この記事をまとめると
■スーパーフォーミュラでは全車ヨコハマタイヤを装着する
■性能はそのままに環境に配慮したタイヤ開発をレースを通して進めている
■タイヤガレージでは職人たちが全チームを徹底的にサポートする体制を構築している
世界最速クラスのマシンを支えるタイヤの秘密
突然だが、皆さんはスーパーフォーミュラ(以下:SF)というカテゴリーをご存じだろうか?
クルマに興味がある読者の方々ならさすがに名前くらいは知ってるだろう。かつて、F3000やフォーミュラニッポンなんて呼ばれていた、フォーミュラカーを使うひとつのカテゴリーである。
なお、筆者は恥ずかしながらスーパーフォーミュラに関しては”超”がつくほどのにわか。正直いって全然知識がない。せいぜいわかっているのは、F1に似たようなフォーミュラマシンを使って、決まったエンジン(トヨタ製かホンダ製)を使用して、”タイヤはワンメイク”……ということくらい。それと、女子大生ドライバーのjuju選手が今年から参戦していることも把握している。あと、現在は日本のサーキットのみで行われている点も特徴だろう。
そんなSFのマシンパフォーマンスは、世界規模で見てもなんとF1の次に高いといわれいる。ざっくり整理すると、「F1>SF>インディカー>F2>スーパーGT>WEC>F3」といった感じなんだとか。つまり、実質世界で2番目に速いカテゴリーのレースが、なんと日本を舞台に繰り広げられている。
そんな世界最速クラスのフォーミュラーカーの足もとを支えるタイヤについて、激戦が続く2024年シーズン最終戦を前に注目しようと思う。
SFで使われているタイヤは、写真を見てわかるとおりヨコハマタイヤだ。F1で全車ピレリが装着されているワンメイク制度と同じで、SFでは全車がヨコハマタイヤのフラッグシップブランド「ADVAN」のタイヤを使用する。よって、スーパーGTのようにタイヤメーカーによる差がSFにはない。
このたび筆者が参加したのは、ヨコハマタイヤが20年以上続けているというメディア向けのタイヤ勉強会。内容云々の前に「20年以上やってんの!?」と驚いたのはここだけの話。会場はSFの第6戦富士スピードウェイ。主なカリキュラムはSF用タイヤにまつわる解説と、施設の見学となる。
ちなみに、ヨコハマタイヤがSFにタイヤを供給を始めたのは2016年から。ヨコハマゴムでは製品作りにおいて「技術開発・ブランディング・人材開発」の3本柱を掲げており、その目的とSFにおけるタイヤサプライヤーとしてのかかわりがマッチしているとのことで、供給するに至った……とのこと。
また、最近では自動車業界においてカーボンニュートラルやSDGsということに注力している傾向にあるのはご存じのとおり。そこでヨコハマゴムでは、SFの現場を通して製品の研究も積極的に行なっている。とくに、極限下で使われるレース用タイヤから得られるデータはとても貴重で、高速域における安定性とサスティナブル素材の相性などもレース現場からのデータをもとに、我々の使用する市販車用タイヤの開発に生かしているとのことで、SFへのタイヤ供給は、一見狭い世界の話に感じるが、蓋を開ければかなり壮大なプロジェクトとなっているのだ。
ただ、レース用タイヤと市販車向けタイヤに求められる性能はまったく異なることも事実。ぶっちゃけSFのタイヤは、レースで走る周(時間)だけもてばいいので、市販用タイヤではあり得ないような、突き詰めた開発も同時に行なっている。一方で、レースシーンでも環境に対する配慮を優先する傾向に最近はあるので、2022年からは再生可能原料を使いつつ、極限のグリップを得られるという、一石二鳥なスペックを誇るレース用タイヤも研究・開発しているとのこと。
しかし、これがまぁ大変。レースで供給できるほどの量産がまだできないという。それはなぜか。
現在SFで使用されているタイヤは、1本あたり33%がサスティナブル素材で構成されている。一方でプロトタイプである、より環境素材を多く使った次世代のタイヤは、1本あたり60%までその比率を高めているそう。スペックに関してもグリップや耐久性も現在使われているタイヤとほぼ同等なので、レースに投入しても問題ないレベルというデータ取りもある程度できている。
ただ、このタイヤに使われているサスティナブル素材はコストが非常に高いという。これをワンメイクタイヤとして導入すると、各チームの首を絞めることになりかねない(現状では価格が数倍レベルで上がるそう)。さらにもうひとつの問題が、素材の調達だ。世界中でサスティナブルだのSDGsだのといわれている影響で、安定した原材料の調達も難しいのだとか。極論、お金を払えば手に入るそうだが、そうなればコストも跳ね上がるわけで……現在ワンメイクタイヤとしてサスティナブル素材メインのタイヤを導入するのは、現実的ではないとのこと。
レース用タイヤの開発は、とにかく速いタイムが出ればなんでもいい……なんてことはなく、さまざまな事情が複雑に絡み合った複雑な世界なのだ。
職人揃いのガレージが圧巻!
皆さんはサーキットに足を運んだ際、とある建物を見たことがないだろうか。
そう。タイヤメーカーの名前が書かれた倉庫的な施設だ。正直多くの人は、「普段閉まってるし何やるところなの?」と思ってる人も多いはず。
てなわけで、レース用タイヤへの理解を深めた流れで、この日はヨコハマタイヤの看板を掲げる施設にも潜入してみた。
この日は先述のとおりSF第6戦。足を踏み入れると、何やら機械がずらり。ただ、ひと目見てすぐにわかった。ここはタイヤガレージだ。なんせ、タイヤチェンジャーやバランサーが、タイヤ専門店もビックリな数だけ設置されている。中央にはローラー付きのスロープが設置され、手前から奥にタイヤを流して各セクションへタイヤを渡せるような工夫もされていた。
ここは、SFに参戦する全チームのタイヤをサポートする拠点として機能しており、取材中も次から次へとチームスタッフがホイールやタイヤをもち込み、組み替えなどを依頼していた。
にしても、作業スピードがえげつない。市販品のハイグリップタイヤを昔チェンジャーを使って組んだことがあるが、かなりの重作業だったと記憶している。スポーツ系タイヤの一部やランフラットタイヤは組むのが難しい傾向にある。その知識をもっている側からすれば、SFで使われるようなタイヤなど想像したくもない。
しかし、そこはヨコハマブランドを背負う職人たち。組み替えからエアの補充、バランス出しまで各パートの担当者が無駄な動きを一切見せずにスパスパと組んでいく。見た目こそ人間だが、まるでプログラムされた機械のようである。ちなみにホイールは各チームのもち物なので、タイヤを外したらホイールは返却されるとのこと。レース前の準備の日であれば、ホイールを預けておけば組んでおいてくれるらしい。
そんなヨコハマタイヤのタイヤガレージ、営業時間は9時から17時とのことだ(もちろん関係者以外利用不可)。
所要時間は各パート3分前後の作業時間なようで、1本組むのに10分かからないという。ちなみに1番気を遣う作業はバランス取りなんだそう。あの速度域で走ると、ちょっとしたジャダーが物凄く気になるんだとか。ウエイトに関しては我々が使うような一般的なモノを使っている。気になるタイヤサイズはフロントが「270/620R13」、リヤが「360/620R13」となる。F1では18インチタイヤが導入されているが、SFではまだ13インチとなる。ただ、タイヤが極太なせいか13インチとは思えないくらい大きく見えるのが面白い。
スタッフはタイヤの組み替えなどを行うスタッフが10名とデータと睨めっこするエンジニアが8名ほどの計18名ほど。SFやスーパーGTなどのビッグレースは基本的に同じメンバーで全戦帯同している。
機材やタイヤを載せたトラックに関しては毎戦7台ほど使用しているそうだが、もってきているタイヤの量がこれまた半端ない。レースによって多少前後するそうだが、SFの場合は1戦あたり、ドライが500〜600本、ウエット用が700本前後という、工場ごとやってきたかのような数を用意しているとのこと。
ウエットが多めな理由は、「消耗が早いのと、ウエットが必要なときは全チームが必要なときでもあるので、速いペースで各チームに消耗されて在庫切れ……なんてことがあってはなりません。なのでドライより多いのです」と語ってくれた。
こう聞くと、タイヤに対する力の入れようは尋常ではないと思い知らされる。まさに知れば知るほど、その次を知りたくなうような、とても興味深い世界が広がっていた。
なおこの日は、トヨタ自動車会長「モリゾウ」こと豊田章男氏や、HRCの渡辺康治社長、そして、JRP会長を務める「マッチ」こと近藤真彦氏が集結。現行車両であるSF23の開発車両「赤寅」を近藤氏がドライブするという、激レアシーンが見れるデモランも行われ会場は大いに盛り上がった。
デモランを行ったこのマシンに装備されていたタイヤは、序盤で語った再生可能なサスティナブル素材を60%使用したスペシャルタイヤだったそうだ。
2024年11月9日(土)〜10日(日)で開催されるSF最終戦。ぜひ、ヨコハマタイヤにも意識を向けてレースを見てもらえたら幸いだ。
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