与党ボロ負け! 先の衆院選で自公合わせて過半数を割り込み、新首相は早くも大ピンチに陥っている。そんな中、少しでも長く政権を維持するために、石破首相はどんな立ち回りをするのか? 国会で審議される「政策」という視点から、今後の石破政権をガッツリ占ってみた! キーワードは「部分連合」だ。
■"少数与党"への転落
「これからの政権運営はまさに毎日が綱渡りの出たとこ勝負。ちょっとしたつまずきで、いつ内閣総辞職に追い込まれてもおかしくありません」(ジャーナリストの須田慎一郎氏)
10月に発足したばかりの石破茂政権が衆院選の大敗で、いきなりの大ピンチに直面している。
石破首相が設定した勝敗ラインは安全運転レベルの「自公で過半数を維持できる233議席以上」というものだった。ところが、フタを開けてみると裏金問題による逆風などが災いして自民党191、公明党24の計215議席止まり。
自公の公示前勢力は279議席だから、与党合計で64議席も失った計算だ。特に非公認や比例重複なしの処分を食らった議員の多い旧安倍派は落選者が相次ぎ、衆院議員は50人から22人へと沈没した。
大敗のダメージは旧安倍派以外の議員にも及んでいるようだ。
「選挙終盤、非公認候補が支部長を務める支部に対して、自民党の執行部が2000万円の活動費を支給したことが発覚。有権者の怒りを呼び、政治資金収支報告書に未記載額のなかった非裏金議員までもが多数落選してしまった。党内からは石破首相に露骨なブーイングが上がっています」(自民党国会議員秘書)
前出の須田氏が続ける。
「石破執行部への怨念が旧安倍派議員だけでなく、他派閥の議員にも飛び火してしまった形。火ダネは予想以上に大きく、野党どころか身内の自民内からも石破降ろしが吹き荒れかねない状況です」
今後の注目は11月11日召集で調整中の特別国会だ。
この国会で石破内閣は一度総辞職し、新しく当選した衆院議員によって首班指名が行なわれる。衆院の新勢力は与党の自公215に対して、野党250。例えば野党が結束して野党第1党の立憲民主党・野田佳彦代表に票をまとめることができれば、自公を上回って政権交代が実現する。
それを防ごうと自公は非公認議員の追加公認、保守系無所属議員の一本釣り、さらには他党との連立拡大と、過半数確保に躍起となっているが、「最大で10人が精いっぱい。野党各党が自公からの連立打診に応じる気配もなく、過半数の233議席を確保するには程遠い状態」(前出・自民秘書)だ。
ただ、野党側も衆院選後の党首インタビューで野党第2党の日本維新の会、第3党の国民民主党が「オール野党として立憲の野田代表を推すことはない」と明言したように、オール野党で自公から政権奪取しようという構えもエネルギーもない。
となれば、与野党のいずれも過半数に達することはなく、1位、2位候補との決選投票となる公算が大だ。
決選投票は過半数に関係なく、得票の多い候補が選出されるルール。そうなると、比較第1党の自民党総裁である石破首相が多数決で首班に指名され、第2次石破政権がスタートすることになる。全国紙の政治部デスクが言う。
「つまり、第2次石破政権は過半数以下の議席しか持たない"少数与党"になるということ。少数与党は多数を頼みに強硬採決に走ることもできず、国会運営で行き詰まることもしばしば。野党が一致して不信任案を出せば、自力で否決できないというリスクも抱えている。石破政権は短命に終わると予想する政治部記者は少なくありません」
■「部分連合」の調整にエネルギーを使う
先の自民総裁選では高市早苗前経済安全保障担当相が石破首相と激しく競り合った。1回目の投票では議員票、地方票とも石破首相(154票)を上回る181票を集めるほどの人気ぶりだった。
ならば特別国会での首班指名で、石破首相に代わって人気抜群の高市氏を指名すればよいのでは? 少数与党の状況は変わらないものの、32.1%(共同通信調査、10月28、29日調べ)と低調な内閣支持率は上向くはずだ。実際、石破首相への不満が渦巻く自民党内からは今も高市待望論が聞こえる。
ただ、この挽回策をジャーナリストの鈴木哲夫氏は一刀両断する。
「高市さんを支持してきたのは旧安倍派など党内右派が中心。その旧安倍派議員が大量落選し、高市支持の熱量は小さくなっている。首班指名で死に票覚悟で『高市』と書く自民議員がひとりふたりくらいはいるかもしれませんが、高市擁立の機運はありません。
そもそも、高市さん自身がそんな話に乗るはずがない。過半数割れの自公政権はいわば泥船。高市さんもそんなオンボロ船の船長になって苦労したいとは思っていないでしょう」
前出の自民秘書も続ける。
「高市さんが動くとしたら、来年7月の参院選前。予算成立後、通常国会末に石破降ろしを仕掛け、総裁選で勝利して自民の顔として参院選に勝利、政権基盤を築くというシナリオです。
党内もそうした高市氏周辺の空気をよくわかっていて、もし石破政権が短命に終わった場合、参院選までのワンポイントリリーフとして、党内に敵が少なく、かつ実務能力の高い林芳正官房長官、加藤勝信財務相あたりがポスト石破として浮上することになると予測する声が少なくありません」
というわけで、当面、石破政権の継続は自民の既定路線のようだ。
そこで気になるのが少数与党として突っ走るしかない石破政権のサバイバル術だ。
少数与党が国会をコントロールする手法はひとつ。それは与党が成立させたい法案や政策を案件ごとに各野党に協力を持ちかけ、その都度、合意を得てゆく、いわゆる「部分連合」というやつだ。
ただし、部分連合成立には大きな労力が必要となる。
「過半数割れなので、野党の賛成なしでは法案は可決できない。そこで水面下で協議の場を持ち、与党が通したい政策を説明し、賛同をもらう。とはいえ、野党もタダで賛同するはずもなく、代償として自党の政策を与党にのませる。
その協議では与党は野党にどんな甘いエサを与えれば満足するのか、野党側は何と引き換えに部分連合に参加するのか、熾烈な条件闘争が繰り広げられる。しかも合意できない場合もあるわけで、その分、政権はエネルギーを浪費し、政治も不安定になりがちです」(前出・鈴木氏)
■「103万円の壁」は撤廃されるのか?
ただし、少数与党は政治に不安定をもたらすデメリットの一方で、見逃せないメリットもある。それは与党が黙殺する野党の政策に実現の可能性が生じること。
その筆頭は国民民主党が「国民の手取りを増やす」ためと主張してきた【①103万円の壁】の撤廃だ。
収入が年間103万円を超えると、所得税が課税される。「103万円」とは基礎控除(48万円)と給与所得控除(55万円)の合計のことで、この控除額が定められた1995年の最低賃金(全国平均)は611円。
しかし、24年10月1日からの最低賃金は1055円(同)と73%アップしている。そのため、国民民主は所得税が発生する最低ラインも73%アップして年収178万円に引き上げるべきだと、この衆院選でも目玉公約として訴えてきた。
これは現行の基礎控除と給与所得控除の額を増額せよ、ということであり、その影響は所得がある国民全体に及ぶ。国民民主によると、もし実現すれば例えば年収300万円の人で17万4000円だった税金は6万1000円と、11万3000円も安くなる。つまり、年収300万円の人にとっては年11万円以上も手取り収入が増えるという。
「103万円の壁の撤廃は税収減を嫌う財務省の抵抗もあり、自公政権はスルーしてきました。ただ、国民民主は衆院選で議席を7から28へと4倍増させた。『手取りを増やす』という国民民主の公約が有権者に刺さったのは間違いない。何より国民民主の28議席が自公に乗れば、自公はそれだけで過半数に達する。
少数与党下の国会で予算などを成立させるためにも、石破政権は国民民主にラブコールを送らざるをえない。103万円の壁撤廃を受け入れて国民民主に花を持たせ、その代わりに与党案に賛成してもらう、という部分連合の動きが必ずあるはずです」(前出・自民秘書)
もうひとつ、国民民主が重要視する政策がある。それが【②ガソリン税のトリガー条項の凍結解除】。ガソリン価格が3ヵ月連続で160円/Lを超えたときにガソリン税率を28.7円/Lに自動的に引き下げるというものだ。
国民民主は物価高騰対策としてすでに複数回、法案を国会に提出しているものの、税収減を嫌う自公はガソリンスタンドなどに7回も補助金を出してガソリン高騰に対応していることを理由に、その法案を黙殺してきた。
ただ、自公過半数割れで状況が変わった。
「トリガー条項解除は公明も賛成していた時期がある。今年1月には岸田文雄前首相の肝いりで自民、公明、国民民主の3党で実務者協議を開いた実績もあります。それだけに石破内閣が国民民主との部分連合協議に入る『行きがけの駄賃』とばかりに、凍結解除へと動く可能性は否定できない」(前出・須田氏)
全国平均で1055円まで上昇した最低賃金も、さらにアップすることになるかも。最低賃金1500円への引き上げは達成時期にばらつきがあるものの、与野党を問わず共通した公約となっている。
「石破首相も2020年代中の全国平均1500円実現を主張しています。そのためには年率7%の引き上げが必要で、企業の体力を考えるといずれの党の公約も現実的ではないという弱点があった。ただ、国民民主だけが『早期に全国どこでも1150円』の公約を掲げている。
これなら現実的で、国民民主と部分連合を実現したい石破首相がワンショット的な時限的対応として【③国民民主案の最低賃金1150円】を受け入れ、財界に働きかけることは十分にありえるでしょう」
■「政治とカネ」、夫婦別姓も
国民民主と共に石破政権が部分連合のパートナーとして秋波を送る日本維新の会。維新が10月4日に国会へ提出したばかりの【④政治資金規正法の再改正法案】も日の目を見ることになるかも。
裏金問題を受けて今年6月に岸田政権が改正したものの、調査研究広報滞在費(旧文通費)の使途公開義務が見送られるなど、中途半端に終わったという批判が絶えない。再改正はそんな声に応え、規制を再強化しようという野党側からの試みといえる。前出の鈴木氏が言う。
「石破政権は野党の再改正要求をのむことになると予想しています。具体的には『政策活動費の廃止』と事実上の企業団体献金の禁止となる『政治資金パーティ券購入の禁止』です。
このうち、政策活動費については石破首相も総裁選で『廃止もひとつの考え方』と理解を見せていたことから、なんらかの進展があってもおかしくない。
ただ、パーティ券購入禁止は自民党内の抵抗が大きく、石破首相もどう対応するか、口を閉ざしたままです。もし、野党が結束して自公に要求して拒否となれば、国会は荒れる。不信任案提出などの政局になることもありえます」
そして、5つ目は【⑤選択的夫婦別姓の導入】だ。野党や財界が導入を求めても自民右派議員の猛反発で棚ざらしになってきた。
「総裁選の当初、賛成を口にするなど、石破首相は導入に前向きだった。また、衆院選で保守派が多い旧安倍派が大量落選。石破首相が党内右派の議員をうまく説得できれば、選択的夫婦別姓の導入が進むかもしれません」
短命に終わりがちな少数与党政権。過去には社会党の政権離脱により少数与党化した羽田孜(つとむ)政権が、自民提出の内閣不信任案が可決され、就任からわずか64日で退陣に追い込まれたというケースもある。
果たして石破首相は野党の部分連合など、うまく立ち回って政権を延命させることができるのだろうか?
写真/共同通信社
コメント