高齢化社会が進む中で、私たちの身の回りには多くの高齢者が存在する。彼らの行動には、時に驚くべきものがあるが、その中には「人に迷惑をかける」とされる行為も少なくない。
 
「私の父がまさにそういうタイプの人なんです」

 今回話を聞いた今西清美(仮名・45歳)さんは、非常識な行動を繰り返す父親(70歳)に頭を悩ませている。

横断歩道で「車が来ると渡ろうする父」

「よくニュースで報道されるじゃないですか。公共の場所でマナーの悪い行為をする人の所業が。自宅前に人通りの少ない横断歩道があるんですけど、父は必ず車が来る時に渡ろうとするんです。走っていない時は様子を見ていて、遠くから車が来るのが見えると、のろのろと動き出して……。最初は父が死のうとしてると家族が心配したんです。でもどうやら本人にその気はまったくなくて。渡ろうという素ぶりを見せるだけで、実際には渡らないんですから」

 意図的だとしたら迷惑行為といえる。しかし、家族は注意しないのだろうか。

「それを知ったときは、遠回しに伝えました。そういうことをしてると車に轢かれちゃうからやめてほしいって。でも、本人は私たちの言う事なんて寝耳に水というか、まるで聞いちゃくれないんです。毎日暇なんですよ。用事がなくても横断歩道まで行って、車が来ると渡ろうとするんです。悪い事をしているという自覚は本人にはないみたいです」

◆「自分は間違っていない」と頑なに主張…

 続けていればいずれトラブルになりそうだが、そうはならなかったのだろうか?

「一度だけあります。毎日同じ時間に白いハイエースが通るのですが、父の迷惑行為を何度か受けている人だったらしくて。運転手は50代くらいの男性で、車から降りて父に文句を言ったんです。それで言い合いになり、警察が来る羽目になって。私たち家族も現場に呼ばれました」

 清美さんと母親が現場に行くと、そこには怒鳴り声をあげる父親の姿があった。

「父は、道路を渡っていただけだ、と警察や私たち家族に訴えたんです。父の迷惑行為を黙認していた私たちですが、警察の前では庇うこともできません。運転手と警察に平謝りして、どうにかその場を収めてもらいました。家に連れ帰った父は私たちにずっとぶつくさと文句を言っていました。自分は間違っていないのにどうしてお前らが謝るんだって」

◆イヤホンを付けずにラジオを流していた

 それ以降、父親は横断歩道での迷惑行為をやめた。とはいえ、それは別の行為に目を移しただけだった。

横断歩道での一件からしばらくして、今度はバスの中でイヤホンを付けずにラジオを流していたようなんです。それまでラジオなんて聞いている姿は一度も見たことがありません。なのに、突然ポータブルラジオを買って、バスの中で聞き出したんですよ。それを運転手の方に注意され、またもやトラブルになりました。今度もまた家族が出向いて平謝り。本人は反省の色をまったく見せず、自分が人に迷惑をしている様子すら見せないんです」

 何も知らず自然に迷惑行為をしていたとは考えられないだろうか?

「それはないと思います。バスには何百回となく乗っていて、それまで一度もそんなことをしたことがありませんし。明らかに人に迷惑をかけることを目的としているんです。その頃から、家族みんな父親を厄介な存在と感じていました」

 かつては家族に慕われていた父親の居場所は、もはや家の中にはなくなってしまった。家族は話し合い、父親を老人ホームに入れることを計画するも、断固として拒否。誰にも迷惑をかけないことを約束させ、それまで通りに暮らすこととなった。

◆隣人宅の庭に侵入し、草木の手入れをし始めた

 しかし迷惑行為癖は治らず、それ以降も続いた。自宅近所に若い夫婦が引っ越してきたとき、その家の庭に勝手に入り、草木の手入れをし始めたという。自前の園芸用の鋏を用意し、白昼堂々と手入れをした。落とした葉をビニール袋に集めて庭の隅にまとめ、あちこちに除草剤を撒いた。

「それに気づいた奥さんが私に電話をしてきたんです。怒っている様子ではなかったのですが、おそらく感情を隠していただけですよね。それがきっかけで近所付き合いがパタっとなくなりました。私に気づいても、挨拶すらされなくなりましたよ」

 父親の迷惑行為に我慢できなくなった清美さんは、泣きながら父親を叱ったという。他人の庭に入るのは犯罪だ、いつか警察に捕まると。しかし、その決死の訴えも父親には届かなかったようだ。

「せっかく俺が綺麗にしてやったのに」と、ぼそっと言ったという。 

「実の父親に対して愛想を尽かすとは思いませんでした。それまでは立派で尊敬できる人でも、今はもう他人のような目で父を見てしまいます」

 ニュースやSNSで見かけるトンデモ老人。それは自分とは関係ない世界の話ではない。被害を受ける側になるかもしれないし、被害を与える側になるかもしれない。高齢化が進んだ先に訪れる未来は…。

<TEXT/山田ぱんつ>

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