海上自衛隊の掃海艇「うくしま」が2024年11月10日に出火し、翌11日未明に沈没しました。同艇は自衛艦としては珍しく木造だったとのこと。なぜ今の時代に燃えやすい木を使うのでしょうか。あえて鉄を使わない理由がありました。
鋼鉄の掃海艇なぜ造らないの?
2024年11月11日(月)午前、海上自衛隊の掃海艇「うくしま」が福岡県沖で海没しました。
同艦は、前日10日午前9時40分ごろ、福岡県宗像市の大島沖合を航行中に出火。その後いったん14時ごろに鎮火するも、14時50分頃に再燃が確認され延焼。消火困難となり、15時45分ごろに総員退艇命令が出されたそうです。
最終的に、11日未明に船尾側が水没して転覆し、鎮火したのは出火からおよそ14時間半後でした。なお、出火時に機関室で勤務していた3等海曹1名が行方不明となっています。
この件に関して、SNSなどには「うくしま転覆か、木造船だから炎が広がるのも早いんだな」「木造船だからなぁ…機関部から燃えたようだし」などといったコメントが散見されます。
自衛艦というと、鋼製船体の大型艦というイメージがありますが、なぜ木造なのでしょうか。
そもそも「うくしま」は、すがしま型掃海艇の6番艇として2001年9月17日に進水、2003年3月18日に就役しており、すでに船歴は21年以上を超えるベテラン艇です。掃海艇は就役後おおむね20~24年ほどで除籍に至っているため、「うくしま」もあと数年で退役だったと考えられます。
一方、鋼製船体の自衛艦の場合、30年以上使用されることは多々あり、たとえば2024年11月現在、護衛艦として現役最古となる「あさぎり」は船歴36年、より小型の「あぶくま」でも35年間、第一線で使われ続けています。練習艦に種別変更された「はたかぜ」はさらに長い船歴38年と、掃海艇と比べて約2倍もの長寿命といえるでしょう。
耐火性などの面でも木造艇と比べて鋼製の方が優れているように思えますが、実は「うくしま」を含む掃海艇の一定数が木造なのは、その任務の特性を考慮したからです。
木造なのは、その任務の特性ゆえ
掃海艇は、「海の地雷」とも形容される機雷を除去したり、処分したりするのが主目的の船です。機雷の起爆方法はいくつかありますが、なかには磁力に反応するというのも含まれます。
鋼製船体の場合、自然と磁気を帯びるため、それが機雷を爆破させる危険性を有します。そこで、掃海艇は安全のために鉄ではなく磁気が発生しない木で造られるのです。
ただ、木造船は前述したように耐用年数の面ではどうしても劣ります。また、木造はどんなに防水処理を施しても年を経ると水を吸い、重くなるとともに劣化していきます。重くなるということは、そのぶん燃費も悪化するということで、機関や燃料搭載量が変わらなければ最高速度や航続距離は低下します。
ほかにも、1980年代以降、民間で木船の需要が減ったことで、木造艇(船)を造れる技術者が減り、ノウハウを継承するという観点からも問題視されるようになったといいます。
こうした時代の流れにより、海上自衛隊では2008年度計画艦の掃海艇「えのしま」(2012年3月21日竣工)以降、掃海艇および掃海艦はFRP(繊維強化プラスチック)構造となっています。
FRPも火に強いワケじゃない
海上自衛隊によると、FRP製の掃海艇の場合、その寿命は約30年になるそうで、木造艇と比べてLCC(ライフサイクルコスト)を下げることも可能と説明しています。また技術進歩の結果、木造艇以上の強度を持たせることが可能なため、同じ排水量であれば全体を大きくすることもできるようです。
ただ、難燃性という観点では船舶業界の専門家いわく、FRP艇も木造艇とそう大差ないという回答でした。
実際、2019年3月に東京都足立区で起きた屋形船の火災事故について、国の運輸安全委員会が発表した最終報告書によると、着火点は通常の木材(約450度)と比べてFRP(約490度)の方が高いものの、いったん火が着くと船体を構成するポリエステル樹脂などから可燃性ガスの発生が連続し、燃焼が継続する特徴があると結論付けています。
そのため、防火の徹底、早期発見、初期消火の必須は素材にかかわらず重要とのことでした。
ただ、FRPは進化しており、難燃性の高いものも登場しているそうなので、ひょっとしたら将来のFRP製掃海艇は、より耐火性に優れた船になっているかもしれません。
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