「つわりで体調を崩したら、自主退職を迫られました」

そんな体験談が弁護士ドットコムのLINE公式アカウントに寄せられました。大手派遣会社で働いていたという都内在住の女性(20代)は2022年、妊娠したことをきっかけに体調を崩してしまいました。

医師からの勧めで、女性がしばらく出勤できないことを派遣会社に伝えると、何度も電話で「自主退職をしてほしい」と迫られ、最終的には退職せざるを得なかったといいます。

現在、妊娠や出産などを理由とした解雇や不利益な取り扱いは、男女雇用均等法および、育児・介護休業法で禁止されています。

しかし、派遣社員自らが「自主退職」するのであれば、派遣会社側に違法性はなくなります。女性はどのような「手口」で退職を迫られたのでしょうか。

●「つわりで仕事を休んだ」を理由に解雇は違法

女性は派遣社員として働いていた時、妊娠しました。しかし、つわりが悪化してしまい、派遣先に出勤した際に意識を失い、救急車で搬送されてしまったといいます。

医師からは仕事を休むよう勧められ、「つわりで1カ月ほど出勤できません」と派遣会社に伝えたところ、派遣会社の担当者から、「自主退職してほしい」と何度も電話がかかってきました。

「1カ月だけ待ってくださいと伝えましたが、『人員が補充できない。派遣先に迷惑をかけることになる』と強調されました」

女性はそう振り返ります。電話では、高圧的な要請ではありませんでしたが、「何度もかけてきて、精神的な負担を感じました」といいます。

つわりで話すことも辛い状態の中、交渉したり反論したりすることもできず、女性は結局、退職勧奨を受け入れることにしました。すると、派遣会社からのメールには女性からの申し出を理由に「派遣の契約を終了します」と「念押し」があったそうです。

妊娠や出産を理由にした不利益取り扱いは、マタニティハラスメント(マタハラ)と呼ばれます。厚労省の説明には「つわりや切迫流産で仕事を休んだ」ことなどを理由に、「解雇された」「契約が更新されなかった」などの扱いをうけたら「法違反」と明記されています。

女性はこの退職勧奨が違法だったのではと考えているそうです。

●行き過ぎた退職勧奨は「退職強要」

退職勧奨に応じる義務は一切ありません。きっぱり断れば良いのですが、現実には断り続ける精神的負担は計り知れないものがあります。

退職前であれば、会社に内容証明郵便を送るなどして、退職の勧奨(強要)をやめさせる方法があります。弁護士の名前で送ればさらに効果が高いでしょう。

それでも退職勧奨が続く場合には、退職勧奨を差し止めるために仮処分を申し立てたり、損害賠償を請求したりすることも考えられます。

もちろん、相談者は、会社に損害賠償を求めたかったわけではないと思いますが、こういった手続きを採ることで、退職の強要を止める大きな効果が期待できます。

なお、こういった手続きを自分で行うのは大変ですし、ましてや妊婦には負担が大きすぎるため、弁護士に相談するのが良いでしょう。

●後になって、退職の意思表示の効力を争うことができるか

本ケースでは、女性は結局使用者からの退職勧奨に従い、退職することとなっています。このような場合、通常は、残念ですが、使用者からの退職勧奨に応じたものとして、退職届の撤回等はできないと考えられています。

しかし、退職の意思表示が真意に基づかない場合には、退職の意思表示の効力自体を争う余地はあります。

裁判例の中にも、妊娠中の退職合意について、本当に自由な意思に基づいて合意したと認められるのかどうか、慎重に判断する必要があるとしたものがあります(TRUST事件。東京地裁立川支部平成29年1月31日)。

●立場の弱い派遣社員「あまりに法律違反が多い」

派遣社員は正社員よりも弱い立場に置かれており、こうしたマタハラを受けるケースが少なくありません。

女性によると、勤めていた派遣会社の公式サイトには、産休や育休の制度があると明記されているそうです。しかし、「うちの派遣社員は、子どもがいない人しか残っていない」と同僚から聞いたことがあるといい、制度があっても十分に活用されている状態ではなかったようです。

「そもそも派遣先企業の担当者との面接で、『ご妊娠の予定はありますか?』と聞かれました。これも違法だと思います」

女性は退職勧奨さえなければ、「働き続けたかったです」といいます。「仕事内容は好きでしたし、一緒に働く派遣先の社員の方はとても良い人でした」

女性はマタハラが横行する派遣業界に対し、こううったえました。

「派遣という働き方は、世間にも必要とされていると思います。しかし、派遣という働き方は、法律と実態が大きく乖離している現実があるのだと思います。あまりにも法律違反が多いです。

労働者に本音と建前を使い分けさせながら働かせるよりも、法律を変えるなり、実態を変えるなり、業界全体で動いて欲しいなとは思います」

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