衆院選で各候補者の応援演説に出向いては、集客力を見せつけた高市氏
波乱の総選挙で、自公連立政権は過半数を逃し、政局は混とんとしている。石破茂首相は続投の姿勢だが、その命脈はいつ尽きるか不透明な情勢だ。後任の筆頭は、9月の総裁選で党員人気の高さを見せつけた高市早苗氏だ。タカ派強硬姿勢に賛同するネット右翼層が総裁選で押し上げたとの見方が党内には広がっており、「また、総裁選を行えば、ネトウヨがキングメーカーになる」との不安の声も漏れてくる。
■石破おろしが加速する!?
石破首相は八方ふさがりだ。自公で過半数を逃したことで、国民民主や維新といった保守傾向の強い他党の協力がなければ、法案を衆院で通過させることができなくなった。今後の情勢について、政治部デスクが解説する。
「石破首相は国民民主との連携を模索しています。しかし、そうなれば必然的に国民民主の主張を受け入れなくてはならず、自民内部からの反発が生じることがあり得ます。レームダックと化せば石破おろしが加速し、党内外からの足の引っ張り合いに嫌気がさし、自ら総理・総裁職を辞任する可能性がある。再び、総裁選が開かれれば、高市氏がポスト石破として急浮上します」(政治部デスク)
総裁選での劇的勝利の末、念願の首相の椅子を獲得した石破氏だったが、2009年以来となる与党の過半数割れの敗北によりすでに暗雲が垂れ込めている
高市氏は総裁選で、党員・党友票で全体の約3割となる20万3802票を獲得し、事前予想ではトップとみられていた石破首相を1244票差でかわした。初出馬となった前回の2021年の総裁選からは5万票以上の積み上げ。党関係者やメディアを唖然とさせた。
「安倍晋三元首相が死亡してから初めての総裁選だったので、高市氏がタカ派の代表格となり、党員の支持が集まったことが大きい。とはいえ、自民党員といえば、支持基盤である土建会社や農家、そしてその親族などが付き合いでわざわざ年4000円の党費を納めて党員となっているケースが多い。
こういった人たちは、生活や稼業の安定を求める傾向が強く、高市氏の『(中国に)日本は完全に舐められている』という刺激的な言動や、首相としての靖国参拝の公言、自衛隊の国防軍への改称や防衛費増額といった主張は本来なじまないはずなのですが、まさかトップに立つとは...」(自民党関係者)
■ネトウヨ率の高い都市部を席巻
X上では、9月12日の総裁選告示前から、高市氏の愛国を訴える講演動画や、国際会議で中国にかみつく模様を伝えるニュース映像などが拡散。「高市早苗さんを総理大臣に」といったハッシュタグのツイートが溢れた。また、他候補の主張を批判するかたちで高市氏を持ち上げるYouTubeのショート動画も連日のように配信され、ネットユーザーの強い支持を印象付けた。
ちなみに、若者の政治動向に詳しい作家の古谷経衡氏は、著作などで「『ネット右翼』はとりわけ東京を中心とした首都圏の自営業者が多い」と解説している。ネット世論の追い風を受けた高市氏は、党員票の大票田である東京、千葉、埼玉、大阪などで首位となり、得票を伸ばした。
また、高市氏は、党所属国会議員の党員獲得ランキングでも、23年で2位で、22年でも3位と"営業成績"は高い。そして、3年連続で首位となっているのが、青山繁晴参院議員だ。
「青山氏は、YouTubeやブログを連日更新して、中韓露北の危険性を訴えたり、五輪で日本代表が負けた試合を『誤審だ』と言い切ったりして閲覧者の愛国心をくすぐるアピールに熱心です。こういう情報発信が、自民党の新規党員を掘り起こし、今回の総裁選で雪崩を打って高市氏へ投票したとみられます」(政治部記者)
■「党員票トップ」という大義名分
ネットを巻き込んだ支持を積み重ねて、1回目の投票では首位に躍り出た高市氏。決選投票では、高市氏の先鋭的な言説に危機感を持つ旧岸田派や菅義偉元首相らに近い議員らが石破首相に乗ったことで、高市氏は総理・総裁の椅子をすんでのところでつかめなかった。
「高市氏に警戒感を持つ議員は一定程度いますが、党員票で首位だった事実は重く、これを理由に決選投票で高市氏に票を投じたことを明言した議員もいます。総裁選では各陣営からこれまでの人間関係を引き合いにだされて投票の要請が飛び込んでくるので、議員にとって誰に票を投じるかは大きい悩みの種となる。
その際、党員票1位という結果は、投票の理由として正当化しやすい。もし高市氏が党員票で石破氏をもっと引き離していたら、決選投票でも得票を重ねられて勝利できた可能性は大いにありました。
自らの投票で首相を選べる可能性が十分にあることを知った新たな党員が増えるでしょうから、ネット右翼はタカ派候補の強力な支持母体となってくる」(自民党関係者)
これまで総裁選の動向を左右してきた派閥は、表向きとはいえ解体したことで影響力に陰りがみえる。その間隙を縫って登場したネット右翼という新たな属性は、首相の座を選ぶキングメーカーの地位にまで上り詰めようとしているのかもしれない。
文/山本優希 写真/首相官邸 高市早苗公式インスタグラム
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