22年前に野生では絶滅してしまったハワイガラスを再び本来の生息地で飛び回ってもらうための挑戦が始まった。

 保護施設で育ったメス2羽とオス3羽が、再導入のため野生に放たれたのだ。

 ハワイで「アララ」と呼ばれるハワイガラスは、同州固有の鳥類で唯一のカラス科。他のカラスとは違う独特な声で鳴き、道具を使える賢さや魅力的な一面から、先住民の間では先祖や精霊のように敬愛されている。

 しかし悲しいことに、この種はすでに野生下では2002年に絶滅したとされ、現在は保護施設で飼育繁殖下にある100羽あまりが、”最後の生き残り”となっている。

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マウイ島でハワイガラス5羽を放鳥

 2024年12月4日、5羽のハワイガラスが、マウイ島のキパフル森林保護区に放鳥された。

 この放鳥は、ハワイガラスの復活と種の保存への大きなステップになる。

 再導入を見据えて放鳥されたのは5羽。2羽はメス、3羽はオスで、放たれる前の数ヶ月間を鳥類保護センターで一緒に過ごし、社会的に強い絆を築いてきたグループだという。

 なるほど、見ず知らずのメンバーといきなり外に放り出されるとかじゃなくてよかった。よく知ってる仲間同士ならまだ心強いもんね。

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野生に放たれる準備が整ったハワイガラス2羽 image credit:Hawaii Department of Land and Natural Resources

先住民から敬愛されていた貴重なハワイガラス

 カラス科カラス属のハワイガラス(別名 ʻalalā :アララ)は、ハワイ諸島に固有のカラスだ。学名はCorvus hawaiiensisで、英語ではHawaiian Crowと呼ばれる。

 体長は45センチほど。全身が黒く、光沢のある羽毛に包まれている。

 彼らはとても知能が高く、木の枝など道具を駆使して餌を見つけ出すことでも有名だ。また、他のカラスとは違う独特の鳴き声で、その鳴き声が「アララ」の由来になったんだそう。

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 ハワイガラスは、ハワイ文化でも大切な存在で、「精霊」のように敬っている人もいる。

 またこの鳥は先住民の人々の間で、祖先の魂の象徴であり、森や自然との深い結びつきを示す存在とも考えられている。

 ハワイガラスの野生復活プログラムは、こうした背景からも、深い文化的意義を持つものになる。

サンディエゴ動物園野生生物同盟のスタッフが解説。道具が使えるハワイガラス(アララ)の様子 Rare crow shows a talent for tool use

ハワイガラス絶滅と復活の取り組み

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 ハワイガラスが最後に野生で目撃されたのは2002年。ハワイ島でのことだ。それきり目撃情報もなく、自然では絶滅したと考えられている。

 絶滅の原因は複数あるとされ、外来植物の増加や大規模な放牧、森林伐採などによる生息地の喪失や狩猟、外来種による捕食、感染症などがあげられている。

 だがカリフォルニア州を拠点とする国際的な非営利保全組織、サンディエゴ動物園野生生物同盟をはじめとする複数の団体は、ハワイガラスの復活を目指し、何年も取り組みを続けてきた。

ハワイガラス image credit:U.S. Fish and Wildlife Service, Public domain, via Wikimedia Commons

準備を含め多くの協力で実現

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 サンディエゴ動物園野生生物同盟は、この日のためにハワイガラスたちの食物探知能力や捕食者への反応を評価するなどして、放鳥する鳥を選ぶなどの準備を進めていたという。

今回の放鳥は、種の保存の重要な一歩であり、生物多様性の損失を逆転させるパートナーシップの重要性を示すものです (サンディエゴ動物園野生生物同盟の保全科学副代表、ミーガン・オーウェン博士)

 さらに地元の獣医師による5羽の健康チェックのほか、米国魚類野生生物局、ハワイ州土地天然資源局森林野生生物部門、ハワイ大学など数々の組織や機関の長年の協力のおかげで放鳥の実施が叶ったのだ。

ハワイガラス 2016年撮影 image credit:Minden Pictures/Alamy

放鳥による影響は監視中

 今回の放鳥について、絶滅危惧種の鳥類の保護とリハビリを行う、マウイ鳥類保護センターの鳥類回復スペシャリストのケアニニ・アロナさんは、ハワイガラスの文化的重要性だけでなく、この種の鳥と環境との関係についてもコメントしている。

アララは私たちの祖先であり、私たちの文化にとって非常に重要な存在です。アララがいない森林などありえないのです

 ハワイの森から長らく失われている「アララ」がふたたび戻ってくれば、なんらかの相互作用で周りの森林や豊かになったりするかもしれない。

 実はこうした試みは2016年から2020年にかけて、ハワイ島の自然林保護区でも行われたが、そちらはうまくいかなかったという。

 30羽を放ってみたところ、最初は順調だったが、数年後に減少し始めたため保護下に戻し、ハワイ島での取り組みは一時停止してしまったそうだ。

ハワイガラス(アララ)復活を目指す科学者の取り組み Scientists Try to Revive ‘Extinct’ Bird Native to Hawaii

 というか、生まれて初めて外の世界で暮らし始めた5羽にしてみれば、サバイバル体験真っ最中になっていたりするんだろうか。

 現在は久しぶりに野生に出たことでどんな影響が出るかも含め、5羽の様子を監視中とのことだが、いつかハワイのあちらこちらで、賢い彼らのふるまいを見たり、変わった鳴き声を楽しめるようになったらいいな。

References: Hawaiian crow that went extinct in the wild decades ago released on Maui[https://www.theguardian.com/us-news/2024/dec/05/hawaiian-crows-alala-maui] / Hawaiian Crow That Went Extinct in the Wild Decades Ago Released on Maui[https://www.goodnewsnetwork.org/hawaiian-crow-that-went-extinct-in-the-wild-decades-ago-released-on-maui/]

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