第37回東京国際映画祭のアニメーション部門で11月2日、塚原重義監督の長編アニメデビュー作「クラユカバ」が上映され、塚原監督が東京・角川シネマ有楽町でのトークショーに臨んだ。

本作は、長年にわたり個人映像作家として活動してきた塚原監督が、構想に10年をかけて作り上げた意欲作。大正浪漫を感じさせる世界を舞台に、探偵の荘太郎が集団失踪事件の謎を追い、「クラガリ」と呼ばれる地下世界へと足を踏み入れていく姿を描く。主人公・荘太郎役を講談師の六代目神田伯山が務めた。

キャラクターに関する話題があがると、塚原監督は主人公の荘太郎について「当初はだいぶキャラが薄くて、あくまで事件に巻き込まれて目撃する人だった。クラウドファンディングをやった結果、一緒に作りましょうといってくださったツインエンジンさんが入り、『もうちょっと主人公を強くしていきましょう』となり、ああいったキャラクター造形になりました」と告白する。

これに対し、同部門のプログラミング・アドバイザーの藤津亮太氏が「声が神田伯山さんになったことも、キャラが濃くなったひとつの理由なのでは?」と指摘すると、塚原監督は「だいぶ濃いですね(笑)」と頷き、神田伯山の起用にいたるまでの2つの流れを説明した。

「僕の短編に毎回レギュラーのように出ている活動写真弁士・坂本頼光という人物がいて。僕の家の近所に住んでいて、昔から知っているんです。昔から仲が良くて、ずっと(神田伯山を)薦められていて。それでずっと頭に残っていたんです」

「あとは、プロデューサーが伯山さんのラジオを聞いていたらしくて、ある時ぽろっと『伯山さんが声優ってどうですか』と提案されて、『面白いかもしれない』とつながりました」

さらに、「荘太郎の声をどうしようかと悩んでたんですよ」と続け、「話の展開上、どうしてもこのキャラはセリフが多くなる、なおかつ説明口調が多くなりそう。僕は説明ゼリフが嫌いなんです。その瞬間だけ作品の時間の流れが止まるような気がして。でもそれを講談調で流れるように言ってもらったらなんとかなるんじゃないかと思い、『これしかない』となりました」と明かした。

好きな世界を追求し続ける一方、「(本作で)オーダーに応えるのも楽しかった」と商業作品にも意欲的な塚原監督。次回作への意気込みを問われると「映画を1回作ってみて『こういう感じなんだ』『これは伝わるんだ。これは伝わらないんだ』ということがわかってきたので、そこを踏まえたうえで、もう1回ちゃんと映画を作りたいという思いは強いです。そのうえで、また異界めぐりというテイストはやっていきたいのですが、そのなかで、もうちょっとエンタメに振り切ってみたい」と熱く語っていた。

第37回東京国際映画祭は、11月6日まで開催。

塚原重義監督