他の社員に嫌われている新入社員をなんとか辞めさせて「この会社を守りたい」。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。

中小企業を経営する相談者は、入社半年にも満たないものの、年齢が一番上で態度が非常に悪い新入社員に頭を悩ませているそうです。同じ所属の複数人が、この新入社員の存在を理由に退職を願い出てきました。

新入社員は相談者の注意に対し、「指摘されたことは直す」と素直に応じます。また、退職を申し出た人が辞めたい理由は明確なものではなく、漠然とこの人とは働きたくないという理由のようです。

一度に複数人が退職してしまうと、会社が回らなくなってしまいます。相談者としては、解雇できないのではないかと思ってはいるそうです。しかし「会社を守るため」に、たとえ不当解雇になろうとも新入社員に辞めてもらいたいと考えています。

実際に解雇することは可能なのでしょうか。あるいは解雇以外の対応策はあるのでしょうか。黒柳武史弁護士に聞きました。

●「折り合いが悪い」だけでは解雇要件満たさず

──今回のケースのように、他の従業員が辞めることになれば会社が回らなくなる事を理由に、社員を解雇する事は可能なのでしょうか。

会社にとって不可欠な他の社員と対象社員との折り合いが悪いことのみをもって、対象社員を解雇するということはできません。

社員を有効に解雇するためには、客観的に合理的な理由が必要であり、かつ解雇を行うことが社会通念上相当であるといえる必要があります(労働契約法16条)。

しかし、他の社員がいくら会社に必要不可欠であっても、その社員と単に折り合いが悪いというだけでは、対象社員に解雇するだけの帰責性があるとはいえず、前述した解雇の有効要件を満たさないと考えられます。

他方、対象社員の態度の悪さや協調性のなさが、客観的にみて、業務遂行上の重大な障害となっているような事案では、解雇理由の合理性が認められる可能性があります。

なお、大企業と比較して、小規模な企業の場合には、配置転換などによる対応も難しいため、このような事案における解雇が認められ易い傾向にあるといえます。

ただその場合でも、即時に解雇することは難しく、注意・指導を繰り返したり、さらに懲戒処分なども実施して、それでも改善が見られない場合に、はじめて解雇の有効性が認められ得ると考えられます。

●「相当額の金銭補償などで退職を説得」という方法も

──解雇できない場合、どのように対処するべきなのでしょうか。

今回の相談内容を踏まえると、対象社員は、相談者の注意に対し、「指摘されたことは直す」と応じるなどコミュニケーションは一応取れているとのことなので、まずは注意・指導を重ねることが筋といえます。

その際には、問題行動があったことや、注意・指導を実施したことを証拠として残しておくために、書面やメールなどにより行うことが適切です。

また、配置転換で折り合いが悪い他の社員と勤務場所を引き離すことが可能であれば、配置転換を実施することも考えられます。

他方、他の社員の引き留めのためには、注意・指導を重ねている時間的余裕もなく、配置転換を行う場所もないというケースでは、対象社員に退職を勧奨し、辞めてもらうということも考えられます。

しかし、退職勧奨については、あくまで任意に退職を促すことしかできず、これが行き過ぎると、それ自体不法行為(民法709条)となり、損害賠償を請求されるリスクもあります。

相当額の金銭補償などとセットにして退職を説得し、任意に辞めてもらうということが一つの手段として考えられるでしょう。

対象社員が退職勧奨に応じない場合でも、強引に(不当に)解雇することは、適切ではありません。そのように解雇を実施しても、裁判等で争われ解雇が無効になれば、復職を認めざるを得ませんし、その間の賃金を支払う必要もあり、会社にとってのリスクが非常に大きいためです。

【取材協力弁護士】
黒柳 武史(くろやなぎたけし)弁護士
京都府出身。2007年大阪弁護士会で弁護士登録。2020年京都弁護士会に登録換え。取り扱い分野は、労働事件を中心に、建築・不動産に関する事件や、一般民事・家事事件など。
事務所名:賢誠総合法律事務所
事務所URL:https://kensei-law.jp/

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