過去5万本の記事より大反響だった話をピックアップ!(初公開2023年7月30日 記事は取材時の状況、ご注意ください)
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飲食店を経営していると避けられないのがクレーマーや迷惑客への対応。2018年、福岡県八女市にラーメン店「あなたの心を鷲掴み」をオープンさせた三浦隆寛氏(38歳)も、店が軌道に乗りはじめた直後から迷惑客との攻防戦が続いている。
三浦氏は自身が運営するYouTubeやTwitterなどで本音をズバズバ発信し、さらに迷惑客対策のため店に掲げた「代表待ち・割り込み禁止 見つけ次第即退場」「18歳未満入店お断り」というルールがSNSで炎上した経験を持つ。なぜそこまでして迷惑客対策に取り組むのか、三浦氏に話を聞いた。
◆とんこつラーメンで日本一になりたい
三浦氏がラーメン業界に飛び込んだのは、18歳のとき。ラーメン店を含む飲食店をいくつも展開する会社で働き、20代前半には店長に抜擢された。優秀な売上成績も残し、会社のトップとして活躍するなど、若い頃からラーメン漬けの日々を送っている。
「2013年には、日本一のとんこつラーメン屋になることを目標に掲げ、僕の母を代表として株式会社三浦ファミリーを設立。同年、地元の宮崎県宮崎市で『とんこつラーメン天頂(てっぺん)』をオープンさせました」
その後、開業や運転資金として借り入れていたお金をすべて返済。「とんこつラーメンで日本一になるためには、やはり本場の博多で勝負したい」との思いから「とんこつラーメン天頂」を閉め、2018年6月に福岡県八女市で新しくラーメン店をオープンさせた。店名は、商標登録が可能だった「あなたの心を鷲掴み」へ変更している。
◆「こんなの、とんこつじゃねぇ!」「すぐ潰れる」
「宮崎の店で資金を蓄えて、満を持してのオープンだったのですが、お客さんがまったく来てくれない。オープンから2年で何千万円という赤字をこしらえてしまいました。おいしいかどうかを決めるのはお客さんですが、オープン当初から味は評価されていましたし、自信もありました。ラーメンスープ1杯に使う豚骨は、約1キロ。油も塩も加えません。水・骨・醤油だけで、あっさり系から超濃厚まで提供しています」
「まずは味を知ってもらうまでが大変だった」と三浦氏。さらに、やっと来てくれたと思ったお客さんからも激しく批判されるなど、心が折れるスタートだったという。
「当時は僕と同じ厨房にいた妹が、お客さんから『こんなの、とんこつラーメンじゃねぇ!』と言われたこともあります。さらに『〇〇や〇〇みたいなのがとんこつラーメン。あいつ(店長)は勉強してるのか?』『こんなの、とんこつラーメンじゃねぇ。すぐ潰れる』とも言ったそうで、妹は僕以上に悔しがっていました。そんなの、僕に直接言えという感じですし、嫌がらせで来ているのかと思ってしまいますよね」
◆「おいしい」と足を運ぶ客が増えてくる
思うように進まない集客と膨らむ借金。そして嫌味を言いにきた客の言動に何度も心が折れそうになったとか。それでもオープンから1年半、「おいしい」と足を運んでくれるお客さんが増えて繁盛しはじめた。
「繁盛しはじめたのは2020年にかかる頃だったので、ちょうどコロナの時期。その頃は、ウェイティングボードを置いて名前を書いてもらい、順番が来たらお客さんを呼ぶというスタイルで営業していました。宮崎市でラーメン店をやっていたときと同じ方法です」
◆客足とともに増加した迷惑客
しかし、店内が広く、複数台のテレビを設置していた宮崎時代の店舗と比べ、現在の店舗は店内に広いスペースがないため、お客さんは店外で待つしかない。
「記念すべき初満席のとき、お客さんに『ウェイティングボードに名前を書いて外で待っていてください』と、スタッフである母がお願いしたところ、『ラーメン屋のくせに、なんで待たないかんとや』と言われたそうです。また、コロナ禍の感染対策で『端から座ってもらえると助かります』と伝えたところ、『なんでお前に指図されんといかんと。好きに座らせろ』と言われたこともあります」
三浦氏によれば、「あなたの心を鷲掴み」がある筑後エリアには「ずっと行列ができているという店もなかったので、並んでまで食べるという習慣がない」とも語る。
「週末や混む時間帯に“待ち”ができるお店はたくさんありますが、普段から並ぶという感覚がないので、ウェイティングボードにも人数を書かず、名前しか書かない。そのため順番が来た途端、行列に並んでいなかった人たちが当たり前のように割り込んでくる。いわゆる代表待ちです。注意すると、『何分待ったと思っとるんや』と文句を言われる。スタッフは嫌な気持ちになりますし、モチベーションも下がります。しかも文句を言った人たちが並び直すことは、100%ありません。文句と言うより、私たち店側にとっては暴言です」
◆感覚の違いが生んだ迷惑客
しかも、その文句は厨房でラーメンを作っている三浦氏にではなく、お客さんを誘導するスタッフの母や妹にぶつけられる。その場合は厨房の手を止めて事情を聞きに行くのだが、そうすると大人しくなる客がほとんど。
「僕が男性で、見た目が怖いということもあると思います。でもそれは、人を見て文句を言っているということ。女性や子供にしか強く言えないのは、情けないと思います。僕には店主として、そういう迷惑客からスタッフを守る義務がある。でも、厨房でラーメンも作らないといけない」
苦肉の策として店舗前に貼り出したのが、冒頭の「代表待ち・割り込み禁止 見つけ次第即退場」「18歳未満入店お断り」の掲示物。入店前からハッキリと、お客さんにもルールを自覚してもらうためだ。しかし、18歳未満の入店を拒むのはどうしてだろうか。
◆「18歳未満入店お断り」の真相
「18歳未満入店お断りを掲げていますが、とんこつラーメンを提供する普通のお店です。それに、僕自身はお子様も大歓迎。最初はファミリーにも来てほしいという気持ちでした。ただ、代表待ちをする人の多くが、お子様連れのファミリーでした。
さらにあるとき、並んでいたのは男性1人だったのに、2、3家族の7~8人ぐらいがぞろぞろと集まってきた。妹が並び直すよう注意すると、いろいろ文句を言ってきたため、僕が外に出て状況を聞くことにしました。でも、何も答えません」
どうしようもない状態が続き、さらにこのあと行列に並ぶお客さんも巻き込む騒動になったことから、「18歳未満入店お断り」を掲げる決意を固めたという。
◆Twitterで炎上したルールと今後
「中学生や高校生になれば、きちんと列に並ぶことができる。でも、並ばない。状況を聞かれても答えない。やりきれない気持ちのなか、法律上18歳未満は子供扱いになるから仕方ないのかなと、ふと思ったのです。だったら、法律が改正されて18歳以上は“大人”と決まったわけだし、きちんと行列に並ぶことができる大人の人にだけ来てもらおうと決意。『代表待ち・割り込み禁止 見つけ次第即退場』『18歳未満入店お断り』というルールを同日に掲げました」
2つのルールを掲げたあと、Twitterなどでは批判の声も相次いだ。三浦氏を擁護するお客さんたちも暴言を書き込まれる対象となり、繰り返される攻撃と反撃。お客さんを巻き込んで炎上してしまったことに、いまでも心を痛めているという。
「今後は、前々から目標だった2店舗目を福岡市内に出店予定です。ただ、これからも方針を変える気はありません。ひとりひとりがルールを守って常識の範囲で行動してくれれば、こんなルールは作らなくてもいいんですけどね」
<取材・文/山内良子 画像提供/あなたの心を鷲掴み>
【山内良子】
フリーライター。ライフ系や節約、歴史や日本文化を中心に、取材や経営者向けの記事も執筆。おいしいものや楽しいこと、旅行が大好き! 金融会社での勤務経験や接客改善業務での経験を活かした記事も得意
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