2040年には高齢化ピークを迎え、認知症患者が584万人に達するという厚生労働省の推計が示す通り、家族や本人の財産管理は喫緊の課題です。こうした状況下で、「成年後見制度を活用すれば財産を守れる」という情報を目にすることも少なくありません。しかし、実態はそう単純ではありません。家族が後見人になれないケースや、専門家を巡るトラブルの増加など、制度には多くの課題が存在する、と後見制度の問題に取り組む「後見の杜」代表の宮内康二氏は言います。本稿では、宮内氏の著書『認知症になっても自分の財産を守る方法』(講談社)から一部抜粋・編集し、後見制度の実情とトラブルを避けるための知識を解説します。

 家族が後見人になれない……?

 

「成年後見制度」という言葉を銀行で初めて聞いた、という方は少なくありません。ほかにも、保険会社、不動産業者、老人ホーム、地域包括支援センター(在宅介護サービスのよろず相談所)などから言われて成年後見制度の存在を知るのが一般的です。

成年後見制度には、自分で後見人を決める「任意後見制度」と家庭裁判所が後見人を決める「法定後見制度」がありますが、銀行などがすすめるのは「法定後見制度」です。法定後見制度は問題が多くておすすめできませんが、参考までに法定後見制度を使う流れをざっと紹介します。

まず、認知症高齢者など、後見人がつく人(被後見人)の戸籍、印鑑証明、住民票を役所から取得します。病院へ行き、成年後見制度が必要なほどの精神状態であるという専用の診断書をもらいます。

どうして成年後見制度が必要なのかを裁判所に知らせるために本人の生活状況を書きます。どの銀行にいくらある、どの保険に入っている、不動産はどこにあるなどの財産一覧表を作成し、年金や家賃などの収入額、食費・水道光熱費・医療介費・税金など1年分の支出額を書きます。

また、自分自身が老親の後見人になりたい場合、自らのプロフィールを書きます。どこで生まれ、どこで学び、どこで働いているか、年収・健康状態・家族構成、後見人になったら本人の財産をどのように管理し、本人の医療や介護をどう手配するかなどの活動予定を書きます。

このような申請書類を受けつけた裁判所は、「本人に対する面接」「後見人候補者への面接」「本人の能力をより正確に調べるための精神鑑定」の三つを行うことになっています。

しかし、裁判所の「手続き飛ばし」が増えており、いきなり結果の通知が来ることも少なくありません。

なぜ「見ず知らずの人」が後見人になるのか?

添付の漫画では、家族が後見人になれるというから申請したのに、結果的には、見ず知らずの人がお父さんの後見人になりました。どうして、見ず知らずの人が後見人になるのか。それは、成年後見制度は需要に対して供給過多の状態にあるからです。

楽して稼げるとでも思っているのか、「後見ビジネス」に参入している弁護士、司法書士社会福祉士、その他の「士業」が増えています。

この人たちに仕事を出さないといけないと考える裁判所は、後見人になることが可能な家族を差し置き、裁判所に営業登録している弁護士などに案件を提供します。その際、保有預貯金額が高かったり、不動産売却や相続が見込まれたり、すなわち、後見人報酬額が割高になる案件が提供されることになっています。

「金にならない案件は家族に回せばよい」という考えが裁判所にあるのでしょうが適切な運営とは言えません。

後見人から通帳などを引き渡すよう求められても、「本人に頼まれているから渡せません」と反発するご家族は少なくありません。すると、後見人は、お父さんの代理人として容赦なく家族を訴えます。

「不当利得返還請求」といって、不当に利益を得ているから返還せよという内容の裁判ですが、当のお父さんが、「妻や子どもに何でそんなことをするんだ」と怒っても、「被後見人となったあなたは無能力者、あなたの発言に意味はありません」と冷淡に無視するでしょう。

これが、法で定める後見制度、すなわち、法定後見制度を使ったことで生じる最初のトラブルの実情です。

宮内 康二

一般社団法人 後見の杜 代表

画像:PIXTA