廃墟、産業遺産、巨大工場、ダム、大仏、公園遊具、珍スポットなど、日本中にある非日常スポット、風変わりな場所を紹介する《異空間》旅行マガジン『ワンダーJAPON』。当連載は、編集長である私、関口 勇がこれまで誌面で取り上げたなかでも、「特にインパクトが強かったスポット」をピックアップしたうえ、順次紹介していくものだ。
今回は埼玉県越生町の「神辺土建コレクション」。JR八高線越生駅から徒歩10分の場所にある。
◆骨董品や昭和レトログッズが展示される“未完の珍スポット”
土木・建築・解体業等を営む神辺土建の神辺智行社長が収集した骨董品や昭和レトログッズが展示されているのだが、すでに10年以上昔から準備しているものの、いまだ絶賛整備中という未完の珍スポット。だが、県道を挟んで東西に広がる独特な空間=《異空間》に、思わず車を停めて「いったいここは何?」と不思議に思いながらスマホでちょっと撮影しては去っていく人が後を絶たない。
いちばん目を引くのは県道の東側すぐ脇、十数基のカラフルな丸型ポストがズラリと並ぶコーナーだろう。ポスト前にも同じようにカラフルな鉄パイプが並び、いちばん手前にはド派手なピンク色の屋根付き3輪バイクが置かれている。FRP製だろうかかなり大きなアフリカゾウもいる。解体した幼稚園から引き取ったのか遊具もあれば、100円を入れるとゆっくり歩く電動乗用パンダもあったり。中央にそびえ立つ櫓にはパチンコ店に置かれていた看板人形や日本酒の「来陽」の看板もあった。かなりカオスだ。
◆なぜ“ド派手なピンク色”で統一されているのか
その先には大きな木があり、手前には「不思議の国のアリス」に登場するスーツ姿の巨大なウサギが金庫の上にドッカリと居座っているのだが、ウサギも金庫も3輪バイクと同じピンク色。よく見れば、敷地に置かれている重機も軽トラもみんなこのド派手なピンク色だ。なんでも亥年(昭和22年)生まれの社長が飼っていたイノシシが「桃華」という名前で、会社のカラーに決めたという。他の場所に置かれているダンプやクレーン車から自家用車まで全部同じ色で統一されているというから徹底している。盗難防止にもなりそうだ。
◆「さまざまなコレクション」の整理が追いついていない
県道からは木の陰に隠れて見えにくいが、敷地の奥へ足を踏み入れるとさらにビックリ。壁中にホーロー看板がびっしり貼り付けられた旅館のような大型の建物が建っている。向かいの2階建ての一軒家もレトロな看板だらけ。この建物の中にマイセンの人形とか室町時代の軍配とか昭和の泥メンコ、古いパン焼き機など、ガラクタから年代物、高価なものまでさまざまなコレクションがごちゃごちゃとあるのだが、いまのところ非公開となっている。なんせ今でも敷地内の整備を社長自らピンクの重機を操縦して行っている最中なのでなかなか整理が追いついていないらしい(敷地内は撮影でうろつくのは黙認)。
県道の東側敷地の最奥ではなんとヤギが数十匹も飼われている。業務内容には樹木の伐採を依頼されることも多く、葉っぱの処分はこのヤギの担当だとか。実際、ピンクのダンプで運び込まれたらしき枝葉が、ピンクのショベルカーでヤギ舎に投げ入れているのを取材で目の当たりにしたのだがなんとも豪快! 県道の西側は石の彫刻作品がもう少し整理されて展示されているのだが、こちらもトリケラトプスもあれば、例のピンクの鳥居に巨大カエルもあって謎な感じだ。
◆「町おこしの観光施設」にする目論見が
そもそもなんでこんな展示施設を作っているのか。越生町は越生梅林や五大尊つつじ公園、一足早く5月に行われる花火大会の時は観光客で賑わうが、それ以外はかなり静か。もうちょっと観光名所があれば人もくるのではないか。そう、社長は町おこしの観光施設にしようと目論んでいる。
実はこの土地、「旧武蔵国越生郵便局」の跡地であり、また2011年に廃業した越生酒造の酒蔵があった場所。だからこその丸型ポストであり、越生酒造の代表銘柄だった「来陽」の看板も展示し、ちゃんとその土地の記憶を刻んだ内容となっている。一見でたらめでカオスに見えても、越生町の過去と将来のことをちゃんと考えているのだ。あとはオープンを待つだけ。もういっそ整備中から一般公開を始めたらどうですか、神辺社長!
<取材・文・撮影/関口勇>
【関口勇】
『ワンダーJAPON』編集長(フリーランス・発行元はスタンダーズ)。廃墟、B級スポット、巨大構造物、赤線跡などフツーじゃない場所ばかり紹介。武蔵野美術大学非常勤講師。X(旧Twitter):@isamu_WJ
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