「なんでホラーゲームが好きなの?」
「ひとりでやってて怖くないの?」
小学生のころからホラーゲームが好きだった筆者は、たびたびこのような質問をされる場面に出くわします。怖いか怖くないかでいうと怖いのかもしれませんが、ホラーゲームは「つっこみどころ」が多すぎて怖がっている暇がありません。怖さよりもおもしろさが勝ってしまいます。
たとえば1995年に発売された初代『クロックタワー』の冒頭。孤児4名が山奥の洋館に連れて来られたと思ったら、さっそく引率の先生がどこかへ行ってしまいます。すると主人公のジェニファーが、どう見ても広い洋館にもかかわらず「私(ひとりで)見てくる」と言い出すではありませんか。
いやいや、そこはせめてふたりじゃない!? だって4人いるんだから!その状況下で単独行動をしていい結果になることある!? バディを組みなさいよ、バディを!
……と、つっこまずにはいられません。しかし筆者のそんな言葉は届くはずもなく、ジェニファーが先生を探すために広間を離れた直後、悲鳴とともにほかの孤児たちも姿を消してしまいました。
だから言わんこっちゃない!
このようにホラーゲームは「ぜったい行かないほうがいい」「ぜったいやらないほうがいい」ということをやってしまうのがお約束。さらに「明らかに不気味なもの」や「なぜか襲ってくるクリーチャー」などを見ると、いったいここでなにが起こったのかと興味が湧いてしまいます。
筆者がこのような視点でホラーゲームをするようになったのは、いまから約30年ほど前に『クロックタワー』をプレイしたことがきっかけでした。というのも、「えっ、そこから!?」という場所から殺人鬼・シザーマンが登場してくるため、つっこまずにはいられません。また、「それで倒せるんだ!?」という意外とゴリ押せる撃退方法にも興奮しました。
そこで本稿では、『クロックタワー』の復刻版として10月31日に発売された『クロックタワー・リワインド』で「初代シザーマンの奇行」を振り返ってみようと思います。本作は、スーパーファミコン用に発売されたオリジナル版を現行のゲーム機に移植したもの(ありがたい)。オープニング曲やアニメーションが新たに追加されています。
約30年の時を経て再会した初代シザーマンは、相変わらず “殺人鬼のプロ” でした。その、残忍でありながらどこか憎めない(?)姿をお届けいたします。
文/柳本マリエ
『クロックタワー・リワインド』SUPERDELUXE GAMESの販売ページはこちら『クロックタワー・リワインド』北米版の販売ページはこちら『クロックタワー・リワインド』Steamページはこちらここから先は初代シザーマンの登場シーンや撃退方法、また被害に遭ってしまった友人たちの様子について言及しているため「自分の目で確認したい」という方はご注意ください。
主人公のジェニファーは基本的に「逃げること」しかできない非力な少女
オリジナル版は約30年も前のゲームなので、念のためあらすじを思い出しておきましょう。
グラニット孤児院で養育されていた少女たち「ジェニファー」「アン」「ロッテ」「ローラ」の4名は山奥に佇む洋館の主に養女として迎えられました。
しかしそこで彼女たちを待ち受けていたのは、巨大なハサミを持って執拗に襲いかかってくる殺人鬼「シザーマン」。力のないジェニファーはひたすら逃げることしかできず、館からの脱出を試みます。
以上が大まかなあらすじです。これから始まる新しい生活に胸を躍らせて訪れた館に殺人鬼がいたわけですから、たまったもんじゃありません。冒頭でも触れたとおり先生や友人たちと早々にはぐれてしまうため、ジェニファー(プレイヤー)は下記を目標に探索を進めます。
しかし、忘れてはいけないことがひとつ。ジェニファーは特殊能力など持っていない普通の少女です。銃などの武器は扱えず、体力もありません。そのため、シザーマンと遭遇したときにできることといえば「どこかに隠れる」あるいは「近くにあるものを使って撃退する」くらい。
ただし、危機的な状況に陥ったとき “ボタンを連打すること” で一時的に回避できる「RSIシステム」【※】が採用されているので、困ったときはボタンを連打することでなんとかなることもあります。このシステムについてはのちほど改めて紹介させてください。
それではひと通り『クロックタワー』のおさらいができたところで、いよいよシザーマンについて触れていこうと思います。シザーマンのおもしろさのひとつは、やはり「バリエーション豊かな登場シーン」ではないでしょうか。エンタメ性が強く、いつもプレイヤーに驚きを与えてくれます。
ただ筆者は、ド派手に登場すればするほど「わざわざそこで待機してタイミングを見計らってたんだ」と、シザーマンの事前準備にじわじわせずにはいられません。そこでここからは、殺人鬼としてのプロ根性がキラリと光る圧巻の登場シーンを3つほど紹介させてください。
「殺人鬼としてのプロ根性」その1:お湯を張ったバスタブで待機
おそらく多くの人が「シザーマンと初めて遭遇した場所」は、浴室だったのではないでしょうか。「ぜったいなにかある」という異様な雰囲気のなかシャワーカーテンを開けると、(特定の条件で)ローラが吊るされており、シザーマンが水しぶきとともに浴槽から登場。シリーズのなかでも有名なシーンです。
筆者はこのとき「シザーマンが浴槽の中でもぐって待機している姿」を想像してしまい、ダメでした。だってこれ、上記のようにジェニファーを襲うためにはかなりの事前準備が必要なはずなんです。
①あらかじめローラの命を奪う
②ローラを縛り浴室に吊るす
③お湯を浴槽いっぱいに張る
④シャワーカーテンを閉めて浴槽内で待機
⑤ジェニファーが来たら身を隠すためにもぐる
まず①②の時点でハードルが高い。たとえばローラを吊るしている最中にジェニファーが来てしまったら、それはそれで「こいつやべぇ」となりますが、ちょっと間抜けな気がします。なぜなら、おそらくハサミをどこかに置いて作業していると思うので。
「最大のアイデンティティがハサミ」なシザーマンにとって、ハサミを持っていない状態でジェニファーと遭遇するのは避けたいのではないでしょうか。
ということは、ローラの命を奪ってから吊るすまでけっこうテキパキ動いていたと思うんです。ジェニファーが浴室に入った時点でシャワーカーテンは閉められていたため、シザーマンはお湯を張った浴槽の中で待機していたのでしょう。
しかし浴槽の中からザッパーンと登場するには、わりと深くまでもぐり自分の身を隠す必要があるかと思います。いくら子どもとはいえ、巨大なハサミとともにもぐりながら待機するのはけっこう苦労したはず。
そう思うと殺人鬼としてのプロ根性に感心するとともに、怖さよりもおもしろさが勝ってしまいます。
以上のことからこのシーンは印象強く残っているため、筆者は本作をプレイするにあたり「シザーマンと再会するなら浴室がいい」と決めていました。画像からは伝わりにくいかもしれませんが、こう見えて “感動の再会” です。元気そうでなにより。
「殺人鬼としてのプロ根性」その2:失敗は許されないステンドグラス
つづいて紹介するのは、先ほどとはまた違った緊張感のある登場シーン。(特定の条件で)広間に入ると、天井のステンドグラスを突き破り、アンを串刺しにしながらシザーマンがアクロバティックに登場します。
これは、先ほどのローラのときより難度が高いのではないでしょうか。なぜなら、ジェニファーが真下にいるかどうかシザーマンの位置から見えていない可能性が高く、突き破るタイミングが難しいからです。
くわえて、気になるのはステンドグラスの耐久性。必要に応じて負荷を調整しなければあのように突き破ることはできないはず。ということは、ここぞという瞬間に大きな負荷を与えていたと思われます。
あらかじめステンドグラスの上にアンを寝かせていたのか、あるいはアンを高い位置から落とす(そのとき自分も一緒に落ちる)などで負荷を与えていたのか。いずれにせよ「タイミング」と「耐久性」を考慮しなければならないため難度が高い気がします。
なにより、ステンドグラスは1回割ってしまったら破片が床に残るのでやり直しができません。そのためもしタイミングを誤り「ジェニファーがいると思って突き破ったけどじつは気のせいでだれもいなかった」みたいなことが起こったら、さすがのシザーマンもダメージが大きいはずです。つまり、失敗は許されない。
そういったシザーマンの緊張感やタイミングを見計らっている姿を想像すると、やはりおもしろくなってしまいます。
「殺人鬼としてのプロ根性」その3:着地時に響きわたる不協和音
シザーマンの演出は視覚だけにとどまりません。ピアノの真上(天井)から落下し、着地時に鍵盤を踏むことで不協和音を響かせるという聴覚に訴える登場シーンもありました。
殺人鬼にこんなことを言っても仕方ないかもしれませんが、あまりにもお行儀が悪すぎる。しかしながら「聴覚を刺激する」というこれまでとは別のアプローチを仕掛けてくるあたり、演出として “ちゃんと狙っている” のではないでしょうか。バリエーションの豊かさに感心してしまいます。
上記のことからこの部屋はピアノの印象が強かったので「ピアノにさえ近づかなければ安全」と思っていました。そこでなんの警戒もせず窓際を調べてみたところ、なんと今度はカーテンに隠れていたため意表を突かれます。
「カーテンに隠れる」は、これまでの登場パターンの中では明らかに地味。ド派手な登場シーンのイメージが強かったため、そういう手堅い隠れ方もしっかりおさえてくることが意外でした。ジェニファーが部屋に入る前にいそいそとカーテンに隠れていたと思うと、おもしろくないですか?
このようにシザーマンは登場シーンだけでも殺人鬼としてのプロ根性が垣間見えるため好感が持てます。
ホラーゲームをしているときの筆者はだいたいニヤニヤしているのですが、その理由は「その状況にいたった経緯」を頭の中で想像してしまうため。詳細に想像すればするほどおもしろいです。
シザーマンを前にしたら、Renda Sezuniha Irarenai(連打せずにはいられない)
さて、ここからはシザーマンの撃退方法についても触れていきましょう。ジェニファーはシザーマンと遭遇してしまった場合、「どこかに隠れる」あるいは「近くにあるものを使って撃退する」など対処しなければなりません。
「ベッドの下に隠れる」や「包丁で反撃する」などのまっとうな回避/撃退方法はもちろんあるのですが、ここでは「それで倒せるんだ!?」という意外とゴリ押せる撃退方法を紹介させてください。
まずはなんといっても、RSIシステムを用いた危機回避方法ではないでしょうか。たとえばシザーマンが目の前にいるとき(パニック状態中)にボタンを連打すると、なんとジェニファーが下記のように「力」で対抗します。体力がある場合はシザーマンを押し倒すことが可能。
「ジェニファーって意外と強い」と驚いた人も多いはず。思いっきり頭を押さえて押し倒していますからね。偉いよ、ジェニファー。ただしこれはあくまで一時的な回避のため、シザーマンからの追跡を逃れるためには適切な対処が必要です。
その「適切な対処」のひとつとして、たとえば下記をご覧ください。この部屋では本棚を使って撃退することができるのですが、“やや不安が残ることでお馴染み” の撃退法です。
……これ当たってる?
シザーマンの背丈からするとあまり効いていない感じもしますが、これでシザーマンからの追跡を逃れることができます。筆者はこの「効いているのか効いていないのかわからないところ」に臨場感を感じました。
そしてこのようなジェニファーとシザーマンの絶妙なバランス関係こそ、筆者が『クロックタワー』を好きな理由のひとつでもあります。圧倒的な体格差や能力差がないためモチベーションを保ちやすい。
とはいえ巨大なハサミを持っている時点でぜんぜんフェアではないですけどね。それでも逃げてさえいればなんとかなることが多いので、当時まだホラーゲームに慣れていなかった筆者でも心が折れることはありませんでした。
このほかにももっとたくさん触れたいところはあるのですが、すべてを書いてしまったら楽しみを奪ってしまうかもしれないのでこのあたりで止めておきます。
いまから約30年前、オリジナル版の発売当時はまだゲームの対象年齢を表示する制度(CERO)がなかったこともあり、10歳だった筆者は夢中で遊んでいました。筆者が「ホラー」というジャンルを好きになったきっかけは、間違いなく『クロックタワー』です。
その翌年、続編にあたる『クロックタワー2』を遊ぶためにプレイステーション本体を買うくらい、筆者にとっては影響力の大きいゲームでした(お年玉はすべてゲームに費やすタイプ)。
ちなみに当時の小学生のあいだでシザーマンはかなり人気でした。たまたま同級生に “双子の男子” がいたため、わりと臨場感のあるクロックタワーごっこができてしまう状況だったこともありますが、筆者もよくシザーマンのモノマネをしていた記憶があります。もちろん凶器は持っていないのでご安心ください。
ホラーゲームの敵が小学生たちのあいだでこんなにも支持を得ていたのは筆者の知る限りほかに類がなく、なぜかシザーマンだけ圧倒的な人気があったと記憶しています。
そんな思い出深い『クロックタワー』が、約30年の時を経てまさか復刻されるとは。初報を聞いたときは本当に驚きました。
筆者は思いのほか「ここになにがある」みたいな記憶が残っていたので、オリジナル版で遊んでいた方はぜひ復刻版『クロックタワー・リワインド』で当時の記憶を思い出していただきたいです。未プレイの方は、現行のゲーム機で『クロックタワー』の世界を覗いてみてはいかがでしょうか。
対応プラットフォームは、Nintendo Switch、PS4、PS5、Steam、Xbox One、Xbox Series X|S。この記事で、『クロックタワー』の魅力が少しでも伝わったらうれしいです。
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