天空の城ラピュタ』や『となりのトトロ』などで知られるスタジオジブリ。その書籍から無断で切り取った絵が、一部の店舗やオンラインショップで『著しく高額な値段』で売られているなどとして、同社が「看過することはできない」と注意を呼びかけている。

ジブリ12月9日、公式サイトで「当社から発売されている書籍等から無断で切り取った図柄、絵画を額装等し、著しく高額な値段を付して販売している事象が発生していることを確認しています」と指摘した。

そのうえで、こうした行為について「当社の著作権その他知的財産権を侵害し得るものであり、当社としては当該行為に一切関与しておらず、民事及び刑事の両面での厳正な対処を講じる方針であることを、ここにお伝えします」としている。

老若男女問わずファンが多いジブリとあって、今回の呼びかけには注目が集まっている。一方で、専門家からは「著作権侵害にあたらないのでは?」という意見もあがっている。一体、どういうことなのだろうか。著作権にくわしい高木啓成弁護士に聞いた。

●書籍を「複製」しているわけではない!?

――書籍等から無断で切り取った図柄、絵画を額装して販売することは「著作権侵害」なのでしょうか?

著作権は、著作者創意工夫して作った著作物を、他人が無断で複製(コピー)したり、公衆送信(放送やインターネットなどで不特定多数の人が視聴可能な状態にすること)したりすることを禁止することができる権利です。

ですので、著作権者に無断で、イラストをコピーして販売したり、インターネット上にアップロードした場合は「著作権侵害」になってしまいます。

ただし、書籍から切り取ったイラストを額装に入れて販売する場合、その書籍を複製(コピー)しているわけではありません。そのため、こうした行為は、著作権侵害にはなりません。

著作者人格権の侵害にもならない!?

――書籍からイラストを切り取っている以上、著作者の意に反して著作物を改変しているように思えます。この点には問題はないのでしょうか?

著作者は、著作権に加えて、「著作者人格権」という権利ももちます。著作者の意に反して著作物を改変することは、この著作者人格権のひとつである「同一性保持権」という権利の侵害になります。

ただし、今回のケースで、同一性保持権の侵害になるのか、とても難しいところです。具体的に、ジブリの書籍がどういう種類の書籍なのかわかりませんが、たとえば、そのジブリの書籍がイラスト集のようなものだとしましょう。

イラスト集は、その書籍自体が一つの著作物というより、そこに掲載されている個々のイラストが著作物です。

ですので、その書籍のうちの一つのイラストを切り出したとしても、それは、複数の著作物の中から一つの著作物を切り出したにすぎません。

そのため、著作物を改変しているわけではなく、同一性保持権の侵害にはならないと考えられます。

もちろん、そのイラストの一部をトリミングしたりすると同一性保持権の侵害になりますが、そうでない以上は適法です。

同一性保持権の侵害になるのはどういうケース!?

――そのイラスト集は、人の創意工夫により選別されたイラストが編纂されている以上、そのイラスト集もまた一つの著作物となるのではないでしょうか?

たしかに、一つ一つのイラストに加えて、そのイラスト集も「編集著作物」として、一つの著作物として認められる可能性はあります。

しかし、同一性保持権の侵害になるのは、「あの著作物の表現が改変されているぞ」とわかるような方法で改変する場合です。

編集著作物の場合、たとえば、そのイラスト集に掲載されている複数のイラストのうちの一つだけをまったく別のイラストに差し替えて出版するような場合は、「あのイラスト集が一部改変されているぞ」ということになり、同一性保持権になると考えられます。

しかし、そのイラスト集のうちの一つのイラストを切り出して、単体で販売したとしても、「あのイラスト集の表現が改変されているぞ」ということにはならないですよね。

ですので、やはり同一性保持権の侵害にはならないと考えられます。

――では、ジブリの書籍が、イラスト集ではなく、テキストとイラストが組み合わさった絵本のようなものだとしたらどうでしょうか?

この場合、その絵本全体で一つの著作物になると思われがちですが、実は、テキスト部分と、各イラストは、別々の著作物だと考えられています。

なぜなら、その絵本のうちのテキスト部分だけを読み物として利用することができるし、一つ一つのイラスト部分も、一つのイラストとして利用することができるからです。

ですので、その絵本の中の一つのイラストを切り出したとしても、複数の著作物の中から一つの著作物を取り出したにすぎず、著作物を改変したことにはならないのです。

ちなみに、マンガ(吹き出しのテキストとイラストの組み合わせがコマ割りになっているもの)については、絵本の場合とは異なり、各コマのイラスト一つ一つがそれぞれ単体の著作物なのかどうなのか、明確な考え方はありません。

あるマンガを引用する際に、コマの配置を変更するような改変が加えられたことについて、同一性保持権の侵害を認めた裁判例がありますが(「脱ゴーマニズム宣言事件」)、これはイラストの配置の改変というよりも、テキストも含めての文脈が改変されたことに同一性保持権侵害を認めたものなので、マンガの一つのコマだけを切り出した場合に、同一性保持権の侵害が認められるかは別問題だと思います。

●イラストの画像をオンラインショップにアップしてたら!?

――ジブリの書籍から切り出したイラストをオンラインショップで販売する場合、そのイラストの画像を無断でインターネット上にアップロードしています。これは著作権侵害にならないのでしょうか?

これについては著作権法に規定があり、そのイラストの所有者が販売や貸与の申し出のためにインターネット上にアップロードすることは、画素数に一定の制限はありますが、適法とされています(著作権法47条の2)。

ジブリの書籍の購入者は、その書籍の所有者であり、また、当たり前ですが、その書籍の中のイラストが掲載されている各紙面の所有者でもあります。

ですので、書籍の購入者が、イラストが掲載されている紙面を販売するために、その紙面を切り出して、その紙面に掲載されているイラストの画像をオンラインショップにアップロードすることも、この規定により適法となります。

今回のケースでは、ジブリの具体的な法的主張が明らかにされていませんので一概にはいえませんが、「著作権法」的には、かなりハードルが高いように思います。

【取材協力弁護士】
高木 啓成(たかき・ひろのり)弁護士
福岡県出身。2007年弁護士登録(第二東京弁護士会)。映像・音楽制作会社やメディア運営会社、デザイン事務所、芸能事務所などをクライアントとするエンターテイメント法務を扱う。音楽事務所に所属して「週末作曲家」としても活動し、アイドルへ楽曲提供を行っている。HKT48の「Just a moment」で作曲家としてメジャーデビューした。Twitterアカウント @hirock_n
事務所名:渋谷カケル法律事務所
事務所URL:https://shibuyakakeru.com/

スタジオジブリ激怒「看過できない」 イラストの切り抜き販売は「著作権侵害」なのか?