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 2024年11月7日・8日、サイボウズは年次の大型イベント「Cybozu Days 2024」を幕張メッセで開催した。初日の基調講演では、代表取締役社長の青野慶久氏はじめ、サイボウズのメンバーが総出でプロダクトや施策の最新動向、ユーザー事例などについて説明。昨年は抑え気味だった生成AIへの対応を今年は一気に進め、パートナーとともに市場を拡大していく方向性を示した。

独自の世界観を体験できるCybozu Days 今年は「東京ノーコードランド

 広大な幕張メッセの会場をフル活用し、テーマパークさながらの独自の世界観を表現するCybozu Days。今年のテーマは「東京ノーコードランド」で、会場は例年にもましてカラフル。巨大スクリーンを4面に配した半円型の大型ステージで基調講演はスタートした。

 登壇したサイボウズ 代表取締役社長の青野慶久氏は、サイボウズの最新動向を共有する。まずは部長に扮する豊川悦司さんがシュシュッとアプリを作るテレビCMを紹介。また、10年前に大きな反響を呼んだショート動画「大丈夫」の続編として、西田尚美さんが女性管理職の苦悩とやりがいを表現した「大丈夫2」も公開した。

 続いて最新のビジネス概況も紹介。同社の基幹プロダクトに育ったkintoneの導入社数は3万7000社を突破した。サイボウズOfficeも8万社、Garoonも7000社、メールワイズも1万5000社と堅調に推移している。

 アワードも好調で、働きやすさ・働きがいを両立したプラチナ企業のランキングで、上場企業2300社でサイボウズがトップに輝いた。そして「もっとうれしかったランキング」として青野氏が挙げたのは、日経コンピュータの顧客満足度調査(業務効率化・内製支援サービス、グループウェア・ビジネスチャット)とパートナー満足度調査(業務効率化・内製支援サービス、クラウド情報系)の2部門で1位になったこと。「kintoneも、サイボウズOfficeも、Garoonも、お客さまにとって、パートナーさまにとって、とても満足度が高いということで大変うれしい。でも、正直いってまだまだです。もっともっといい製品ができるはず」と青野氏は語る。

 オフィシャルパートナーは500社、レジスタードパートナーは750社を超え、今回のCybozu Daysでは過去最大の126社がブースをかまえる。連携サービスも435に増え、昨年発表したセミオーダー型のサービスも25となった。「まだまだエコシステムを拡大していきたい。チームワークあふれる社会に作るために、社員一同、これからも全力で仕事に取り組んで参りますので、引き続きサイボウズの応援をよろしくお願いします」と語り、プロダクトの紹介に移った。

アプリの裏には業務がある 設定変更の裏には業務の改善がある

 続いて登壇したサイボウズ 執行役員 開発本部長の佐藤鉄平氏は、kintoneの最新動向について説明した。

 kintoneは毎月650社が新たに導入。「なかなか想像できないかもしれないが、身近なところではコンビニ大手のセブンイレブンさんとファミリーマートさんの店舗数を足すと、だいたい3万7000店舗くらい。なかなか拡がってきたのではないか」(佐藤氏)という規模だという。

 3万7000社の契約企業が作るアプリは毎月10万に及ぶ。これは紙やExcelで行なわれていた業務が毎月10万もkintoneに置き換えられていることを意味するという。また、アプリの設定変更回数は毎月180万回。「アプリの裏には業務がある。アプリの設定変更の裏には業務の改善があると思います。優先順位を変えるためにフィールドを追加したり、プロセスに新しいスタックを追加する。kintoneはそういった環境や要求の変化に柔軟にスピーディに対応できる。これがkintoneのもっとも特徴的な価値」と佐藤氏はアピールする。

 不具合の改修や新機能などkintoneのリリースは、1年で120回程度に増えてきた。これは2020年に比べると、およそ3倍だという。こうしたアップデートで反響が大きかったのは、プロセス管理のフロー表示、計算式の自動補完、フィールドの絞り込み、レコード一覧画面のインライン編集の改善などで、ユーザーが業務改善に専念できるよう工夫しているとのこと。また、大きな企業で重要な管理や拡張性についても改善を続け、プラグインの利用許可をアプリごとに設定できるようになっていたり、APIも16個追加。その他、モバイルではホーム画面へのアプリショートカットの追加機能(Android版)が図られ、コントラストやデザインの統一などアクセシビリティも向上した。

 今後の進化について語る佐藤氏は、まずkintoneによるDXの特徴として、「現場主体」を挙げる。業務に詳しい現場部門とITに詳しいIT部門でギャップが生じ、DXが進まないという課題に対して、kintoneでは現場主体でアプリ作成や改善が行なえる。これを実現するのが、「ノーコード&エコシステム」「柔軟でスピーディな変更」というkintoneの2つの特徴だ。「事業部門が主体的に業務の改善に取り組んでいくことができる。ノーコードでシステムを作れるが、頼れるエコシステムもある」と佐藤氏は語る。

サイボウズNEXTで進めるkintoneとグループウェアとの融合

 こうした現場主体の業務改善を加速すべく、昨年発表されたのが「サイボウズNEXT」という新しいコンセプトだ。「より多様なお客さまが、より多様な情報を扱える、ワンプラットフォーム」と佐藤氏は説明。これを実現するための方向性として、佐藤氏がまず挙げたのは「グループウェア領域との融合」だ。

 グループウェア領域との融合とはなにを指すのか。佐藤氏は、「kintoneで案件を管理する場合でも、そこからこぼれてしまう情報がある」と指摘する。たとえば、案件に関するメール、訪問予定などを登録したスケジュール、資料などのファイルなど。これら従来グループウェアがカバーしていた領域をkintoneに取り込んでいくという。

 1つ目に挙げたのは、10月に正式リリースされたkintoneの「メール共有オプション」。これは個人のメールボックスに入っていたメールをチームで共有する機能で、従来メールワイズが補っていた機能をkintoneに取り組んだものだと言える。メール対応状況を見える化し、タスクや案件管理を行なっているkintoneアプリにメールの履歴やメールの情報を登録できる。

 2つ目はkintoneとサイボウズOfficeでもっとも使われているスケジュールとの連携。kintoen案件管理アプリの予定をサイボウズOfficeに登録することができ、kintoneからはリンクとして見える。こちらは2025年1月にリリースする予定となっている。

 3つ目はkintoneグループウェアプラグイン(リリース時期は未定)。こちらは文字通り、シンプルなグループウェア機能をkintoneで実現するもので、全社で行なう汎用的な情報共有をkintoneで実現する。たとえば健康診断のお知らせを掲示板に登録しておくと、未読のユーザーのみにリマインドすることもできる。PDFの共有・閲覧や簡易ワークフローなどの機能も提供予定。「グループウェア領域とkintoneをシームレスに融合していくことで、より業務を効率的に回せるようにしたい」と佐藤氏は語る。

kintone×AIが支援するデータ活用とアプリ作成・運用

 さて、今回の目玉とも言えるAIとkintoneとの融合について説明したのは、サイボウズ マーケティング本部 マーケティング戦略部 副部長の山田明日香氏だ。

 AIは個人の生産性を強化するのみにとどまらず、チームの強化にもメリットがある。昨年のCybozu Daysでは「AIとkintoneは相性がよい」というメッセージが披露された。では、サイボウズNEXTで掲げられた「より多様なお客さまが、より多様な情報を扱える」ようにするため、kintoneではどのようにAIを活用するべきか。注力すべき領域として定めたのが、DXを加速させる「データの活用」と「アプリ作成と運用支援」の2つだ。

 DXを推進するためにkintoneを利用する企業は増えている。多くのユーザーは紙の情報のデジタル化からスタートし、トランスフォーメーションのために情報共有を進めようとするが、そこには縦割り組織とシステムの乱立による情報のサイロ化という課題が立ちはだかる。こうした壁を壊すため、kintoneを情報プラットフォームとして導入し、データを全社で活用しようとしているわけだ。

 また、トランスフォーメーションを進める企業が進めているのが、現場によるアプリ作成。kintoneを活用することで、デジタルのメリットを体感し、新しい施策を柔軟にスピーディに進めることができる。これらデータ活用とアプリ作成と運用で生成AIをうまく活用できないかと考えたわけだ。

 生成AIは多くの情報を短時間で、よりわかりやすく抽出することができる。この機能を活用し、kintoneから横断的に取り出すのがデータ活用に対するAIの役割だ。あわせて多様な業務をカバーできるkintoneの特性を活かしたアプリ開発を実現するためにもAIを活用しようと考えた。このうち前者のデータ活用を支援するのが、今回発表された「kintone AIアシスタント(仮称)」になる。こちらは同日からβ版の募集を開始された。

 kintone AIアシスタントはkintoneの検索機能とRAG(検索拡張生成)を組み合わせたもの。RAGはLLMと企業内のデータを組み合わせることで、自社に必要なデータを得られる仕組み。kintone AIアシスタントでは、質問をkintoneに投げると、AIがキーワードを取り出し、データソースとなるkintoneを検索。抽出したデータを元に、AIがわかりやすい回答を生成し、ユーザーに表示するという仕組みになる。

kintone AIアシスタント登場 kintoneから必要な回答をゲット

 kintone AIアシスタントは、kintoneの画面上部に設置されたAIメニューから呼び出せる。ユーザーは質問事項を記載すれば、営業案件アプリや商談履歴アプリから類似な案件や失注案件があるかを調べられる。また、回答を生成するために使った参照情報も表示され、該当のレコードを確認することも可能。山田氏は、「新しい部署や組織に異動してきた人が業務の情報をキャッチアップするのは時間がかかる。でも、この機能を使えば、異動してきた人もすぐに情報を抽出できる。業務知識を身につけるのに時間がかかるという問題を解決できる」と語る。

 山田氏はkintone AIアシスタントの管理者画面も披露。管理者は検索対象とするデータソースやフィールドを複数設定したり、アクセス権を設定できる。これにより、ユーザーはそれぞれの権限に応じて閲覧できる情報からのみ回答が生成される。また、ユーザーが自由に質問できるだけではなく、管理者が定型の質問やプロンプトを登録しておくことも可能。回答の仕方やメニューの場所についても、あらかじめカスタマイズできるという。山田氏は、「kintoneは『シュシュッとアプリを作成できる』というCMをやらせてもらっているが、AIの方もシュシュッと簡単に設定できる」とアピールする。

 山田氏がアピールしたのは、AIを民主化させる必要性だ。「これから5年、10年先を考えると、AIを使わないという選択肢はないとわれわれは考えています。でも、成功のやり方をみんなわかっているかというと、そういうわけではなく、日本でも、グローバルでも、やりながら取り組み続けるテーマになっている。だからこそ特定の専門家が試行錯誤するのではなく、もっと幅広い人に活用してもらう機会を設けて、使い方を知ってもらうことができるといいなと思っている」と山田氏は語る。

 生成AIの機能はエコシステムパートナーからも提供されている。実際、昨年のCybozu Daysでは、サイボウズではなく、パートナーのM-SOLUTIONSが生成AIの活用を提案していたのが印象的だった。同社の「Smart at AI for kintone」はすでに400社が導入しているという。

 今年、紹介されたのはkintoneのカスタマイズをテキストや音声から行なえる「Associate AI Hub for kintone」(ショーケース)と会話を録音するだけで議事録をkintoneアプリに登録する「Front Agent」(Umee Technologies)。これにとどまらず、今回のCybozu Daysでは外部LLMとの連携、設定支援、AI-OCR、アプリ作成支援、AI導入相談、データ活用、チャットボットなど、40のブースでkintone×AIの製品が展示されているという。

 kintone AIアシスタントは2025年1月から限定的にβ版が提供され、募集も開始されている。「実際に使ってもらうことで、いろいろな使い方、アイデアが出てくると考えている。利用されたお客さまの声を元に、私たちは真摯に、愚直に取り組み、機能をアップデートさせていきたい」と山田氏は締めた。

 舞台に戻った佐藤氏は、AI×サイボウズの方向性として「ノーコードとAIでもっと現場が主体に」「情報共有によるチームワークがAIの基盤に」「プライバシーとセキュリティの保護」の3つを挙げる。今回発表されたkintone AIアシスタント以外にも、さまざまな研究開発を行なっており、プロダクトに取り組んでいく予定だという。

エンタープライズ向けの性能ダッシュボードと外部システムのアプリ化

 続いてエンタープライズ対応について説明したのは、サイボウズ エンタープライズプロモーション部長 事業戦略室 国内EP市場販売責任者 池田陽介氏だ。

 昨年発表された大企業向けの全社情報プラットフォームライセンス「ワイドコース」は、今年7月に無事リリース。大規模なユーザーで重要なポータル強化やプロセス管理強化、アプリ分析(来年リリース予定)などの機能強化により、管理や統制がしやすくなっているほか、アプリやスペース数、APIリクエスト数も上限値を緩和。作成可能なアプリ数もスタンダードコースの3倍となる3000、APIリクエスト数も10倍の10万リクエスト/日にパワーアップしている。

 池田氏はワイドコースのポータルを披露。全社向けのお知らせや締め切りを通知したり、アプリやスペースをカテゴリ分けして表示する機能も用意されている。kintone以外のアプリのリンクを貼り、社内アプリケーションのポータルとして利用することも可能だ。プロセス管理では、管理社側だけでなく、ユーザー側もチャート化。「課長承認で止まっている」といったステータスも確認できる。

 来年リリース予定のアプリ分析では、社内で利用できるアプリを統合的に分析。「管理者が一人しかいない」「よくアプリを作っている部署を抽出する」「使っていないアプリを調べる」といった情報をチェックしたり、構成情報を元に「どのアプリがどのアプリを参照しているのか」といったアプリの関連付けを見ることができる。

 エンタープライズ向けの取り組みとして新たに披露されたのは「性能ダッシュボード」。これは特定アプリへのアクセス集中やアプリの構造面での課題で引き起こされる性能面での原因を抽出できるkintone版のAPM(Application Performance Manager)。同時接続数やリクエスト数、応答数を把握したり、ツリーマップ形式でアクセスが集中しているアプリを検出できる。性能改善のヒントも表示され、設定変更による性能劣化の解消につなげることが可能になる。

 また、研究開発として昨年発表された外部システムのアプリ化も進めている。こちらは他サービスのデータをAPI経由でkintoneに表示するサービス。今回はGoogle BigQueryやAmazon RDS(MySQL)を例にしたデモも披露された。kintoneアプリの作成画面に新たに追加された「外部システムとの作成」をクリックし、クレデンシャル情報登録やマッピング設定を行なうと、接続先のデータが表示される。kintone自体には外部システムのデータを保持せず、あくまで参照しているだけ。「外部のシステムを意識せず、kintoneのスキルだけあれば、データを活用できる。まさにデータの民主化を実現する機能」と池田氏はアピールする。

基幹システムの周りにkintoneあり 海外拠点での利用事例も

 続いてサイボウズ 営業本部 エンタープライズ営業部 部長の松森知里氏がkintoneビジネスの概況について説明した。まず披露したのが、エンタープライズ企業の活用動向。「サイボウズと言えば、中小企業向けグループウェアというイメージが強くないでしょうか?」と語る松森氏。しかし、実際は国内のエンタープライズ企業4000社のうち、32%がkintoneを導入しているという。

 導入を検討している部署は、3割がDX・IT部門、7割が業務部門。用途に関しては、SFA/CRM、ワークフローに関しては中小企業と同じだが、全社の情報プラットフォームの利用が多いのが特徴。「複数部署でkintoneを使っていただいている状態。基幹システムの周りにkintoneがあり、アプリが増えていく状況」と松森氏が語る。

 しかし、ノーコードで作られたアプリが増えると、管理も大変になる。そのときに活用したいのが、kintoneのエコシステムだという。「今年一年、特にエンタープライズ向けにエコシステムの内容を拡充してきている」と松森氏は語る。前述したワイドコースに加え、新設されたエンタープライズパートナー6社が導入や運用の支援に当るとのこと。また、エンタープライズ向けのコミュニティも「kintone Enterprise Circle」のほか、「Enterprise User Meetup」などが立ち上がっているという。

 具体的な事例としては、三菱重工業が海外拠点を含め3000名でkintoneを活用している。「三菱重工業さんであっても、海外拠点のバックオフィス業務は一部紙が残っており、これが課題になっていた」(松森氏)とのことで、シンプルな社内決済アプリをkintoneで作成した。DX推進部門と事業部が連携して進めていたこのDXへの取り組みはグローバルに及び、スモールスタートで作ってきたkintoneアプリは、2018年の8倍にまで拡大。そのうち約1/4が海外で使われているという。「エンタープライズ企業のグローバル展開。ぜひkintoneにお任せいただければと思います」と松森氏はアピールする。

 中小・中堅企業ユーザーの動向についても説明された。エンタープライズが増えたとは言え、毎月650の新規ドメインの9割はやはり中小企業で、月間のトライアルは3994件に上るという。kintoneを中心としたエコシステムも拡大し、kintoneベースで開発された業種・業務向けのパッケージ製品でセミオーダー型ソリューションも導入が拡大している。

 基調講演の最後は青野氏が再度登壇し、120以上のパートナーによる展示ブースを強くアピール。「東京ノーコードランドを楽しんでほしい」と語って、基調講演を終えた。

生成AIに一気に舵を切るサイボウズ AIもシュシュッと使えるkintoneへ