資産に余裕があり、悠々自適な老後を送っていても、ある日突然平穏な日々を失うことがあります。夫婦、親子など当事者同士の関係はよくても、そこへお互いの親族が絡んだトラブルが舞い込むケースは少なくありません。親族トラブルには、生涯にわたっての注意が必要でしょう。本記事では、高橋さん(仮名)の事例とともに、老後の親族トラブルについてFP相談ねっと・認定FPの小川洋平氏が解説します。
突然の義妹夫婦、義両親との同居
高橋美智子さん(仮名/69歳)は、夫の一郎さん(仮名/71歳)と老後の生活を謳歌していました。美智子さんの父は資産家で、父が遺した高級タワーマンションを受け継ぎ、十数年前から住んでいます。美智子さんも長年大手企業に勤務し、収入も高かったため年金は月額22万円。ゆとりの老後を送ることができていました。
ところがそんなある日、マンションのインターフォンが鳴りました。インターフォンに映ったのは大量の段ボールを抱えた夫の妹の里美さん(仮名/69歳)とその夫でした。突然の訪問に驚きつつも扉を開けると、里美さんは「今日からお世話になります」と驚きの言葉を発したのです。
なんと、義妹夫婦が住んでいたマンションが老朽化のため取り壊しになってしまい、住まいを失ったため、しばらく住まわせてほしいということだったのです。夫の一郎さんにはすでに話をしてあるとのことだったのですが、美智子さんにとっては寝耳に水の話。
ひとまず室内に招き入れた美智子さんでしたが、慌てて一郎さんに尋ねてみたところ、子供達も巣立って部屋も持て余しているし、一時的ならばと許可をしたとのこと。美智子さんに話すのをすっかり忘れていたといいます。
さらに、驚いたことに妹夫婦は親、つまり美智子さんの義両親も一緒に連れてきていたのでした。そもそもは美智子さんの家であるのにもかかわらず、自分になにもいわずに許可した一郎さんに対して美智子さんは怒り、猛反対。夫婦はしばらく口論になりましたが、ほかに行くところがないという義妹夫婦と義理の両親を前に追い返すわけにもいかず、「しばらくのあいだだけだからと」となだめられ、美智子さんは渋々ながらも義理の家族を迎え入れることに同意しました。
こうして突然の義理の妹夫婦、そして義理の両親との同居生活がスタートしました。
無法地帯と化したタワマンの一室
はじめのころこそ遠慮していた里美さん夫婦でしたが、次第に慣れ始めてきたせいか好き勝手を始め、美智子さんはその生活態度が段々気になるようになってきました。また、持ち込んだ段ボールの山は、里見さんたちの部屋だけでは収まらず、リビングにも積み上がり、いつまでも片付けようとする気配はありません。
また、義両親は足が不自由で、常に誰かが家にいなければ不安な状態です。お構いなしに出掛ける里見さん夫婦の代わりに美智子さんが気にしなければならないことが増え、負担となってしまっていたのでした。
「いつ出ていってくれるの?」と夫に尋ねるも、「そんなに俺の家族を追い出したいのか!?」と怒り始めるため、会話になりません。直接義妹夫婦と話をするも、老後の資金計画をまるで考えておらず、資産もほとんどないためにのらりくらりと話題を逸らし、しっかり話し合いもできません。
そんな関係性が半年ほど続き、ついに美智子さんと一郎さんの夫婦関係にも亀裂をもたらし、離婚問題に発展してしまったのでした。
夫婦双方がひかず、収拾がつかない問題に
両親が資産家でタワマンも美智子さんの名義でしたので、弁護士を介して夫と義理の家族に対してタワーマンションから出ていくことを要求し、受け入れてもらうことができました。
しかし、離婚に反対する夫はなかなか離婚に同意してくれず、認める条件としては美智子さんの資産の半分の財産を要求。これまで堅実に貯めてきた資金を持つ美智子さんにとっては、一郎さんがいなくても経済的には特段の問題はありません。反対に一郎さんにとっては、住居を失うだけでなく、資産のない妹夫婦と両親を抱えての別居ですので、自分の資産の2,000万円程度ではこれからの生活に不安が残ります。そのため、美智子さんが資産を築くことができたのは自分の収入があってこそと、財産分与を申し出てきたのでした。
一方で、美智子さんからすれば、若いころから仕事の傍ら家事、育児をこなしてきたのは自分です。さらに、美智子さんの両親から譲ってもらったタワマンがあったからこそ夫もこれまで資産を築くことができたと、考えていますので、自分の資産を渡すなど到底できません。
それから1年半が経過し、結局は夫側が折れる形で解決したのでした。ストレスから解放されて平和な生活を取り戻すことができた美智子さんでしたが、本当は夫婦2人で生活していきたいと考えていただけに、1人で過ごすタワマンの一室は、余計に広く感じています。
家族間のトラブル
今回の問題は夫の一郎さんが美智子さんに断りなく家族を自宅に招き入れてしまったことはいうまでもありません。大事な家族とはいえ、配偶者にとってはもともとは赤の他人。別居していれば適度な距離感を保ち良好な関係を維持できたことでしょうが、不同意なまま同居することになっては信頼関係を壊してしまっても無理はないでしょう。
こういった家庭問題が理由で離婚に至るケースも珍しくはないようです。2021年の司法統計年報家事編によりますと、婚姻関係事件のうち「家族親族と折り合いが悪い」と回答した件数は4,871件になり、全体の8%が相手の家族とのなにかしらのトラブルになっていることがわかります。
義妹夫婦が自分達の生活設計をしっかり考えておくことは当然として、夫の一郎さんも本当に家族のことを思うのであれば、安易に家へ招き入れるのでは問題の解決になりません。どうすれば自立して生活ができるのか、ともに考えてできる部分は協力し、美智子さんにも相談して、お互いによい関係性を保てるように考えていればこんな結果にはならなかったでしょう。
そして、お金のことを「なんとなく」で考えてしまっていると家族関係を壊してしまうことにも繋がってしまいます。自分達の将来のお金のことを自律して考えることが必要です。
小川 洋平
FP相談ねっと
CFP
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