NPO法人IGDA日本SIG-Growthは、東京中央区にあるVIPO内ホールにて、インディーゲームの話題を中心としたセミナー「国境を越え、業界を越える。越境するゲームビジネスの未来」を開催した。

今回は、国・業界の「越境」をテーマにしたセミナーとなっており、日本のゲーム開発者や関係者が海外への感心を高めるとともに、日本と海外のゲーム業界関係者の関係強化を目的に実施されている。

この日行われたセミナーでは、「ゲームイベントの現状と今後」をテーマにした講演やインディーゲーム開発者が登壇したパネルディスカッションの「ゲーム開発者パネル、国内と海外の対話」など様々なセッションがあったが、こちらの記事ではパネルディスカッションの「ゲーム事業に進出する漫画出版社、それぞれの取り組みと今後」をピックアップ。

ゲーム編集者で出版社との関わりの深い斉藤大地氏がモデレーターを担当したほか、講談社片山裕貴氏集英社ゲームズの森通治氏、小学館の小林浩一氏と日本を代表する3つの漫画出版社のゲーム責任者が登壇し、セッションが行われた。こちらの記事では、その模様を一部抜粋してレポートする。

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モデレーターの斉藤大地氏。

取材・文/高島おしゃむ
編集/anymo

講談社ゲームクリエイターズラボ公式サイトはこちら集英社ゲームズ公式サイトはこちら小学館公式サイトはこちら

講談社、集英社、小学館。それぞれの出版社とIPの付き合い方の違いとは

斉藤大地氏(以下、斉藤氏)
片山さんは講談社でギリギリ20代の、若手といって差し支えない元編集の方です。漫画編集やノンフィクション雑誌の編集、さらにスキャンダルのようなものの取材もされたことがある、面白い経歴の方です。

講談社は、社内から編集者経験のある人材を集めてゲームの部署を作ったんです。編集という技法をそのままゲームに転用してオリジナル作品を作っていく、新しい編集部という形でできたのが「ゲームクリエイターズラボ」です。

基本的には国内のインディーゲームクリエイターに編集者として伴走して、全世界に向けて売っていくというのが主なビジネスモデルとして期待されています。

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講談社の片山裕貴氏。

斉藤氏:
集英社ゲームズの森さんは、集英社生え抜きではなく元アップルの方ですね。どちらかというと、ビジネスデベロップメントの方です。

集英社ゲームズは、別のゲーム会社の人材が合流して構成された経験豊富な方の集まりであると考えています。予算の金額も比較的大きい。
輸入も、海外からの買い付けも、輸出も、国内のプロデュースも手がけられています。マーケターもいて、いろんなプロモーション方で、いろんなことをやってらっしゃる……という風に認識しております。

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集英社ゲームズの森通治氏。

斉藤氏:
小学館の小林さんは、みなさん絶対読んだことがあるコロコロコミックの副編集長です。

小学館のゲームの取り組みは、ものすごく『コロコロコミック』らしいんです。自社で作家さんを発掘し、外部の方とゲームを作るだけでなく一緒にプロモーションを考えたりするんです。国内のお客さんに向けて発信して、伝統にのっとってインディーゲームのクリエイターさんとも付き合ってらっしゃいます。

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小学館の小林浩一氏。(今回は、コロコロコミックのキャラクターである『Dr.コバ』の姿で登壇)

斉藤氏:
まず、IPについて各社どのように考えてらっしゃるのでしょうか?講談社さんは最FAIRY TAILという国民的コミックのゲームが何本か出ましたが、そちらはどのようなお付き合いなんですか?

片山裕貴氏(以下、片山氏):
FAIRY TAIL』の企画に関しては、すごく特殊なんです。原作者の真島ヒロ先生が直接ゲームクリエイターズラボの編集部まで来られまして、「自分でお金を払うのでゲームを作ってほしい。それをインディーゲームクリエイターに頼んでほしい」というところから始まったんです。なので、原作者持ち込み企画でした。

斉藤氏:
それって、講談社でよくあることなんですか?

片山氏:
いやないですね。真島さん以外、そういうケースは見たことない(笑)。

斉藤氏:
大変真島さんらしい企画ですね。

余談ですが、真島さんは週刊連載作家にも関わらず、余った時間でゲームを作ったり、ゲームをプレイしたりするっていう伝説的な生産性の人なんですよね。

片山氏:
そうですね。多分、漫画界でも本当にナンバーワンに近いんじゃないでしょうか。ゲームも最近は毎日3時間やってますって、先日おっしゃっていました。

週刊連載は今年6月にEDENS ZEROが終了したのですが、それと同時に『DEAD ROCKという作品を月刊少年マガジンで、マガジンポケットFAIRY TAIL 100 YEARS QUEST』の原作と3作品やられていたので、週刊連載1本、月刊連載1本、それにネーム原作を1本みたいな感じでした。

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(画像はSteamより)

斉藤氏:
え?ちょっと人間じゃないねみたいな感じなんですけど……。そういう方の企画なんですね。もちろん、ゲームからのIP化も狙っていらっしゃる?

片山氏:
もちろんです。インディーゲームクリエイターが作ったオリジナルゲームから小説、漫画、アニメ、グッズと、いわゆるIP化をしていくことが当初からの大きな目標です。

斉藤氏:
集英社ゲームズさんはIPとどのようにお付き合いされていますか?

森通治氏(以下、森氏)
既に販売していて一番分かりやすい企画だと、ボードゲームです。

ONE PIECEBLEACHをはじめ、集英社の人気作品のボードゲームを企画・制作しています。ゲームデザイナーが社内にいることもあり、自社制作で原作版権のボードゲームを展開しています。

少し珍しい切り口としては実績があるボードゲームのクリエイターさんと一緒にゲームデザインを作って、ボードゲームデザイナーさんにもきちんとゲームデザインの印税をお支払いしたり、コラボしたりみたいなこともやり始めています。

まだ発表していませんが、新しい切り口の企画にも取り組んでいまして、これから2年間はどんどん面白いものが出てくると思います。

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(画像はAmazonより)

斉藤氏:
なるほど。つづいて、小学館の小林さんお願いします。

小林浩一氏(以下、小林氏):
「IPを0→1で作る」、「IPを1→100にする」の両方をやっているのは、『コロコロコミック』の特徴的なところです。妖怪ウォッチは1から100にした例ですね。アニメ化する。映画化するとかは、『コロコロ』が絡んでいたから大きくなった部分になります。

「0→1で作る」の例としては、いまYouTubeで月間5000万再生ぐらいされているドラゴン娘になりたくないっ!』というアニメが挙げられます。デュエル・マスターズから生まれた作品で、角の生えた女子高生が主人公なんです。この作品がYouTubeで人気を博しました。

ホビーだと、ベイブレードは『コロコロ』からアイデアを出して、タカラトミーさんと一緒にホビーをつくる、漫画化する、アニメ化した事例です。そういった形で0→1もあれば1→100もあるというのが、IPというものに対しての特徴的な『コロコロ』のあり方かなと思います。

斉藤氏:
ゲームをIP化していくことの苦しみと、IPをゲーム化することの苦しみがあると思います。ゲームとIPを動かすうえで、なにが難しいですか?

片山氏:
これは『FAIRY TAIL』のインディーゲームの場合ですが、Steamのゲーマーと漫画・アニメに親しんでいる方々の間には、結構差があったと思っています。

そのゲームがゲームファンに向けたものなのか、あるいは漫画・アニメのファンに向けたものなのか。もちろん、どっちにも向けていかなければいけないんですけど、どっちにより舵を切るかみたいなところはあると思いますね。

斉藤氏:
率直にいって、ゲーム向きのIPと向いてないIPって、ありますよね?

片山氏:
あります。

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斉藤氏:
どういうものが向いていて、いちばん向いていると判断する要素はなんですか?

小林氏:
昔、僕がサンデー編集部と繋いでCygamesに許諾した作品に烈火の炎があります。サンデー作品の中でもゲーム化しやすいものと、ゲーム化しにくいものがあって、本作はゲーム化しやすいということで許諾したんです。だから、バハムートのエンジンで『烈火の炎』の組み替えっていうのを昔やっていました。

いちばん向いているのは「バトルもの」でしょうか。すごくわかりやすいし、その中でも対戦できるので。

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(画像はCygames公式サイト「『烈火の炎 BURNING EVOLUTION』 Mobageにて配信スタート」より)

片山氏:
ちょっと補足すると、今のはアニメ版権からのゲーム化のお話だと思いますが、実はもうひとつやり方があるんです。

今回の『FAIRY TAIL』ゲームとかもそうだったんですが、原作版権からのアニメ化というケースもあります。ただ、原作版権からゲーム化しても、アニメの制作委員会はもちろんいるので、その方々としっかり話をすり合わせる必要があるところは変わりません。

斉藤氏:
担当編集がアニメ製作委員会とやり取りしなきゃいけなくなるから大変ですね。

片山氏:
いえ、講談社ではそのやり取りはライツの方たちがやっています。なので、ライツ部署には頭が上がりません(笑)

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斉藤氏:
出版社といえどもライツと編集者の関係はそれぞれ違うと思います。ぶっちゃけ、どんな感じなんですか。

小林氏:
うちの場合は、関係は良好なんじゃないかなと思います。

編集の「作りたい」という想いを咀嚼してビジネスに落とし込んでいくとき、想いだけじゃできないところもあります。それをどうサポートするかということを考えている、いい関係だと思います。

斉藤氏:
なるほど。集英社はどうですか?

森氏:
立場上、集英社組織のことを細かくは話しづらいのですが、一般的な情報だけお話しすると、小学館さんと近くて編集部出身がライツの人は多い印象です。もちろん中途採用で積極的に採用も強化しているので人も増えてはいます。他社さん同様にライツ部門はとても重要なので、組織強化している印象です。

斉藤氏:
講談社さんはどうですか?

片山氏:
講談社も、ライツ部門がめちゃくちゃ増えています。プロパーの新卒からいる社員というよりは、中途で別の会社で版権業務をやっていた方たちが特に増えていますね。元編集者が多いかと言われるとそんなこともないし、イーブンというか半々ぐらいじゃないかなという感じですね。

斉藤氏:
ちなみに、借りる側からするとライツ部門を通してIPを借りるのは結構大変なんですよね。作品に近い人とギュッと握って、その後どこに話を通すかとなりますよね。当然、編集者担当作家さんとかと近いところで話した方が、話は早いです。

皆様は出版社ですし、漫画やアニメで結果を出しやすいかと思いますが、わざわざゲームを出している理由はなんでしょうか?

片山氏:
もちろん講談社に限らず、漫画は出版社の大きな収入源です。そうした中で、講談社は社長を含めて「グローバル化」を掲げています。漫画にはグローバル化しやすいコンテンツがたくさんありますが、それらはやはりアニメになって海外に広まることが多いです。

ゲームだとSteamがあるので、直接海外市場に売っていくことができます。さらにそこから「個人のゲームクリエイターが作った作品が世界中で親しまれるIPになっていくといいな」という展望があります。なので、漫画とはまた別の軸を用意したいんです。

森氏:
僕らは大きく言うとふたつあって、ひとつは才能に投資をするという観点でゲームクリエイターを発掘したい。そこから生まれる作品や才能が、新しいIPを生み出してくれます。そしてそれをアニメや漫画にしたりと、いろいろな可能性があると思っています。オリジナルの作品を産むというのは、我々の事業の柱のひとつなので、オリジナルの企画を頑張っているゲーム開発スタジオに投資したり、小規模開発のクリエイターに投資するのは重要な方針だったりします。

もうひとつは、IPの認知をゲーム企画を通して広げるというところです。僕らは出版社のグループ企業だからこそ可能性がいっぱいあると思っていまして、それがエコシステム全体を通しての収益化だと思ってます。

とある作品のゲームの企画をやるかやらないかという判断に悩んだ際に、私は仮にゲームの企画の収益性がギリギリトントンでも挑戦したいと思っています。なぜかというとゲーム企画がちゃんと人気が出れば、周辺のビジネスが動き、マンガ原作自体も動き……と波及していくからです

仮にゲームビジネスがトントンでも、集英社グループ全体で作品全体のエコシステムが動けばいい。これからの時代はグローバル市場を見通してエコシステムを作って、作品を動かし続けることが我々出版社の役目だとすると、世界市場26兆円のゲーム市場は波及効果も考えるとチャレンジしがいがあるなと感じています。

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小林氏:
世の中の流れ、自分たちの武器、お客さんという3軸で考えています。メジャーなAAAタイトルのようなものって、膨大な開発費と時間をかける途方もないものです。それなのにソーシャルゲームだと、初日に失敗したみたいなこともあったりする世界。その一方で、アイデアひとつで100万円もかかってないんじゃないかというものが、人の心を捉えていたりする。

世の中の流れを見ていて、「インディーゲームだったら編集部がやれるかな」と思いました。『コロコロコミック』という媒体の影響力が発揮できる、YouTubeが登録者数260万人、月間で1億2000万再生まで大きくなったので、自分たちの武器を使って広く告知できそうだ、と考えました。制作費も自分たちの範囲で扱えそうだというのもあります。

編集者は紙で雑誌を作る、漫画を作るというところを主務としていましたが、基本的に世の中の動きには敏感だし、「漫画家」というクリエイターと一緒に仕事をしています。「漫画家」と仕事をするようにゲームクリエイターと編集者が一緒に仕事をしたら結構面白いものができるんじゃないかという仮説が出てきます。

コロコロコミック』は小学生を47年間ずっと見てきたメディアなので、子どもたちが虫が好きなことを知っていました。なので、虫を題材にしたカブトクワガタというゲームを作ってヒットさせています。

「IPになる」ってどういうこと?作家性を損なわないまま、作品を世の中に届けるためには

斉藤氏:
IPになるってどういうことで、どんなものがなりやすくて、どうやってIPにするんですか?各社多分秘伝の何かをお持ちだと思いますが、お聞かせいただけますか?

小林氏:
コロコロコミック』だとさっきの3軸(世の中の流れ、自分たちの武器、お客さん)というのはあると思っています。結局いい作品かどうかというのは、編集者ではなくてお客さんが決めるものなんですよね。子どもの小さな熱狂が最初にあって、そこに対してIPを変化させていくというのが『コロコロ』の強みだと思っています。

「ちょっと人気が出たから、もうちょっとこういう方向に変えていこう」といったようなことを、作家さんと一緒に作っていく。漫画がヒットしたからそれをアニメにするのか、YouTubeにするのか、あるいはTikTokでもいいかもしれなくて。そういったものと組み合わせるのが『コロコロ』はとっても上手かなと思っています。

斉藤氏:
つまりそれって何かしら0を1にする火のようなものだと思いますけど、その火ってなんでしょう?

小林氏:
やはり作家性や、その人が伝えたいメッセージなど、結構尖ったものだと思います。それを編集者が丸くはしたくないけど、このままだとちょっと子どもの手がケガするかも……みたいなさじ加減はあります。

どうやったらこの石が輝くのか、ダイヤモンドの輝きなのか、パールの輝きなのか、それを見極めて作家性を理解しながらちゃんと磨いて、人に届くものに変えていくことが仕事なのかなと思っています。

斉藤氏:
ありがとうございます。では、片山さんはいかがですか?

片山氏:
先ほど小林さんから作家性というお話がありましたが、本当に我々もそうだなと思っています。漫画とかインディーゲームは特にそうですが、ひとりの作家さんから出てくる「属人性」みたいなものがめちゃくちゃ高いなと思っているんですよ。

これは講談社の作品ではなくて恐縮なんですけど、ちびまる子ちゃん』の原作って結構シニカルな側面もあるじゃないですか。でも、それがアニメ化するときに、どんどん万人向けでハートウォーミングになっていった。ですが、原作がアニメに合わせて変わっていったかというと、全然変わりませんでした。

ただ原作がなければ、『ちびまる子ちゃん』がああいう形で国民的IPになることはなかっただろうとも思います。コアの部分をしっかり変えずに、ちゃんと世に受け入れられる形で作家や読者とコミュニケーションをとっていく。こういったことが「IP化する」にあたって遠いようで、いちばん近い道なんじゃないかなと思います。

斉藤氏:
そうですよね。『ちびまる子ちゃん』結構原作が過激なところもあるいし、なんならポケモンもかなり初代は薄暗い側面があります。スリーパーは子供さらっていますし、ユンゲラーは元子供ですからね。そういうことを、こうやってさらっとボケるのも編集の仕事ではあります(笑)。

では、森さんお願いします。

森氏:
僕らはキャラクターが大事だと思っています。集英社ゲームズの企画もキャラクター作りをすごく重要視しています。もちろん全部のゲーム企画がキャラクター性がある必要はないんですが、やはりいかにゲームの企画がキャラクターをちゃんと作れるか、それに対して世界観がどう補強してくれるか、といったことを大事にしています。

斉藤氏:
アクリルキーホルダーというアクリルの板を売る「魔力」の話ですね。それこそまさに「キャラクターの魅力」のところだと思うんですけども。その魔力ってなんだと思いますか?

森氏:
人それぞれの推しになれるかどうか」ですかね。家に置きたくなるかとか、何でもいいと思うんですけども、買いたくなる、携帯の壁紙にしたくなるとか、それぞれ趣味趣向……癖(ヘキ)みたいなものに刺さるかどうかというのは、キャラクターの重要なポイントかなと思います。

斉藤氏:
本当に集英社の魂ですよね。とにかくキャラクターを立てる。1にも2にも3にもキャラクターである。僕も聞いていて、これは本当にひとつのクリエイティブの軸であると思います。

それぞれの「編集者の必殺技」などぶっちゃけ話が飛び出しまくりの質問コーナー

斉藤氏:
一番若い片山さんから、各社の皆様へのご質問いきましょう。できるだけ嫌な質問してほしいな(笑)

片山氏:
では集英社ゲームズの森さんに質問です。

集英社さんはゲーム分野で子会社を作ったわけですが、どういった形になったら成功、あるいは失敗と考えているのでしょうか?

森氏:
成功ラインは「事業としての利益化」だと思っていて、頑張っているところです。

斉藤氏:
それは単年黒字ですか?それともすべての累積の経費の黒字化ですか?

森氏:
まずは単年黒字です。その先に累積の黒字化があるので。

事業としてのミッションを背負っている以上、収益を出して集英社グループに貢献をする。これが会社存続のポイントだし、僕は収益化の責任を背負っています。

ゲーム事業は僕が集英社の新規事業担当として社内で3年、法人化して2年が経っています。「なんで、法人化したの?」について補足すると、出版事業とは全く異なる領域の世界で、事業の進め方が出版社と全然違うと感じています。

例えば、ゲーム業界はプロデューサーやディレクターやQAといった専門職種がいたりするんですが、出版社にはそういった職種は存在しないんですよね。なので、出版社とは切り離して、ゲームのプロの人材をしっかり集めないと事業成功を目指せないと思っていました。

僕らはパブリッシャーなので、プロデュースが専門領域だと僕は思っています。ゲームプロデュースができる人材をきちんと採用して、ビジネスの成功をちゃんと積み上げて行く。そのためにも法人化するのはマストだと思っていました。その他にも、宣伝やプラットフォーマーの設定に向き合う人、QAのメンバーなどもプロ人材は重要なのでしっかり採用して組織作りをしています。

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斉藤氏:
人事裁量を手にしたかったから、法人化されたということですか?

森氏:
人事裁量というよりは、ゲームのプロ人材の積極的な採用拡大のためですね。

今うちの会社には約50人の社員がいますが、同じ人数を集英社で一気に採用するとなると、人事制度上ほぼ実現不可能だと思います。法人化したことで人事制度を切り分けて積極的に事業拡大を進められた、というのは圧倒的にスピード感を生み出せたポイントだと思いますね。色々と苦労はありましたが、ようやく黒字化も見えてきました。

斉藤氏:
なるほど、ありがとうございます。「子会社を建てるとなにができるか」っていうことを教えていただきました。

では小林さん、質問お願いします。

小林氏:
ここはライバルの講談社さんに質問しようかと思います。

私たちも“Go Global”をやりたいなって思っています。講談社さんは先に挑戦されていて、めっちゃかっこいいなって思っています。

そこで、Go Globalの出版社の勝ち筋や、果敢に挑戦する中できつい点やボトルネックがあれば教えていただきたいです。

片山氏:
まず、Go Globalの勝ち筋はまだ道半ばなので正直分からないです!

すごく大変というか、いつも考え続けなければいけないと思っていることは、“作家さんから見た時、講談社が伴走するメリットがどこにあるのか”についてですね。

「出版社の強さってどこにあるんだろう……」と考えていくと、紙の本だとやはり書店流通の存在が大きいと感じています。作家さんに対して、私たちのところで本を出すことで書店に並ぶ……というメリットを提示できるわけじゃないですか。

書店にはたくさん講談社の本が並んでいて、その中のひとつとして並べることができます。人の目に触れる機会が多いので、たくさん売ることができます。こういった形で、作家さんに対して自分たちのの強みは説明できますが、ゲームだとそういう風にはいかないなと思います。

講談社は、大きなゲーム会社みたいに国ごとに現地法人が置くことは現時点ではしていません。そんな中でどうやって海外にゲームを届けていくか、いろいろ試しているところです。

そんな中で改めて編集者の存在”が、我々がインディーゲームクリエイターさんに対して提示できる大きなメリットだと思っていますね。

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(画像はSteam『違う星のぼくら』より)

斉藤氏:
ちなみに、IPによるSteamハックはどれくらい効果がありましたか?

片山氏:
FAIRY TAIL DUNGEONS』で感じたのが、やはりSteamのユーザーは漫画の読者とは違って、まずはゲームとしてしっかり面白いということが第一だなと気づきました。ゲームを遊んでいただいて、そこから興味を持って漫画を読んでもらう……ぐらいの方がいいというか。

FAIRY TAIL DUNGEONS』はいわゆるローグライトのゲームなんですが、本作はどっちかというと、『FAIRY TAIL』のファンの方々が遊んでくださったというよりは普通にローグライトのファンが遊んでくださったって感じだったんですよ。「これを機に『FAIRY TAIL』の原作も読んでみます」ってレビューもありました。

斉藤氏:
では、森さんの質問お願いいたします。

森氏:
小学館さんに質問したいんですが、集英社講談社はたまたまですが同じタイミングでゲームの専門チームを立ち上げました。小学館さんは『コロコロ』の編集部の中でゲーム事業をやられていますが、ゲーム事業って専門組織としても本気でやる予定はあるんですかっていう。

斉藤氏:
おお、いい質問ですねー!

小林氏:
会社を背負ってやるかどうかは経営判断なんでわかりませんが……。まず1本ちゃんとヒットが出なければ、後輩は誰もついてこないなっていう気でやっています。

カブトクワガタ』はもともとNintendo Switchダウンロード版でリリースしましたが、幸いなこと任天堂さんからパッケージ版でもリリースされ、販売本数を増やしています。

いまは『ぶっとバード』というタイトルもありますし、この後もゲームを出します。そういう意味では担当編集は真剣だし、「あいつがやるなら俺もやれるんじゃない?」といったムードで次々手が上がってきているので、本気だと思います。

斉藤氏:
まさに『コロコロコミック』がYouTubeに出ていったときぐらい、本気だったんですね。

小林氏:
あ、いつも本気なんです(笑)。

YouTubeを早く始めていたというのは、すごくアドバンテージです。あと、動画を作ったことがない編集者が、動画を作れるクリエイターと組んだら勝てるんじゃないかという説があって……。それが今爆発している感じがします。いいクリエイターさんがいたら、声をかけていただけるとすごく嬉しいです。

片山氏:
そういうときに作家さんに説明する、ヒットの基準ってどのあたりなんですか?

小林氏:
ちょっと恥ずかしいんですが、KPIとか全然立ててないんです。

どちらかというと、ベンチャー企業みたいにやったことがないから正解もわからない。でもやることに意味があるから、「一緒にアドベンチャーに出かけましょう」みたいな感じです。

こういった感じで作品を作っていただいたクリエイターさんとは、LINEでやりとりしたり、しょっちゅう顔を合わせたり、一緒に車で出かけてテントで一泊したり、密なんですよね。数字はあるし、事業計画も立てるんですが、所詮エクセルで算出した目標数字だと思っています。

そんなこと言っていいのかな……。本気の取り組みだから数字は立てますし、それを目標にしていこうと思います。だけど、何が「ヒット」かと言ったら、科学反応が出ただけでもヒットだなって思うし、そういうすごい熱量の高い尖った人と一緒に仕事するのは面白いです。

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斉藤氏:
最後に質問させていただきます。

皆様、各職種のプロフェッショナルでいらっしゃる編集者であり、ビジネスデベロップメントです。なのでぜひ聞かせていただきたいんですが……、皆様の必殺技を教えていただけますか?

小林氏:
やりたいことがある、口説きたい人がいるという時にアドレナリンが出るので、基本的には情熱ドリブンで行きたいんですけど。それが根底にありつつ、「世の中がこういう動向だから」とか、人が反論しにくい事実を集めてロジカルに資料に落としていくことですかね。

本当はパッションがめちゃめちゃ発動しているんだけど、そこでロジックに落としていくという“冷静と情熱の間”みたいなものは、武器だと思います。

斉藤氏:
「社会があなたを求めているんです」ってことを聞かせるんですね。

小林氏:
そうです。ちゃんとそれを「そうかもな」って思える事実を付け足して、否定しにくい形のプレゼンをやります。

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(画像はMy Nintendo Store『ぶっとバード』より)

斉藤氏:
やっぱり一角の人というのはこういった違う側面をちゃんと持っていて、それが技なんだと僕は感じました。では、森さんの技を聞きたいです。

森氏:
仕事の上の得意技という技はあまりないのですが、僕はいかなる手段を取ってでも、実現を目指す。実現させるために行動に移すことですかね。

どんな偉い人にも臆せずちゃんと説明にいくし、多少は空気を読めてないよなと思っていても、基本的には諦めないです。普通に考えて、事業会社の新規事業でゲーム会社を立ち上げますというのは頭おかしいことをやっている自負はあるのですが、一度NOだと言われたくらいじゃ引き下がらず、粘り強く説明して、納得してもらう。

決裁者にかわいがってもらうような立ち振る舞いをする。大きな予算を任せていただくための、そういう「偉い人対応」をきちんと頑張れるみたいなところは、ある意味技なのかもしれないなと思います。

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(画像はSteam『都市伝説解体センター』より)

斉藤氏:
森さんはこういう得意技がある人なんですよね。じゃあ、片山さんの必殺技は?

片山氏:
先ほど斉藤さんのご紹介にもあった通り、ノンフィクション週刊誌の出身なんですがその頃から変わらないなと思うのが「自腹を切ることを厭わない」

斉藤氏:
講談社らしい!解説します、講談社は給料が高いです!

片山氏:
そんなことないです!(笑)

作家さんはフリーランスでやっていて、ある種人生かけてやっているってところがあるんですね。

一方で我々はサラリーマンなんですが、作家のためにはサラリーマンを超えなきゃいけないという気持ちがあって。そのためにできることは自腹を切るだけではないんですが……。それぐらいの気持ちで、場合によっては迷いなく切れるっていうのが、いくつかある方法の中でも、一番本気だとわかってもらえるのかなと思っています。

斉藤氏:
これがやっぱり、出版社がコンテンツを扱う秘訣なんですよね。これくらい理性を超えたことを、クリエイターは求める瞬間があって、それに答えるというのが編集者の技なんですよね。


講談社集英社、小学館と、それぞれ「出版社」という立場こそ同じものの、まったく異なるエピソードが飛び出した本講演。ぶっちゃけ話も数多く飛び出し、ゲームだけに止まらず、コンテンツを取り扱う編集者としての在り方にまで迫る、非常に濃密な時間であった。

インディーゲームだからこその色濃い作家性を持った作品、莫大な人気を誇るIPを原作とする作品、その両方を取り扱ってきた各社だからこそ、これからの展開に期待が高まる。

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