リドリー・スコットが監督を手がける超大作グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』にアメリカの新鋭フレッド・ヘッキンジャーが出演している。本作で彼が演じるのはローマ帝国の双子の皇帝のひとりカラカラ。彼はもうひとりの皇帝を演じたジョセフ・クインとアイデアを出し合いながら、皇帝のもつ“二面性”を表現したかったと語る。来日したヘッキンジャーに話を聞いた。

本作は2000年製作の『グラディエーター』の続編。ローマ帝国によって愛する者と故郷を奪われた主人公が剣闘士=グラディエーターとして活躍し、ローマ帝国に乗り込み復讐を果たそうとする中で、自身の運命と向き合っていくドラマが描かれる。

本作の主人公ルシアスは、前作の主人公マキシマスを連想させるキャラクターで、シリーズを通して登場する人物もいれば、違うキャラクターだが前作のキャラクターを引き継いでいるような人物も登場する。しかし、本作に登場する双子の皇帝カラカラとゲタは、前作でホアキン・フェニックスが演じた皇帝の息子コモドゥスとはまったく違うキャラクターだ。

リドリー・スコットは続編をつくる上で同じことの繰り返しにならないように、あえて困難な選択肢を選んでいます。だから皇帝も前作にいたタイプのキャラクターではなくて、まったく新しいユニークなキャラクターをあえて出してきた。そこが素晴らしいと思うのです」とヘッキンジャーは語る。

いつも精神的に不安定なカラカラと、満面な笑みを浮かべているが非道なゲタ。この役を演じるためにヘッキンジャーはまず「当時のローマの状況」を調べることから始めたという。

「脚本を読んで、自分の役を分析する前に調査を始めたのですが、それはもう……衝撃的でした(笑)。前作『グラディエーター』が描いていた時代のローマも相当に酷かったと思いますが、本作に登場するローマは手がつけられないぐらい酷い状況になっている。そんなありさまに大きく加担しているのが、双子の皇帝だと思うのです。彼らの無責任さ、強欲さ、堕落した部分がローマの人々や街を酷くしている。皇帝が自覚していないかもしれないけれど、ローマに多大な影響を与えているとわかったことが、結果的に役に入っていく入り口になりました」

カラカラとゲタは双子の兄弟で、共にローマを支配し、お互いを支え合っているように見えるが、時に相手を利用したり、気遣っているように見えて相手を陥れようとしているのではないかと思える瞬間がある。愛情はある。でも、それだけじゃない。ふたりの皇帝の間には本心の見えない緊張感があるのだ。

「それこそが僕たちが目指したことでした。ジョージョセフ・クイン)とは相性が抜群で、最初の段階から意気投合しました。お互いのホテルの部屋を行き来して、時には宅配ピザを分け合いながら(笑)いろんなアイデアを出し合って演技を作り上げていきました。僕たちが出したかったのは“二面性”でした。ふたりはお互いに双子として愛する心はあるんだけれど、ライバル心もあったりして、実際に何を考えているのか本当のところはよくわからない。そこはすごく表現したかった部分です」

ふたりの掛け合いはリズム、トーンともに変幻自在で、緊張感が高まる場面もあれば、まるでコメディを見ているようなテンポで演技が繰り広げられる瞬間もある。

「実際に演じる上ではジョーとの相性がよかったので、言わなくても伝わっている部分が多く、相乗効果で細かい部分まで芝居が出来上がっていったと思います。人生は悲劇と喜劇が混在しているものだと思っていますから、笑えないような状況であってもコメディの要素を入れることで、飲み込めてしまう場合がありますし、人間は相手や場面によって違った表情を見せるものですから、自分の人生の感情形成を振り返って“この人といる時はこんな感情だったな”と思い返したり、考えたりしながら演技をしました。あと、昔のヴォーヴィルなどの喜劇俳優の演技を少し参考にしている部分もあります」

とは言え、双子の皇帝の地位は盤石ではない。ローマ帝国に復讐を誓ったルシアスはグラディエーターとして帝国に乗り込み、彼を導く謎の男マクリヌスは、謀略によって皇帝を操ろうとしている。狂気の皇帝として帝国を支配しつつも、自分たちの足場が切り崩されていることに気づかない。双子の皇帝は本作の重要な役どころだ。

「1作目で描かれる権力争いはわかりやすいものだったと思います。誰が何の座を狙い、そのために誰に取り入ろうとしているのかすぐにわかりました。しかし、本作の場合は腐敗がローマ帝国の隅々まで浸透しているような状態なので、誰が何を狙い、何を目的にしているのかよくわからない状態になっているんです。その複雑さが本作の面白いところで、自分で演じておいてこんなことを言うのも何ですが、カラカラも本当は何を欲しがっていたのか、彼が何に執着していたのか、本当のところは誰にもわからないのです」

繰り返すが双子の皇帝は単なる狂った支配者ではない。極悪非道で強欲だが、謎が残されている。壮大なスケールで描かれるアクション満載の熱いドラマを描く『グラディエーターII』に仕掛けられた”深淵な謎”が、ヘッキンジャーが演じたカラカラなのだ。

「つねにミステリーというか、謎の部分を残した芝居というのは本当に面白かったです」

グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』
11月15日(金) 公開
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