長年付き添った夫婦。老後のことはしっかりと話し合っておきたいものですが、不完全であるケースも珍しくありません。きちんと話し合っておかないと、かく必要のない恥をかくこともあるようです。
老後について、夫婦で話し合ったことはありますか?
株式会社LIFULL seniorが40歳以上の男女に行った調査では「老後について、夫婦で話し合ったことはありますか?」の問いに対して、「ある*」が58.3%。
*しっかり話し合っている、少し話し合ったことがあるの合計
また老後で不安を感じている問題と、実際に話し合った問題について聞いてみると、不安のトップは「健康・病気」のことで65.2%。続いて「看病・介護」が43.3%、「生活資金」が42.9%と続きます。一方で実際に話し合ったことのトップも「健康・病気」で45.3%。続いて「生活資金」が38.3%と続きます。
【パートナーとの老後で不安がある問題/実際に話し合った問題】
健康・病気について:65.2%→45.3%
看病・介護について:43.3%→29.4%
生活資金について:42.9%→38.3%
住まいについて:21.2%→32.4%
財産管理・相続について:17.8%→21.9%
片付け・所持品の整理について:16.1%→17.7%
お墓について:15.1%→26.2%
不安に感じることと、実際に話し合った内容の差に注目すると、「健康・病気」は20ポイントほどの差がありますが、「生活資金」についてはわずか4ポイントほどの差。健康や病気に不安は夫婦で話し合ったところでなかなか解決できませんが、生活資金の不安は基本夫婦でどうにかするしかありません。だからこそ、不安をストレートに伝え合うことが大切といえるかもしれません。
伊藤恵子さん(仮名・66歳)の場合、夫とは老後については話し合ったことは「ない」の少数派。「きちんと話し合っていたら……」。実は伊藤さんの夫・隆さん(仮名)、先日、69歳で急逝。心筋梗塞だったといいます。
――高血圧だったから、気をつけないとはいっていたんです
隆さんも恵子さんも、完全に仕事を引退したわけではなく、週に2~3日ほどの勤務で、(夫婦で)月15万~20万円程度の収入があったとか。年金以外の収入があったからこそ、いまだに老後という意識が薄く、きちんと話し合ってこなかったのではないか。恵子さんの、いまさらながらの分析です。
よく耳にする「遺族年金は亡くなった人の年金の4分の3」の真意
家族が亡くなったとき、残された家族への保障はそれぞれですが、より多くの人を対象とした公的な保障が遺族年金。老齢年金に由来する遺族年金は、国民年金に由来する遺族基礎年金と、厚生年金に由来する遺族厚生年金の2種類があります。
遺族基礎年金は子育て世代を対象としたもので、子に関する受給要件があります。一方、遺族厚生年金には子の要件はなく、子育てを終えた年金世代の人たちも受け取ることができます。
遺族年金を受け取るには自分で手続きをしなければなりません。その期限は、「生計維持関係にある人が亡くなった翌日から5年」。年金を受け取る権利である基本権の時効は5年であり、5年以内に手続きを行えば、未支給分含めさかのぼって受け取ることができます。
請求書の提出先は最寄りの年金事務所、または年金相談センターへ。
そこでちょっとしたひと悶着があったと、伊藤さんは振り返ります。それは手続きのために年金事務所を訪れていたときのこと。自身がどれほどの遺族年金を受け取れるのか、確認したところ、「月に5万円弱になりますね」との回答。そこで伊藤さん、「思っていたよりもずいぶんと少ない。計算、間違えていませんか?」と聞き返したといいます。
――遺族年金は亡くなった人の年金の4分の3と聞きました。夫は月20万円くらいもらっていたので、月15万円になるはずです。もう1回計算してください
確かに、遺族年金は亡くなった人の年金の4分の3とよく目にします。しかし、その説明、少々文言が省かれていて誤解を招く原因に。正しくは「①遺族厚生年金は亡くなった人の老齢厚生年金の4分の3」。また自身も老齢厚生年金を受け取っていれば、「②亡くなった人の老齢厚生年金の2分の1と、自身の老齢厚生年の2分の1」と比較して、高いほうが受給額。さらに自身の老齢厚生年金分は全額支給で、その分は支給停止となります。
恵子さんがもらっている年金は月12万円。ざっと計算していくと、当初考えていた金額の3分の1という結果に。
①(20万円-6.8万円*)×3/4=9.9
②(20万円-6.8万円)×1/2+(12万円-6.8万円*)×1/2=9.2
*令和6年度 老齢基礎年金満額受給の場合の金額
①>②なので、遺族厚生年金の受給額は9.9万円。ただし恵子さんの老齢厚生年金5.2万円は全額支給となり、その分、遺族厚生年金は支給停止。受け取れる遺族厚生年金は4.7万円となる
――そういうルールなんです。ご理解ください
応対してくれた年金事務所の担当者の冷静な対応。恵子さんは、ただ遺族年金の仕組みを知らない人でしかないという顛末。しっかりと老後について話し合っていれば、「遺族年金は亡くなった人の年金の4分の3」という勘違いもしなかったのに……思い出すと、恥ずかしくて顔から火が出そうだといいます。
[参考資料]
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