アメリカ海軍が運用する潜水艦との通信中継機が新型に換装される模様です。ただ、この機体、潜水艦弾道ミサイルの発射司令を確実に伝えるという重要な役割を担うとか。いったい、どんな飛行機なのでしょうか。

傑作機「ハーキュリーズ」ファミリーに新顔が加入

アメリカ海軍はこのたび、海中の潜水艦との通信中継を行う新機種の名称がE-130Jに決まったと発表しました。

同機の任務は長波長(VLF)通信機材を機体に搭載し、通常の電波では届かない海中の潜水艦との通信を中継するもので、その任務を担当する機体はTACAMO(Take Charge and Move Out)機と呼ばれ、主に核弾頭を搭載した戦略ミサイル原子力潜水艦への通信伝達を目的に調達・運用されます。

端的にいえば、戦略ミサイル原潜に対して、潜水艦発射弾道ミサイルSLBM)の射出命令を確実に伝えるのがTACAMO機の役目となりますが、実際に任務を行った場合は世界規模の核戦争が勃発したときという可能性が高く、そこから「人類滅亡機(ドゥームズデイ・プレーン)」という物騒なあだ名が付けられています。

アメリカ海軍では従来、TACAMO任務にはボーイング707旅客機の派生機であるE-6B「マーキュリー」を運用してきました。しかし、機体自体の老朽化や、707型機のスペアパーツの入手困難などが伴うようになり、2015年頃から機体更新の検討が始まっていました。

そこで更新機の母体として選ばれたのが、世界中で運用されているベストセラー輸送機の最新モデルC-130J「スーパーハーキュリーズ」。同機は、2023年度以降、「E-XX」の名称で先行量産機が導入され、各種試験が進められていました。

ジェット機からターボプロップ機でグレード落ちの理由は?

E-6Bがジェット機である707型機をベースにしているのに対して、E-130Jはターボプロップエンジンによるプロペラ駆動で、より小型のC-130Jがベースであり、機体サイズが縮小しています。いちおうE-130JのベースモデルはC-130Jの中でも胴体が4.57m延長されたストレッチモデルC-130J-30ですが、それでもE-6Bと比べると機内スペースは縮小しています。また、推進方式がジェットからターボプロップになったことで飛行速度なども低下しています。

機体規模が小さくなったのは、E-130Jに与えられる任務がE-6Bよりも少なくなったことを反映している模様です。E-6Bでは戦略原子力潜水艦への通信中継だけでなく、戦時において空から戦争を指揮する空中指揮所としての役割もありました。この任務は、相手国の核攻撃によって政府中枢やその指揮機能が破壊されたときに、その機能を空中で補完するというもので、E-6Bにはその任務を遂行できるよう別の通信装置や長時間飛行能力が必要でした。

しかし、E-130JはTACAMO任務に一本化されたことで、より小さいC-130ベースの機体でも対応できると判断したようです。実は、アメリカ海軍1963年から1994年まで、TACAMO任務専用機としてC-130HをベースにしたEC-130Qという機体を運用しており、今回の機体更新は通信中継機としては原点回帰ともいえるかもしれません。

老朽化と部品不足が問題となっているE-6Bに対し、E-130Jのベースとなったハーキュリーズ輸送機は現在も生産が続くベストセラー機であり、C-130とサポートや部品供給を共有できる部分があるため、運用の効率化と低コストができるメリットもあります。アメリカ海軍では2020年代後半にE-130Jの導入を進め、2030年代にはE-4Bから本機にTACAMO任務を移行することを目指しています。

4発エンジンのE-6Bはクラシックな航空ファンにとって、大型機の代表的なスタイルであり、その退役を寂しがる人もいるかもしれません。しかし、旅客機と同様に効率化と時代の流れによって、その姿は時代と共に消えていくようです。

E-130Jのベース機となるC-130J「スーパーハーキュリーズ」(画像:アメリカ空軍)。