株式会社ポケモンは10月30日、『Pokémon Trading Card Game Pocket』(以下、『ポケポケ』)のサービスを開始した。
【画像】待望の『ポケモンカードゲーム』デジタル化作品『ポケポケ』のアナログな魅力
『ポケモンカードゲーム』のデジタル化作品として、発表時から話題を集めてきた同タイトル。界隈では、シリーズファンを中心とした多くのプレイヤーに遊ばれている状況がある。
本稿では、『ポケポケ』が持つ“デジタルTCGらしからぬ体験”へと着目。そうした要素がジャンルに一石を投じる可能性について考えていく。
■『ポケモンカードゲーム』が待望のデジタル化
『ポケポケ』は、「ポケットモンスター」シリーズを題材としたアナログTCG『ポケモンカードゲーム』を、スマートフォンで楽しめるモバイルアプリだ。プレイヤーは現実の世界と同様に、さまざまなカードが収められたパックを開封。手に入れたものを図鑑にコレクションしたり、それらをもとにデッキを構築し、他者とバトルを行ったりすることができる。ゲーム内に登場するカードには、複数のレアリティが用意されている。デジタルだからこそ実現可能な表現/演出にこだわっている点も同タイトルの特徴だ。
『ポケポケ』は、2024年2月27日配信の「ポケットモンスター」シリーズの公式番組『Pokémon Presents』内でその存在が明かされた。界隈では当時から、『ポケモンカードゲーム』のデジタル化を望む声が大きく、発表はファンにとってこれ以上ないサプライズとなった経緯がある。
『ポケモンカードゲーム』をめぐってはここ数年、さらなる人気の高まりから供給が追いつかず、パックが満足に購入できない状況が続いている。そうした背景もあり、デジタルという利便性の高い環境でその世界を満喫できる『ポケポケ』には、ファンコミュニティから大きな注目が集まっていた。
現在、同タイトルが獲得している反響の大きさは、ある意味で予想どおりの結果であるとも言えるだろう。サービスの開始から2日目の11月1日には、全世界の累計で1,000万ダウンロードを突破している。
『ポケポケ』は、基本プレイ無料・アイテム課金型で、AndroidとiOSに対応する。待ちわびたリリースに、界隈は大きな盛り上がりを見せている現状だ。
■リアルの場ならではの体験を意識? 稀有のゲームデザインに注目
なぜ『ポケポケ』はロケットスタートを切ることができたのか。そこには同タイトルが「ポケットモンスター」シリーズや『ポケモンカードゲーム』のファンに待ち望まれていたコンテンツであったことが影響していると考えられるが、ここで注目したいのは、そのゲームデザインが持つ魅力についてだ。
TCGの分野ではこれまで、さまざまな人気タイトルがデジタル化を果たし、それぞれのファンコミュニティに広く受け入れられてきた。しかしながら、特にアナログ版に長く触れてきたフリークには、「デジタルがアナログを代替することはない」という考えが定着している面もあるように思う。
『ポケポケ』では、カードゲームらしい対戦バトルに楽しみ方のひとつの軸がある一方で、パックの開封やカードのコレクションにも同様に重きが置かれている。毎日、無料で2パックを開封できる仕様や、コレクションボード/コレクションファイルの存在はその一例。これらの要素は本来、アナログならではの魅力であったはずだ。リリース時には未実装であるものの、今後のアップデートでは「トレード」を設ける予定もある。同機能では、フレンド同士が図鑑を見せ合いながら、それぞれの欲しいカードについて話し合い、交換ができるのだという。一連の体験はまさに、リアルの場にあったTCGの文化そのものと言えるのではないか。
「アナログとデジタルのあいだに明確にあった境界線を可能なかぎり取り払いつつ、デジタルにしかできないアプローチでユーザー体験を良化する」。これが『ポケポケ』に盛り込まれている、稀有のゲームデザインだ。制作側にしてみると、シリーズが抱えるファンの属性なども考慮し、バトルのみに偏重しない設計を意識した面もあるのだろう。そのことが結果として、良い意味での“デジタルTCGらしからぬ体験”を同タイトルにもたらしている。
ゲームカルチャーでは、アナログTCGを本来のまま「TCG(Trading Card Game)」とする一方で、デジタルTCGを「DCG(Digital Card Game)」と表現するケースがある。その観点に立つと、『ポケポケ』は本当の意味での“デジタルTCG”となっていくのかもしれない。
TCGの分野をめぐっては直近、デジタル領域での覇権争いが続いている。草分けとなった『Hearthstone』、モバイル/PCプラットフォーム発の国産TCGとして一定の地位を築き上げた『Shadowverse』、「もっとも遊ばれているTCG」としてギネス世界記録にも認定されている『Magic: The Gathering』のデジタル版『Magic: The Gathering Arena』、特に国内で無類の人気を誇り、「もっとも販売枚数の多いTCG」としておなじくギネス世界記録に認定されている『遊戯王オフィシャルカードゲーム』のデジタル完全版『遊戯王マスターデュエル』など、その例は枚挙にいとまがない。2025年春には『Shadowverse』にさまざまな新要素をくわえた完全続編『Shadowverse: Worlds Beyond』もリリースされる。同ジャンルでは目下、激しい勢力争いが続いている現状がある。
『ポケポケ』に関しては、ゲーム性や支持層などの面において、伝統性/本格性を重視する上記タイトルたちとはある程度区別できるため、パイを奪い合う形にはならないと考えられる。がしかし、広い視点では、ジャンルのさらなる活性化のきっかけとなるのではないか。
先にも述べたとおり、「アナログとデジタルの境界線をなくす」というアプローチ自体は、『ポケポケ』のみに限らない、ジャンル全体の課題である。同タイトルに一歩先んじて盛り込まれた仕様がユーザーの支持を獲得することで、凝り固まりつつあるデジタルTCGのスタンダードを変えていく可能性がある。たとえば、先述したトレード機能は今後、他作品においても求められていくのかもしれない。場合によっては、『ポケポケ』にも実装されていない同様の意図を持つ仕組みが、他作品から生まれる未来にもつながり得るだろう。
レッドオーシャン化するデジタルTCGの領域。『ポケポケ』は、ジャンルのあり方に一石を投じる存在となるかもしれない。主要作品のさらなるブラッシュアップ、第三勢力の登場といった新たな展開に期待したい。
(文=結木千尋)
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