レーステクニックが事故の防止に役立つかも
レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之氏が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のキーワードは「左足ブレーキ」です。モータースポーツの世界では馴染みのあるテクニックですが、一般的には広まっていないのが現状です。木下さんは公道でも左足ブレーキを推奨されています。事故の防止にも役立つかもしれない、左足ブレーキのメリットなどを解説します。
日本のAT車普及率は98%!
僕が長年「左足ブレーキ推奨運動」を展開していることを知っている方は少ないかもしれません。僕は以前から勝手に「左足ブレーキ党総裁」を標榜しているのです。舞台裏での密かな活動ですので、知る由もないのも道理ですよね。業界関係者の一部には、僕が左足ブレーキの有効性をたびたび口にしているのですが、なかなか理解を得られないのでモヤモヤしてもいます。
実際に僕が左足ブレーキを常用して時間が経ちます。私が運転免許を取得したころは、3ペダル時代です。AT免許なるものが普及する前の出来事ですから、当然ブレーキペダルは右足で操作すべし、が常識でした。
ですが、時代は変わりました。AT普及率は98%に達しています。人間の足は2本です。ペダルは2つです。もはや、ブレーキングは右足だけで操作する必要がなくなったと考えるのが自然ではないでしょうか。
左足ブレーキのメリットは、たくさんあります。最大のポイントは、昨今問題になっている「アクセルとブレーキの踏み間違い」。あの事故が減るのではないかと考えているのです。
そもそも、アクセルペダルとブレーキペダルは薄暗い足元にあります。しかも、それらは真横に接近している。それを目で確認せずに、手先ほどは器用ではない右足だけで踏み間違えるなと要求するのが酷だと思います。
足腰はいずれ衰えます。この辺りを指摘する専門家がいないことが嘆かわしいのですが、筋肉が衰えているので、例えば左カーブを旋回中にブレーキを踏もうとした右足が横Gに負けて右側にズレる。そこにはアクセルペダルがある。急ブレーキを踏もうとしていたのならば、それは急加速になります。止まらないからもっとも強い力で踏もうとする。その右足が踏んでいるのはアクセルペダルだというのに、です。壁にぶつかってもエンジンをふかし続けているのは、おそらくその場面ですよね。
というようなアクセルペダルとブレーキペダルの踏み間違いが、日頃からアクセルとブレーキの操作を右足と左足に役割分担することで減るような気がしているのです。
左足ブレーキが浸透すればより踏み間違いのないクルマも作れる
それが常識になれば、アクセルペダルとブレーキペダルの間隔を、もっと離すことができます。それにより、踏み間違えることは物理的になくなるわけです。2枚のペダルが遠く離れていれば、踏み間違いなど物理的に不可能ですからね。
踏み替え時間の少なさも、左足ブレーキのメリットです。右足の踏み変えにはコンマ数秒が経過しています。教習所では、1秒間にこんなにもクルマは移動しているのですよ、と危機感を煽っていますね。でしたら、踏み変えに要するコンマ数秒の空走時間は、恐怖の時間になりませんか?
僕はとくに飛び出しが予測されるような路地を走るとき、左足をブレーキペダルに添えて身構えています。それをしないと怖くて走れません。もし左足ブレーキを禁止されたら、まさに恐怖です。
ちなみに、コンマ1秒を競うレースの世界では、ほぼ99%のドライバーが左足ブレーキでドライブしています、もはや、右足ではブレーキペダルが踏めないようなレイアウトになってもいます。サーキットドライブが究極のドラテクとするのならぱ、それを学んでもいいかもしれませんね。
もっとも、左足ブレーキ否定派の意見も参考になります。慣れないと、踏み間違えそうで怖い。踏力加減がわからない。3ペダルの運転ができなくなる。おおむねそんなところだと思います。それも理解できますね。
でしたらAT免許証取得のための講習は左足ブレーキで教育するのはどうでしょう。右足で操作させられたのに左足に移行するのは抵抗があるでしょう。最初から左足ブレーキで癖をつけてしまうのです。すべてが解決しそうな気がします。
このコラムを最後まで目を通してくださったこと、感謝します。ですが、否定的な思いもあることでしょう。少なくとも、左足ブレーキ推奨の議論すらされていないことに違和感を感じるのです。否定的な意見も大歓迎です。
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