食べたらウンチする。
これは生きとし生けるものの摂理です。
しかし、この自然のルールに反する生き物が発見されました。
名古屋大学の最新研究で、日本国内に生息する「アイフィンガーガエル」は、オタマジャクシでいる間はウンチをしないことが明らかになったのです。
調べてみると、彼らにはどうしてもウンチできない切実な理由がありました。
研究の詳細は2024年9月22日付で科学雑誌『Ecology』に掲載されています。
目次
- 日本で唯一「子育て」をするカエル
- 小さな水場で生き抜く2つの戦略が判明!
日本で唯一「子育て」をするカエル
アイフィンガーガエル(学名:Kurixalus eiffingeri)は石垣島や西表島、台湾に生息するアオガエル科の一種です。
彼らは日本に生息する種の中では唯一「子育て」をするカエルとして知られています。
オスとメスがつがいを形成すると、彼らは魚類や甲殻類などの天敵の脅威から子供たちを遠ざけておくため、樹上の木の洞や切り株にできた小さな水場に産卵します。
父親の方は卵を監視して乾燥や天敵から守り、母親の方は自らの無精卵をエサとして生まれてきた子供たちに与えるのです。
オタマジャクシたちは小さな水場の中で、母親の無精卵だけを食べて大きくなっていきます。
ところが、この特殊な生息環境ならではの切実な理由があるのです。
狭すぎてウンチしたら死ぬ⁈
オタマジャクシが幼生期を過ごす水場はとても小さく、閉鎖的な環境となっています。
その中に何十匹もの兄弟がギュウ詰めになって暮らしているわけですから、全員がウンチをしてしまうとどうなるでしょう?
ウンチには有害なアンモニアが含まれており、木の洞や切り株の少ない水ではアンモニア濃度を安全なレベルまで薄めることができないのです。
つまり、全員がいっせいに水場にウンチをしてしまったら、アンモニア濃度が異常に高くなって、オタマジャクシたちは死んでしまうと考えられます。
そこでアイフィンガーガエルのオタマジャクシが取った戦略は「ウンチをしない」ことでした。
研究チームは飼育を通した追跡観察から、本種のオタマジャクシが大きく成長するまで固形の便を排泄しないことを確認しました。
その代わりに、オタマジャクシたちは外に出せないウンチを腸内いっぱいに溜め込んでいることがわかったのです(上図を参照)。
これを受けてチームは「本種のオタマジャクシがウンチをせず、アンモニアの排出量を減らすことで、小さく閉鎖された水場における汚染を避け、生存に有利な独自の衛生戦略を獲得しているのではないか」との仮説を立て、調査を行いました。
小さな水場で生き抜く2つの戦略が判明!
チームはまず、アイフィンガーガエルのオタマジャクシがどれほどの量のアンモニアを環境中に排出しているかを調べてみました。
実験では、本種の他にニホンアマガエル・ヤマアカガエル ・モリアオガエルの3種のオタマジャクシを用意し、同じ体積(20ml)の蒸留水の中で飼育。
時間が経つにつれて、水中のアンモニア濃度がどう変化していくかを測定しました。
その結果、他の3種に比べて、アイフィンガーガエルは環境中に排出しているアンモニア量が大幅に少ないことがわかったのです。
次に、腸内のウンチに含まれているアンモニア濃度に注目。
オタマジャクシのウンチを解剖によって腸内から取り出し、アンモニア濃度を測定しました。
すると今度はアイフィンガーガエルだけが他の3種に比べて、ウンチ中のアンモニア濃度が高レベルで蓄積されていたのです。
このことからアイフィンガーガエルはアンモニアを多量に含んだウンチを腸内に溜め込み、体外には排出していないことがわかりました。
アンモニア耐性が強い!
さらにチームは、それぞれのオタマジャクシが環境中のアンモニア濃度にどれほどの耐性を持っているかも調べてみました。
この実験では、アイフィンガーガエルとニホンアマガエルの幼生を様々な濃度の塩化アンモニウム水溶液の中で飼育し、生存率を比較。
その結果、アイフィンガーガエルはニホンアマガエルが生存できないアンモニア濃度でもほとんど死亡することがなかったのです。
このアンモニア耐性の高さが、体内にウンチを溜め込んでも死なない要因の一つかもしれません。
それほどアンモニア耐性が強いなら、水場にウンチしても大丈夫なのではないでしょうか?
しかしそういうわけにはいきません。
自分だけのウンチを体内に溜めておくなら十分に耐えられますが、狭い水場に兄弟みんながウンチすると、水中のアンモニア濃度はとんでもない高さにまで跳ね上がります。
先の実験では、アイフィンガーガエルもあまりに高濃度のアンモニアにさらされると死亡していることから、「みんなで外にウンチするのは禁止しよう」と本能的に決めているのでしょうね。
まとめ
以上の結果をまとめると、アイフィンガーガエルのオタマジャクシは小さくて狭い水場に対し、
・ウンチをしないことでアンモニアの排出量を抑える
・アンモニア自体への耐性を強める
という2つの生存戦略によって、幼生期の生存率を高めていると結論されました。
その後、アイフィンガーガエルは大人と同じ姿にまで成長した直後に初めてウンチをします。
「ウンチしたら死ぬ」とはあまりに絶望的な運命ですが、生命は閉鎖的で小さな環境を生き抜くために、私たちではあり得ないユニークな衛生戦略を編み出していたようです。
ウンチをしないオタマジャクシを新発見 ~生息環境を汚さない衛生戦略で生存率を上昇~(PDF)
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/upload_images/20240925_sci.pdf
元論文
Phytotelmata-dwelling frog larvae might exhibit no defecation: A unique adaptation to a closed aquatic environment
https://doi.org/10.1002/ecy.4428
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
ナゾロジー 編集部
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