何か嫌なことがあった時は心を許せる人に話をするのが効果的だ。だがそういった相手がいないとき、AIチャットボットに頼ってみてもいいかもしれない。

  新たな研究によると、AIはそうした愚痴を聞き共感するよき話し相手として、人間のメンタルヘルスを支えてくれる可能性があるそうだ。

 シンガポールの研究者によると、AIへ感情のぶつけることで、怒りや苛立ちといった強いネガティブな感情を軽減する可能性があるという。

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感情をぶちまけることで怒りを発散させる「ジャーナリング」法

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 何か嫌なことがあったとき、心を許せる人に話を聞いてもらうだけで気持ちが軽くなったという経験は誰にでもあるだろう。

 あるいは、むしゃくしゃした気持ちを文章で紙やパソコンに書き綴ってスッキリするという人もいるかもしれない。

 「イライラしたとき、誰かに聞いてもらい、ただ頷いてもらうだけで大きな慰めになります」と、シンガポール・マネジメント大学博士課程の学生フ・メイラン氏は語る。

 このように人に感情を吐き出したり、文字で感情を吐き出すかで、心を落ち着かせる方法を「ジャーナリング」という。

 これは昔から多くの人々がやってきたストレス発散方法だ。

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話を聞いてもらったっり、書き綴ることで感情を発散させるジャーナリング Photo by:iStock

話し相手がいないのならチャットボットAIが力になってくれる

 だが人々の孤独感が強まっているとされる現代社会では、もしかしたらそのような話し相手がいないと感じている人もいるかもしれない。

 ならば、今の嫌な気持ちをチャットボットAIに聞いてもらってはどうだろう?

 ChatGPTに代表されるAIは、音声会話機能も搭載され、今やほとんど違和感なくおしゃべりができるくらいにまで進化した。

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 そんな機械に話を聞いてもらうか、文章を投げかけることで、共感してもらえば、もしかしたら人間相手に感情をぶちまけるよりもスッキリするかもしれない。

 なにせAIは嫌な顔一つせず、何時間でも愚痴に付き合ってくれるのだから。

Photo by:iStock

聞き上手なAIは怒りやイライラの発散に有効

 メイラン氏率いる研究チームは、シンガポールの大学生150名を集め、AIを使ったハイテク・ジャーナリングか、文章を書き綴るというジャーナリングを試してもらい、どのくらい気持ちが軽くなるのか調べてみた。

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 具体的には、最近あったイライラや不満について10分間、文章を書き綴るか、AIに会話を聞いてもらうか、どちらかを参加者にやってもらった。AIは会話の中で共感を示すよう設定されたもので、どんな愚痴でも優しく受け止めてくれる。

 果たしてどのような結果になったのだろう?

 実験後に回答してもらったアンケートによると、AIに愚痴ると、ただ文章で感情を入力するだけよりも「怒り」や「イライラ」といった嫌な気分が和らぐことがわかった。

 こうしたスッキリ効果の違いについて、AIが一人一人に合わせてきちんと対応したことが参加者に安心感につながったからではないかと、研究チームは考察している。そのおかげで、参加者は自分の感情をうまく吐き出すことができたのだ。

誰かに話を聞いてもらいたいのなら、AIチャットボットはいい選択肢になるかもしれません(フ・メイラン氏)

 実際にスイスの教会では、AIによるイエス・キリストホログラムが、告解をしに来た信者の悩み事を聞く試みを始めているが、一部の人は心が軽くなったという。

ただしAIは悲しみを癒すことはできない

 だがAIは決して万能の話し相手ではないようだ。

 怒りやイライラといった頭に血が昇るような感情をうまく解消できても、「悲しみ」のような沈んだ気持ちにはあまり効果がなかったからだ。

 こうした感情の場合、文章で書き綴ってもAIでもスッキリ効果に特に差は見られなかった。

 その理由については、感情をぶちまけるときまず頭に思い浮かぶのは、怒りなどのカッカとした感情で、悲しみのような感情には触れられないからではないかと推測されている。

 またどんなに聞き上手なAIも、それによって参加者の孤独感を和らげてはくれなかった。

 どうも参加者は心の片隅で相手が人間ではなくAIであるということ認識していたようで、そのせいで誰かから支えられているという感覚を得られなかったのかもしれないという。

参加者は、生き物ではない相手との会話であると認識していたため、感情的なつながりを感じにくかったのかもしれません

この点は、会話をもっと本物らしく、かつ意味のあるものにする方法を模索する将来の研究領域を示唆しているでしょう(フ・メイラン氏)

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いつの日か、AIで人間の心を育む時代が来る?

 今回の研究では、怒りやイライラといった嫌な気分を解消するうえで、AIは良き話し相手になってくれるだろうことが確認された。

 その一方で、悲しみや孤独感といったネガティブな感情を軽減するうえで、AIがそれほど力になれないことも明らかになっている。

 さらに一時的な感情の解消ではなく、長い目でみたときにAIのサポートがどれほど心を癒してくれるのかもわかっていない。

 こうした点が今後の研究課題であるとのことだ。

 だが、メイラン氏はただAIに慰めてもらうだけでなく、それで人間の心を育むというさらに先の未来をも見据えている。

 「感謝や自分への思いやりを育むなど、AIで人生のほかの側面をもサポートできるような方法を探りたいですね」と、メイラン氏は語っている。

 この研究は『Applied Psychology: Health and Well-Being[https://iaap-journals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/aphw.12621]』(2024年11月4日付)に掲載された。

References: AI-assisted venting can boost psychological well-being, study suggests[https://www.psypost.org/ai-assisted-venting-can-boost-psychological-well-being-study-suggests/]

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