2024年現在、アメリカが保有する大型爆撃はB-52H、B-1BB-2の3機種ありますが、そのうちB-1Bだけは戦略核兵器の運用能力がないため、戦略爆撃機に指定されていません。なぜそうなったのでしょうか。

核戦略の三本柱から外されちゃった

1970年代ロックウェル(現ボーイング)が開発したB-1Bランサー爆撃機。その雄大な姿は冷戦時代から続くアメリカ空軍の象徴のひとつとして記憶に深く刻み込まれています。しかし、この巨鳥は誕生当初から半世紀経った現在まで、その役割を大きく変化させており、その間「戦略爆撃機」と呼ばれる機種ではなくなっています。

B-52ストラトフォートレス」やB-2スピリット」といったアメリカ空軍で同列に扱われることの多い大型爆撃機が、いまだ大陸間弾道ミサイルICBM)、潜水艦発射弾道ミサイルSLBM)と共に核抑止の「三本柱(トライアド)」を構成する一角として「戦略爆撃機」の称号を保ち続けている一方、B-1Bはその一角から外れています。

その理由は極めてシンプルなもので、実はB-1Bは戦略核兵器を搭載することができないからです。なぜ、B-1Bは戦略核兵器を搭載できないのでしょうか。その答えは、米露間の「新戦略兵器削減条約(NEW START)」という国際条約に見ることができます。

この条約は、核弾頭と運搬手段の保有数に制限をかけ、核戦争の危険性を減らすことを目的としたもので、具体的には戦略爆撃機ICBMSLBMの合計数700機(基)以内、核弾頭数1550発以内まで削減することを義務化しています。

アメリカは、B-1Bをこの条約の対象外とすべく戦略核兵器(AGM-86B ALCM巡航ミサイル)搭載能力を削除し、年1回ロシア側が指定した機体の査察を受け入れることで透明性を担保しています。こうした政治的な事情から、B-1Bは戦略爆撃機ではなくなったのです。

改良によって現代戦を体現する軍用機へ

では、戦略核兵器を搭載できないB-1Bは、どのような任務を担うようになったのでしょうか。

2024年現在、B-1Bは近接航空支援という、地上部隊の要請に応じて対地攻撃を行う任務をメインにしています。近接航空支援は、通常A-10サンダーボルト攻撃機F-16ファイティングファルコン戦闘機といった比較的小型で機動性の良い機種が担うことが多いです。しかし、B-1Bは、現代戦に対応できるようネットワーク化されたことで、この任務に最適な能力を発揮するようになりました。

B-1Bは、ネットワークを通じて、地上部隊から送られてくる標的の座標をリアルタイムで取得できます。そして、その座標に向けて精密誘導爆弾を投下します。この一連の動作は、B-1Bの高性能なコンピューターと、最新鋭の通信システム、センサーによって支えられています。

B-1Bの強みである長大な航続距離と大きな爆弾搭載量は、近接航空支援機における重要な能力である長時間のロイタリング(滞空)に最適です。無給油で半日近くパトロールを行うことができる同機は、地上部隊の要請に対して迅速に対応することが可能で、理論上、たった1機のB-1Bで数十機分の攻撃任務をこなせるといいます。

また同機は可変後退翼を備えるため、本来の設計では超低空を亜音速で進攻し、巡航ミサイルを発射することを目的としていました。この任務こそ戦略爆撃機としてふさわしいものだったのですが、近接航空支援という新たな任務を見つけることでその存在意義を再確認し、ネットワーク化された現代戦場における地上部隊と空軍の連携を象徴する存在となっています。

単刀直入にいえば、B-1Bの「戦術爆撃機化」は、21世紀における軍事技術の進歩の代表的存在であるネットワーク化された戦場へと変革が進んだ代表例ともいえるでしょう。

離陸するB-1B「ランサー」爆撃機(画像:アメリカ空軍)。