚な乗り味に貢献するし、モータードライブによる静粛な走りは感動のひとこと。トルクもあることから、信号待ちをスーッと走りだすあたりは快感で、とても大柄のクルマとは思えず……。
もし貴方が遠くに出かけることが多く、目的地に着いたら疲れて動きたくない、という「運転手あるある」とは無縁のクルマを探しているなら、CX-80は一度試乗すべき1台。乗る前まで「3列目シートのあるSUVは大家族向け」と思っていたのですが、CX-60とは異なる魅力に溢れていることを実感しました。
大きいことは豊かさに直結し、良質な乗り味と高品位なインテリアは、一層心を豊かにさせてくれる。「このクルマで家族やパートナーと旅行に行ったらすべてが思い出になる」「大切な人と旅に出たくなる」。そんな人生が豊かになりそうなCX-80。許されるならCX-60ではなく、CX-80の方を選びたいと思ってしまいました。
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