平壌市大同江区域に工事中の2つの大型病院がある。その一つが平壌総合病院だ。コロナ禍にあった2020年3月、金正恩総書記が旗振り役となって着工された。建物は完成したものの、開院できずに放置されている状態だ。

当初、建設工事は無茶な期間設定で進められ、現場では約20人もの兵士や労働者が墜落死しているとされる。

その結果、6.1ヘクタールの敷地にある建物、庭園、屋上庭園、樹木の植栽まで完了しているが、開院できていないのは、医療設備の搬入が遅れているからだ。

例えばCTスキャンを行う装置の価格は8000万円から1億円、MRIは8000万円から2億円もある。病院の規模を考えると少なくとも数十億円の予算が必要だが、確保できなかったようだ。

現時点で唯一と言ってもいい解決法は、海外からの援助だ。

今年6月に平壌で行われた朝露首脳会談で、プーチン大統領ロシアの保健長官を金正恩氏に紹介した。ロシアの医療設備が平壌総合病院で役立つとの話があったと言われている。その後、両国は医療協定を締結した。

つまり、北朝鮮ロシアから高価な医療設備を取り寄せようとしているということだ。その見返りとして、北朝鮮の若い兵士がウクライナで命を落とすとすれば、これ以上の皮肉はないだろう。

一方で、平壌心臓病院の建設は再開された。

この病院は、韓国の純福音教会が金大中大統領(当時)の提案を受け入れ、2007年末に着工し、2010年6月の完成を目指していた。地上7階、地下1階、病床は260床の予定で建設が進められていたが、2010年3月の韓国海軍哨戒艦「天安」撃沈事件を受けて、南北関係が悪化した。その後の5.24措置(韓国独自の制裁)も加え、工事が止まってしまった。

その後、長年放置されていたが、それから12年後の2022年に工事再開の承認を受け、昨年末から今年にかけてからようやく工事が再開となったようだ。現在、本館西側の別棟の工事が行われている。建物の完成は来年になるものと思われる。

最新医療機器を備えた病院を開院させたからとそれですべてが終わるわけでは決してない。いかに維持、管理していくかも重要だ。機械が故障すれば、部品の輸入するなどして修理しなければならないが、制裁下にあり恒常的な外貨不足に悩まされている北朝鮮にとって非常に困難なことだ。

開店休業状態に追い込まれ、あるいは開院すらできずに、廃墟化する未来もありうるのだ。すでに北朝鮮には、「世界最大の廃墟」と呼ばれる柳京ホテルという前例が存在するので、まったくない話ではない。

金正恩氏が北朝鮮軍特殊部隊を視察した(2024年10月4日付労働新聞)