首や腰が痛い、肩こりがひどい、眠りが浅い、尿漏れに悩んでいる……。そういったトラブルの原因が、日常的な“呼吸”に関係している可能性があるかもしれない。「多くの日本人は『きほんの呼吸』ができていない」と警鐘を鳴らす、アスレティックトレーナーで、呼吸の専門家でもある大貫崇氏に「人間本来あるべき呼吸」について聞いた。
◆アスリートでさえできている人が少ない呼吸の基本
「呼吸といえば、腹式呼吸や胸式呼吸を思い浮かべる人が多いと思います。ですが、名前に“◯◯式”とある通り、これらは特別な応用呼吸になります。呼吸の基本ができていないのに、いきなり特別な応用呼吸をやろうとしてもうまくいくはずがありません」
では、呼吸の基本とはいったいどのようなものなのか。
「呼吸の基本はものすごくで簡単で、息を吐き切ってから吸う、を繰り返すだけ。みんな吐き切れていないので、吸えないんです。息を吐き切れば肺から空気が抜けて胸が萎むので、次に吸った時にちゃんと空気が入って吸えます。ちゃんと吐けていない人は横隔膜が動きません。
当たり前だと思うかもしれませんが、この呼吸の基本ができている人はかなり少ない。1900人のアスリートを対象にした研究では、9割もの方が基本の呼吸ができていなかったという結果も出ています。僕自身、専門家を対象に10年以上にわたってセミナー開催してきましたが、やはり9割程度の方が呼吸の基本ができていないと感じました」
◆アスリート向けに呼吸を指導
そんな呼吸の基本を「きほんの呼吸®︎」として広めるべく活動を続ける大貫氏は、アスリート向けの「呼吸最適化プログラム」の監修も行っている。
これは深い呼吸の習慣化を目的としたサポートデバイスの開発を行うBREATHER社と、湘南ベルマーレフットサルクラブの二社間による取り組みの一環として始動したプロジェクト。下手な呼吸による筋肉の無駄使いをやめて、アスリート本来のパフォーマンスを引き出すことが目的だという。
「最初にお話した通り、アスリートでも『きほんの呼吸』ができていない方は多いですが、体感してもらえれば、すぐに変化を感じ取ってくれていると手応えを感じています。
『呼吸最適化プログラム』では、呼吸の重要性をインプットした後、プレウォーミングアップを導入したり、意識的な深呼吸の習慣化を図ったりしています」
◆“きほんの呼吸”のやり方をチェック
アスリートや専門家でさえ呼吸の基本ができない要因を、大貫氏は「肋骨を下げて、しっかり吐くことができていないから」と分析する。
「たとえば、3秒息を吸ったときは、倍の6秒は息を吐くようにしてください。そして息を吐き終わった後、3秒間息を止める。これが『きほんの呼吸』のスタートになります。息をしっかり吐くことによって副交感神経が優位になり、リラックスできますよ。
「きほんの呼吸」ができているかどうかは、呼吸をするときに胸とお腹に手を当てて、両方動いているかどうかをチェックするとわかりやすい。息を吐いたときに肋骨が平らになっているのがベストな姿勢になります。肋骨が平らになってお腹が凹んでいなければ、しっかりと、アスリートには必須の体幹が効いている証拠です。個人差はありますが、何回か試してもらえれば、コツがつかめると思います。
ちなみに、息を吸う時間は必ず鼻から3秒程度で吸えば十分です。ポイントは、吐く時間を吸った時間の2倍以上に徐々に伸ばしていくこと。吐く時間を長くしていくと苦しくなってきますが、少し苦しいぐらいがちょうどいいです。1分間に10回以下、できれば6回程度の呼吸数を目指しましょう。
◆自分の呼吸数を会社でチェックすると効果的
呼吸数を計るタイミングは、体重測定と同じようにルーティンを決めて習慣化するのが重要とも。
「私は会社で同僚と呼吸を数えうことを推奨しています。お互いのいつもの呼吸数がわかれば、呼吸が乱れているときに不調に気づきやすいですし、ストレスを抱えている、仕事が溜まっているなど、不調の原因が仕事にあるときは特定しやすいので」
また、「きほんの呼吸」を習得したうえで、仕事に役立つ呼吸もあるという。
「プレゼンや打ち合わせなどで緊張しやすい方にとくにオススメなのが、呼吸によってマインドをリセットする方法です。緊張しているときに、ちょっと苦しくなるぐらいまで息を吐き切って風船を膨らませてみると、意識が苦しいほうに向くので緊張を和らげやすくなります。
会社に風船がないときは細いストローでも代用できます。とにかく息を吐き切って少し苦しい体験をすれば、プレゼンや打ち合わせどころではなくなるので、マインドをリセットしやすいです。
あと、仕事のストレスで背中が丸まってしまったときは、みぞおちをグリグリと刺激するのもいいですよ。ちょっと痛いですが、刺激することでフッと息を吐くことができて、お腹の力がいい感じに抜けると思います」
“正しいひと息”を知るだけで、仕事の質をグッと上げることも難しくないようだ。
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