最近、独り言の効能が注目されています。それは、独り言が多くの利点をもたらすからです。独り言を通じて自分の内面と向き合い、精神的な健康を保つための手段として活用できることが、多くの研究で示されています。
今回は、独り言に関する専門家として、多くの人たちに指導を行ってきたあな田さゆりさんの著書、「読むだけで人生が変わる ひとり言セラピー」(かんき出版)を紹介します。あな田さんの経験を基にした実践的なエクササイズや具体的なテクニックが紹介されており、読者は自宅で簡単に試せる方法を学ぶことができ、実際に効果を実感することができます。
自分の気持ちを尊重できるように
本書は「独り言」が、人生を大きく変える可能性を秘めているという考えから始まります。ネガティブな思考パターンを生み出す「有害な独り言」の正体を指摘し、それが人生にどのような影響を与えているのかが理解できるでしょう。
「独り言」がもたらす効果とは何でしょうか。それは、ありのままの自分でいることです。周囲の人が「こうした方がいい」と言っても、自分の心が「ノー」と言えばそれに従って行動する。周囲の人が反対しても、自分の心が「やりたい!」と思えば、その気持ちを尊重すればいいのです。
自分の気持ちを引っ込めて他人の意見に合わせてしまう人が多い中、その逆を行く考え方です。自分が好きな自分でいると、毎日を幸せに楽しく過ごすことができます。
「謙遜」は、日本人独特の思想を反映したものといっても過言ではないでしょう。自分は我慢して他者に譲る、自分よりも他人を優先するというのは日本人のよさでしょう。
しかし、多くの人は「自由に生きたい」という思いがあるはずです。もっと自然体で楽に、そして自由に生きていいのです。人生はすべてあなたのものだから、他人にとやかく言われる筋合いのものではありません。そして人生は、あなたの選択の連続で決まります。
独り言の大きな効能として挙げられるのがストレスの軽減です。感情を抑圧し、それが積もり積もってストレスとなります。独り言を言うことで、抑圧された感情を言葉に出して表現でき、心の負担を減らすことができます。仕事や人間関係でのストレスが多い現代社会において、この効果は非常に重要です。
また、独り言は自己理解を深めるための有効な手段です。自分の考えや感情を言葉にすることで、自分が何を感じ、何を考えているのかを客観的に見つめ直すことができます。これにより、自分自身の問題や課題を明確にし、解決策を見つけやすくなります。
イライラすることがあったとします。「なぜイライラしているのだろう?」と独り言を言うことで、その原因が仕事のプレッシャーにあることに気付くかもしれません。このようなときに、自分を励ます言葉を口にすることで、自己肯定感を高め、前向きな気持ちを持つことができます。
困難な状況にも立ち向かうときであれば、「私は大丈夫。今日はうまくいく」と自分に言い聞かせるのです。きっと、勇気が湧いてきます。独り言を利用することで、ポジティブな思考を強化し、自己肯定感を高めることが可能となります。
あな田さんは、独り言は目標達成のための強力なツールとも示唆しています。目標を口に出すことで、その目標が具体的になり、達成に向けての意識が高まります。「このプロジェクトを完成させる」と独り言を言うことで、達成目標が明確になり、行動に移しやすくなります。これは、自己暗示の一種とも考えられます。
独り言ブームの先駆け
筆者が興味深いと思ったのは、本書が2016年に発行されたことです。独り言の効果が話題に上るようになったのは昨年くらいからです。まるで、ブームが到来することを予見していたかのような仕上がりに驚きを禁じ得ません。
独り言には記憶力や学習効果を高める効果もあると考えられます。情報を音声として出力することで、その情報が脳に深く刻まれやすくなるからです。勉強中に声に出して内容を確認することで、記憶に定着しやすくなるのです。
読者は自分自身の「独り言」を意識的にコントロールすることで、思考パターンを変え、より充実した人生のためのスキルを身に付けることができるでしょう。独り言は心の健康を保つための効果的な手段であり、ストレスの軽減、自己理解の深化、自己肯定感の向上など、多くのメリットがあることが理解できます。
コラムニスト、著述家 尾藤克之
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