自民党総裁選や首相指名を受けた衆参両院の本会議、立憲民主党野田佳彦代表らとの党首討論など、9月27日以降、石破茂首相はさまざまな場所で拍手を受けてきた。政治家は大会や式典、演説会への出席も多く、さして珍しいことではないだろうが、日本国のトップになって受ける拍手は格別なはずだ。

 しかし、どの場面でも拍手は「かなり少なかった」(閣僚経験者)という。総裁選が終わって「ノーサイド」といった掛け声は端から建て前だけのようで、自民党内の“石破アレルギー”がまだまだ根強いことを物語る。参拝のときの柏手の数ほどしか手をたたかない議員たちを見て、石破首相が「党内融和より国民の共感が大事」と強調したくなるのも無理はない。

 もともと石破氏の自民党内における不人気ぶりは有名だ。逆に「次の首相」を尋ねる世論調査では、必ず上位に名を連ねてきた。だから“永田町的”でない石破氏に国民は期待し、石破氏も国民に「納得と共感の政治」を訴えた。だが、切り取られて報じられた、かつての五輪相の言葉を使うならば、石破首相に「がっかりだ」と感じている人は意外に多い。

 石破首相は強く否定するが、国民が「がっかり」している大きな理由は、その“豹変ぶり”や“変節ぶり”だ。衆院の解散時期についても、裏金議員の公認問題についても、あるいは利上げ問題やアジア版NATOについても、総裁選で言っていたことと、総理総裁になってからの言動があまりにも違う。そもそも敵をつくっても、干されても、権力に迎合しない、信念を曲げないことが石破氏の持ち味だったはずだが、それが失われているわけだ。

 党首討論で“豹変”が指摘されると、石破首相は「自民党は強権独裁政党ではない」と言い放ち、自らの正当性を強調した。だが、それならば何のための公約だったのか。国民の中には郵政民営化を掲げた小泉純一郎首相(当時)との違いを感じている者もいる。総裁選で勝利を収めれば、たとえ反対論があっても公約は政権与党の政策になるとの単純な構図が石破政権では成り立たず、国民に不信と不満を抱かせている。小泉首相は異議を唱える議員に公認を与えないだけでなく、“刺客”まで立てて有言実行を果たした。

 わずか3カ月前までは自民党にはすさまじい逆風が吹き、政権交代の可能性が高まった。総裁選での盛り上がりで自民党は支持を回復しつつあったが、石破首相の“ブレ”も影響して、まだまだ自民党には追い風は吹いておらず、来る衆院選は「かなり厳しい戦いになる」(自民中堅)と見られている。石破首相が急きょ、「相当程度」の裏金議員を非公認にした理由も、ここにある。

 個々の議員の当落が気になるのはもちろんだが、石破首相が態度を一変してまで早期に臨む衆院選の最大の焦点は、自民党、さらには公明党を合わせた与党の獲得議席数だ。石破首相が「自公で過半数(233議席)」と明言した勝敗ラインを超えられるかどうか、自民党単独で過半数を獲得できるかどうか、さらには自公両党でどのくらい議席を減らすかで、今後の政局は大きく変わる。

 もっとも、野党間の選挙協力が進んでいない結果、今回の選挙で政権交代が起きることは考えにくい。しかし、立憲の戦略が来年の参院選で「ねじれ現象」を生じさせ、この次の衆院選での与野党逆転を目指すのだとするならば、今回の選挙結果にその兆しが表れる可能性もある。虫眼鏡をあてるべきは、比例区選挙における与党の得票率だ。

 最近の国政選挙の比例区における自公両党の得票率は合わせて46%程度で推移しているが、政権交代前の2007年参院選はそれを大きく下回った。衆院選に比べ、参院選は野党共闘が実現しやすく、有権者も政権に灸をすえる傾向が強い。仮に今回の衆院選で与党が過半数を維持できたとしても、比例区の得票率が40%そこそこならば、それは石破政権に対する有権者のすさまじい警鐘で、来年の参院選は相当な覚悟が必要となる。

 来年の話をすれば鬼が笑うというが、衆院選の翌々日の朝刊に載る比例区の得票率を見れば、来年の石破政権の運勢が「吉」なのか「凶」なのかが、おぼろげながら見えてくるかもしれない。

【筆者略歴】

 本田雅俊(ほんだ・まさとし) 政治行政アナリスト・金城大学客員教授。1967年富山県生まれ。内閣官房副長官秘書などを経て、慶大院修了(法学博士)。武蔵野女子大助教授、米ジョージタウン大客員准教授、政策研究大学院大准教授などを経て現職。主な著書に「総理の辞め方」「元総理の晩節」「現代日本の政治と行政」など。

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