この記事をまとめると
■ステンレスは非常に丈夫で耐久性も高いがクルマのボディ素材としては普及していない
■ステンレスは錆びないわけではなく従来の量産設備での加工や塗装が難しい
■歩行者や他車への攻撃性が高いこともデメリットに挙げられる
丈夫で錆びないステンレスボディ
テスラ・サイバートラックが、テック系クラスタに高く評価されている。全長が約5.7m、ミラー・トゥ・ミラーが約2.4mという巨大なボディを考えると、日本の公道で走らせるには難儀しそうではあるが、SNSなどでは熱望する声も多く見聞きする。
サイバートラックの魅力はスタリングやテスラらしいハイパフォーマンスだけではない。ウルトラハードステンレススチールを使ったボディは、非常に丈夫で耐久性も高いことがセールスポイントだ。ステンレスの特性を活かしてクリア塗装さえ省くことでコストダウンが期待できるし、そもそも塗装されていないため、チッピングのような損傷を心配する必要もないという。
とはいえ、ステンレスボディといえば、映画『バックトゥザフューチャー』の劇中車として使われたことでおなじみのデロリアンくらいしか採用モデルが思い浮かばないのも事実。
サイバートラックが主張するようなメリットがあるのならば、ほかにも採用モデルが多数存在していてもいいように思えるが、どうして普及してこなかったのだろうか?
ステンレスにはデメリットもある
ひとつには、ステンレスといってもメンテナンスフリーで錆びないという意味ではない。鳥の糞などを放置しておけば腐食してしまうこともある。そのうえ、ステンレスを塗装するには従来のスチールボディとは異なる手法が必要となるため、そのままの設備で塗装することは難しいとされている。生産性でいえばステンレスは非常に硬いためプレスによって成型するのも難しい。
このあたりが、量産性を重視する自動車メーカーがステンレスの採用に躊躇する大きな理由となっているといえる。
また、ステンレスが丈夫であることは自車にとってはメリットだが、それは周囲への攻撃性が強いことも意味する。現在のスタンダードな自動車設計では、歩行者保護は重要な安全条件となっているし、他車両との衝突時の攻撃性を考慮したコンパチビリティ設計も重視されている。こうした要素においてステンレスを採用することはデメリットとなってしまう。
もっとも、そうした自動車社会との調和より「自分の安全を重視することが最優先だ」と考えるユーザーも存在しているわけで、そうしたマインドからするとステンレスボディでなおかつ重量級のサイバートラックは最適解のように感じるかもしれない。
ただし、注意したいのはステンレスのように強い金属は衝突時に変形しづらい(=衝突エネルギーを吸収しづらい)という傾向にある。ボディが吸収しきれなかった衝撃波は、そのまま乗員を襲ってしまうのだ。クルマの変形は少ないのに、乗員には負担がかかってしまったというケースも考えられなくはない。
このあたりは衝突時を想定した設計次第なので特定モデルの危険性を指摘するものではないが、ステンレスでクルマを設計する際の難しいポイントとして考えられる要素といえよう。
整理すると、ステンレスボディのメリットは「塗装しなくても錆びづらいこと」、「非常に丈夫で耐久性のある金属であること」が大きな要素として挙げられる。
視点を反対にすると「塗装しづらく、一色の設定になってしまうこと」、「丈夫な金属のため加工や修理が難しいこと」、「歩行者保護など衝突安全性に疑問があること」とにつながってしまう。こうした要素をデメリットと捉える自動車メーカーが多いことが、過去にステンレスボディのクルマがほとんど登場していない理由とまとめることができそうだ。
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