食べ物の好き嫌いは「わがまま」と思われがちでしたが、それだけではない可能性がありそうです。
英国ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン (UCL)らの研究チームで、食べ物の好き嫌いには、実は遺伝的な要因が大きく関係していることが明らかになりました。
また、年齢とともに味覚に変化が生じ、かつて苦手だった食材が大人になると受け入れられるようになるのも科学が関係しています。
研究の詳細は2024年9月19日付で学術誌『Journal of Child Psychology and Psychiatry』に掲載されています。
目次
- 子どもの好き嫌いはなぜ生まれるのか?
- 子どもの頃は苦手だった味、大人になると平気になる理由
- 食べ物の好き嫌いは進化がもたらした生存戦略だった?
子どもの好き嫌いはなぜ生まれるのか?
幼少期の食べ物に対する好き嫌いは、全員が経験しているかもしれません。
なぜ子どもは特定の食べ物を嫌い、時にそれを絶対に受け付けないのでしょうか。
研究チームは、幼少期から思春期にかけて双子の食の好みを追跡し、多くの好き嫌いが遺伝によって決まることを明らかにしました。
この研究では、一卵性双生児と二卵性双生児を比較することで、遺伝的要因と環境的要因の影響を分離して解析しました。
一卵性双生児は100%同じ遺伝子を共有しています。
そのため、一卵性双生児が示す食の好き嫌いの類似性が高い場合、その傾向は遺伝的要因の影響を強く示すものだと考えられます。
一方、二卵性双生児は50%しか遺伝子を共有していないため、彼らの間で見られる食の好き嫌いの類似性は、主に家庭環境や育った環境による影響を反映しています。
実際にこの研究では、一卵性双生児の間での食の好き嫌いの類似性が二卵性双生児よりも高いことが確認されました。
この結果から、3歳から13歳の子どもたちの食の好き嫌いは約80%が遺伝によるものだとわかりました。
このことから、食べ物の好き嫌いには遺伝子の影響が強いと結論づけられました。
つまり、好き嫌いは単なる「わがまま」や「気まぐれ」ではなく、生まれ持った遺伝子によって強く影響されていることが示唆されています。
親が子どもに新しい食べ物を勧めても、子ども自身の遺伝的な特性が食べ物の選好に影響を与えるため、ある程度の限界が存在します。
そのため、好き嫌いを「治す」ことが難しい場合があることも理解できますね。
ただし、好き嫌いは遺伝的要因だけが全てではありません。
特に幼少期においては、家族で食卓を囲む習慣や、さまざまな食材に触れる機会など、家庭環境が食の好みに与える影響も強く働きます。
しかし、こうした環境要因の影響は年齢とともに徐々に薄れていきます。
そのため、好き嫌いを克服するためには、幼少期に新しい食材に触れる機会を多く持つことが重要です。
この時期に新しい食品に慣れることで、成長過程における好き嫌いの軽減が期待できます。
一方で、子どものころ苦手だった食べ物が、大人になると自然と食べられるようになった経験はありませんか?
これはどういう要因から起きるのでしょうか。
子どもの頃は苦手だった味、大人になると平気になる理由
年齢を重ねると、子どもの頃に苦手だった味が平気になることがあります。
年齢とともに、私たちの味覚や嗅覚にはどのような変化が起こるのでしょうか。
味覚が変化する理由として、味覚受容体の変化が考えられます。
成長とともに味覚受容体の密度や機能に変化が生じ、その結果として味に対する敏感さが低下することがわかっています。
「味覚受容体」とは、舌の表面に存在する小さなセンサーで、甘味、塩味、酸味、苦味、そしてうま味といった味を感じる役割を果たします。
子どもの頃はこれらの受容体が非常に密集しており、特に苦味や酸味に対して敏感です。
しかし、年齢とともに受容体のターンオーバー (再生サイクル) が変化し、新しい受容体が生まれ変わる速度が遅くなっていきます。(Fukunaga et al., 2005)
これにより、苦味や酸味に対する敏感さが低下し、以前は苦手だった食材を受け入れやすくなるのです。
また、成長すると味覚だけでなく、嗅覚や口腔の感覚全体も低下することが示されています。(Braun et al., 2022)
これにより、若い頃には非常に苦く感じたコーヒーや野菜が、大人になると平気になることが多くなります。
さらに、成長に伴う神経の変化も影響を与えています。
特に、口腔や咽頭部の感覚を司る神経が年齢とともに減少し、感覚の鋭さが失われることで、味覚や嗅覚の低下が進むとされています。
このことが、味の感じ方に対する年齢による変化をさらに助長します。
これらの変化が、大人になると食べ物の好き嫌いが自然に減少する一因です。
特に、子どもの頃に敏感であった苦味や酸味に対する抵抗が薄れ、より多くの食材を楽しむことができるようになります。
成長に伴って食べ物に対する好みが変わるのは、体の自然な反応といえます。
しかし、なぜ食べ物の好き嫌いは生まれたのでしょうか。
食べ物の好き嫌いは進化がもたらした生存戦略だった?
私たちの好き嫌いは、進化の過程で形作られたものかもしれません。
苦味や酸味に敏感であることは、毒性のある食べ物を避けるために重要でした。
このため、子どもの味覚が特定の味に対して敏感であるのは、危険なものを避ける生存戦略として機能していたのではないかという説が有力です。(Breslin, 2013)
さらに、甘味に対する好みも、エネルギーが豊富な食材を選択するための本能的な傾向として説明されています。
甘い果物や蜂蜜のような高エネルギー源は、成長に必要な栄養素を効果的に得られることから、これも生存に役立つ特性だったと考えられます。
こうしてみると、私たちの食べ物の好き嫌いは単なるわがままではなく、進化を通じて身につけた生存のための知恵と言えるかもしれません。
現代の食生活では、味覚の好みが必ずしも生存に直結するわけではありませんが、遺伝や進化によって形成された味覚の傾向が今も影響を与え続けています。
これに加え、家庭環境や文化的な経験も複雑に絡み合い、私たちの食の好みが形作られています。
好き嫌いを完全に克服することは難しいかもしれませんが、私たちの味覚の歴史を知ることで、日々の食選びに対する見方が少し変わるかもしれませんね。
Food fussiness a largely genetic trait from toddlerhood to adolescence
https://www.kcl.ac.uk/news/food-fussiness-genetic
元論文
Nature and nurture in fussy eating from toddlerhood to early adolescence: findings from the Gemini twin cohort
https://doi.org/10.1111/jcpp.14053
ライター
岩崎 浩輝: 大学院では生命科学を専攻。製薬業界で働いていました。 好きなジャンルはライフサイエンス系です。特に、再生医療は夢がありますよね。 趣味は愛犬のトリックのしつけと散歩です。
ナゾロジー 編集部
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